相手を傷つけてしまったとき、素直に謝りたいのに、なかなか言葉が出てこない、という経験はありませんか? 「ごめんなさい」を軽やかに伝えるにはどうしたらいいでしょうか。書籍『「ごめんなさい」の練習』よりポイントをご紹介します。
※本稿は、林健太郎著『「ごめんなさい」の練習』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
相手は、どんな顔をしている?
まずは、相手から出ている「不快サイン」に気づくことからはじめましょう。いかにすばやく「あっ、相手を不快にさせたかも」とピンとくるかが勝負です。不快サインに気づくには、「動きをとめて相手を見る」ことが必要不可欠です。
なぜ、動きをとめる必要があるのでしょうか。たとえば、相手から「いいですよ」と言われたとします。スマホ片手に相手の顔を見ずに言葉を受けとれば「Yes」の意味ですが、顔を上げたら鬼の形相だったということもありえるからです。つまり、表情や状態を目視しないと、相手の感情は意外とわからないのです。
相手を見るときに大切なのは、「口の動きも完全にとめる」ことです。私たちの口からは、つい反射的に「でも」「だって」「しょうがなかった」が出てくるので、眼球以外のすべての動きを一度ストップさせるくらいでちょうどいいでしょう。
たとえば、相手が出す不快サインには、次のようなものがあります。
⃝不快サインの一例
・表情が曇る、不機嫌な態度を示す
・「えっ......」「あ〜」など戸惑った反応がある
・「それって、どういう意味!?」など攻撃的な返事をされる
・「どうして○○したの!?」と尋問調になる
・会話がとまる、返事をしなくなる
まずは、このような不快サインを察知する習慣を身につけていきましょう。
「申し訳ない」という深刻さは必要ない
相手から出ている不快サインに「あっ」と気づいたら、すかさず「ごめんなさい」を伝えていくのが次のステップです。
そのとき、「ごめんなさい」は「淡々と」伝えてみてください。「淡々と」というのは、「バケツリレー」のようなイメージです。一列に並んだ人が水の入ったバケツを次々と渡していくものですが、前の人から渡されたバケツを、あまり深く考えないままに次の人に渡せば、あなたの役割はおわりですよね。そんなイメージを持つと「ごめんなさい」はうまくいきます。
深刻になってしまうと、発想が「相手と自分、どっちが悪いか」という「大きなごめんなさい」の方向に、ぐっと傾いてしまいます。これでは「ごめんなさい」を言うハードルが一気に上がってしまい、なかなか言葉が出てきません。
ちょっとオーバーな言い方になりますが、「ごめんなさい」に「申し訳ない」という感情をのせずに、息をするように、ただ言葉を発するだけでOKです。
「小さなごめんなさい」は、目の前の相手のことをただケアする言葉で、「Oops, did I do something?」(あっ、私、なんかしちゃった?)のイメージ。「こちらが悪うございました」という深刻さは必要なく、とりあえず言ってみるくらいの軽い感じでちょうどいいのです。「申し訳なさ」よりも、いかにすかさず伝えるか。なによりスピードが大切です。
相手の言葉が途切れる瞬間を待つ
相手にすかさず伝えることが大切といっても、「ごめんなさい」をはさむタイミングが難しい場合もあると思います。相手が黙っていたら、そのまま「ごめんなさい」を伝えればOKですが、相手が話しつづけている、というより怒ってまくしたてているパターンもあるでしょう。
「今のなに!?」「どういう意味!?」「よくそんなこと言えるよね!」「なんでいつもそうなのかな。だいたいあなたは......」といった感じです。
そんなときは「会話のすきま」を探してみましょう。相手の言葉が途切れる瞬間、文章のおわりの句点「。」を待ってみてください。どんなにまくしたてていても、文章のおわりでは一瞬、言葉が途切れます。その一瞬の「。」をめがけて、「ごめんなさい」をポンと投げこむイメージです。
「。」を探す目的は、相手の言葉をさえぎらないことにあります。相手がしゃべっているところにかぶせるようにして「あ〜ごめん、ごめん! もうしないから」なんて言ってしまうと確実に失敗します。
それでは「小さなごめんなさい」ではなく「うるさいな〜。もう黙ってよ」とほぼ同じ意味になってしまい、相手をますます不快にさせてしまうのです。たとえ、最初の「。」で「ごめんなさい」を伝えられなくても大丈夫です。「ごめんなさい」のチャンスは、何度もやってきます。
最初の「。」を逃したら、次の「。」を待ってみる。それも逃したら、また次の「。」を待つ。あせらずに、相手の言葉が途切れる瞬間を待ってみましょう。相手の言葉をさえぎることなく「ごめんなさい」を伝えられたらクリアです。
相手を不快にさせたことだけを謝る
「ごめんなさい」を言いやすくするコツは、すべてについて謝るのではなく、責任範囲を限定して「相手を不快にさせたことだけを謝る」ことです。
私は現在、2人の子育ての真っ最中なのですが、2人がけんかをして、それを仲裁することがあります。そのときに、たとえば、弟のほうに「お姉ちゃんに謝ってほしいな」と私が伝えると、彼は謝りたくないオーラを全身から出します。「僕は悪くない!」と自分を守る気持ちを優先してしまうのです。
そんなときでも、「まずは、お姉ちゃんが『やめて』と言ってるのに、やめなかったことだけ謝ってみる?」と提案すると、すんなり受け入れてくれることがあって驚きます。子どもの世界においても、範囲を限定すると謝りやすいようです。
どちらが悪かったかはひとまず置いておいて、相手を不快にさせたことは間違いないので、そこについては「ごめんなさい」を伝えてみてください。逆に言うと、謝るのは相手を不快にさせたことに対してだけ。それ以外は謝らなくていいし、「申し訳ない」と思う必要もありません。
「悲しい気持ちにさせてごめんなさい」(ほかは知らないけど)
「がっかりさせてごめんね」(ほかは知らないけど)
「言い方が悪くてごめん」(ほかは知らないけど)
こんな感じです。ただし、あくまでもイメージなので、くれぐれもカッコ内の言葉は声に出さないよう気をつけてください(笑)。
また、自分のせいで相手を不快にさせたような気はするけれど、なんで相手が怒っているのかわからないという場合は、こんな言いまわしも使えます。
「不快に感じさせていたとしたらごめんなさい」(本当の感情は知らないけど)
こんなふうに伝え方に含みを持たせておくと、たとえ謝り方のツボをはずしてしまったとしても、そのあとの会話のなかで相手が感じていることを聞くきっかけをつくることができます。ぜひ、試してみてください。