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独り言は脳に良い?悪い? 脳科学者が解説する意外な効果

毛内拡(脳神経科学者)

2024年11月19日 公開 2024年12月16日 更新

独り言は脳に良い?悪い? 脳科学者が解説する意外な効果

ひとりのとき、思わず出てしまう独り言。脳神経科学者の毛内拡さんは、独り言は脳に良い影響を与えると語ります。『PHPスペシャル』より、毎日を快適に過ごすために、独り言との上手なつきあい方について、ご紹介します。(取材・文:加曽利智子)

※本稿は、『PHPスペシャル』2024年12月号より内容を抜粋・編集したものです。

 

独り言を発するのは人間だけ!?

嬉しくて思わずひとりで「よかった!」と声を上げたり、忙しすぎて誰もいないところで「疲れた~」とつぶやいたり......。みなさんにも、そんな経験があるのではないでしょうか。

じつは、聞いてくれる相手がいない状況にも関わらずひとりで声を出す生物は、人間の他に、あまり見られません。生物が声を出すのは、自分の縄張りを周囲にアピールする、メスへ求愛するなど、コミュニケーションが目的であることがほとんどなのです。

人間は、他人とコミュニケーションをとるためだけでなく、心のモヤモヤを解消したり思考を整理したりするためにも、言葉を発します。

たとえばイライラしたときに、「わー!」と大声を出すだけで、気持ちがスッキリすることもありますよね。この記事では、そんな人間ならではの言葉とも言える「独り言」が、私たちにどのような影響をもたらすのか、探っていきたいと思います。

 

脳は「音」で状況を把握する

まずは、脳の特性から説明しましょう。

脳は報酬(※快感をもたらす刺激)を求める器官です。基本的には行動し続けることで、次から次へと報酬を生み出そうとします。

一方で、目や耳から仕入れた情報をもとに自分の状況を把握し、行動を制御しているという特性もあります。つまり、人が何らかの行動を終わらせるためには、それが完了したことを音声などで脳に伝え、これ以上同じ行動を続けないように仕向ける必要があるのです。

たとえば、目標を達成して「やったー!」と独り言を発したとします。すると脳は、期待していた場所に自分が到達したことを認識し、そこでようやく「今までの行動は完了した。次に進もう」と、行動を切り替えられるのです。

独り言には、他にも多くの効果があります。ひとりで過ごす時間を上手に使って、脳をコントロールしていきましょう。

 

独り言がもたらす4つの効果

私たちが普段、意識せずに口にしている独り言には、たくさんの効果があります。

 

①「自己効力感」が高まる

「これが終わったら、次はあれをやって......」など、行動する前に予定をつぶやくと思考が整理され、その後の行動がスムーズになります。予定通りに動けると達成感を得られ、「自分ならできる」という「自己効力感」が高まります。それが自信につながるのです。

 

②理想が現実になる

日頃から口に出している夢や理想は、叶いやすいと言われています。心理学用語で「自己成就予言」の法則と言いますが、これは、目標が音声で脳に届くことで行動が変わるから。人にはあまり話せないような夢も、独り言として言葉にすることで、実現に近づきます。

 

③問題が明確化する

漠然とした不安や悩みがあるときに、「何が変わればいいのかな」などと、ひとりでつぶやいていると、悩みの原因が少しずつ明確になっていくものです。原因となっている問題がわかれば解決方法も見つかりやすくなり、心がスッキリします。

 

④バイアスを矯正する

脳には、経験による思い込みによって、無意識のうちに自分に都合のいい情報ばかりを取り込んでしまう癖があります。「あれ?」「ほんとに?」などと、声に出して疑問を脳に届けることで、脳が情報の偏りに気づき、思い込みが矯正されます。

 

独り言の効果を高めるために

脳には「変化するものに着目する」という性質があります。そのため、独り言の効果を高めるためには、毎回できるだけ違う言葉をつぶやくことがポイントです。

最近は、何でも「ヤバい」と言う人がいます。しかし、ボキャブラリーを増やして、いろいろな言葉で表現するほうが、脳は独り言をキャッチしやすくなります。

また、読書をするときに音読すると、バイアスを矯正する効果が高まります。本に書いてあることをそのまま読むのと合わせて、「この文章は何を伝えたいのかな?」「この考え方はおもしろい」などと独り言をブツブツつぶやいてみましょう。思考が整理されて記憶にも残りやすくなり、視野が広がります。

 

独り言が多い人の特徴

抑圧されていない環境にいる人や、リラックスした状態にある人には、独り言が多い傾向があります。普段は独り言を言わない人でも、ひとりで運転している車の中や、トイレの個室などでは気持ちが解放されて、思わずポロッと独り言をつぶやいてしまうことがあるのではないでしょうか。

また、クリエイティブな仕事をしている人も、独り言をよく言います。たくさんのアイデアについて考える過程で、独り言によって思考を整理していると考えられます。

 

脳にいい独り言

無意識で出るものだけが独り言だと思われがちですが、ひとりでつぶやけば、それは立派な独り言です。ここで紹介する独り言を、ぜひ取り入れてみてください。

 

\わからない/

自分が抱えている問題を明確にするきっかけとなる言葉です。「何でうまくいかないのか、わからない!」などとつぶやくことで、脳が原因を探し始め、解決策が見えてきます。

 

\○○しよう/

忙しいときは、タスクを声に出して言いましょう。思考が整理され、具体的にどのように進めていけばいいのか、脳が模索しやすくなります。焦っている気持ちを落ち着ける効果も。

 

\ラッキー!/

ツイていることがあるたびに、「ラッキー!」とつぶやきましょう。スーパーで食材が安くなっていた、電車で座れた、友人から久しぶりに連絡が来たなど、どんなに小さなことでもかまいません。口に出すことで、さらなる幸運が引き寄せられ、期待していたことが現実になっていきます。

 

\もうダメだ/

一見ネガティブな言葉に思えますが、現状を打破したいときにはおすすめです。脳が「行動をリセットして仕切り直したほうがいい」と判断し、解決に向けて背中を押してくれるでしょう。ただし、ダメじゃないときに嘘をついてまで言う必要はありません。

 

\大丈夫、なんとかなる!/

こうであってほしい、自分の身に起こってほしいと思うことは、積極的に口に出すようにしてください。他にも「コミュニケーション上手になる!」「幸せになる!」などと、言い切ることがポイント。人前だと恥ずかしくて言えないことでも、ひとりなら安心して口に出せるはずです。

 

\何かモヤモヤする/

私たちが健やかに生きていくためには、自分の気持ちを素直な言葉で脳に届けることがとても重要です。とくに人に言いにくいようなネガティブ感情は放置せず、問題があるという現状を脳に把握させてください。「悲しい」「悔しい」「つらい」などの言葉もためこまず、吐き出してOKです。

 

周りも嬉しくなる独り言

基本的に独り言は自分に対して言うものですが、独り言を発するのは、ひとりのときとは限りません。独り言を聞いた周囲の人も笑顔になれたら、それが一番いいですよね。

部下からの提出物や家族からのプレゼントなどを見るときは、「さすがだな」「すごい」などと素直につぶやくと◎。自分を含め、その場にいる全員の気持ちが明るくなり、次の行動へのモチベーションにつながります。

 

脳に悪い独り言

過去を悔いたり、未来を無駄に心配したりするような独り言は、脳を疲弊させてしまいます。意識して控えるようにしましょう。

 

\ツイてなかった/

「自分自身の力では、どうすることもできなかった」と脳に認識させて、その結果、自己効力感を下げてしまう言葉です。うまくいかなかったのが本当に偶然であったとしても、わざわざ口に出す必要はないでしょう。

 

\ごめんなさい/

これは厳密には独り言ではありませんが、あえて言わせてください。何かあるたびに「ごめんなさい」とつぶやいてしまうのは、必要以上に脳が自分を責めてしまうため、おすすめできません。たとえば「何から何までしてもらって、ごめんなさい」なら、「全部やってくれて、ありがとう」に変換を。

 

\また、やってしまった/

過去は変えられないもの。過去を振り返り、後悔を重ねるような台詞は、脳に悪影響を与えます。何かに失敗したときは、あくまで現状を整理するための独り言にとどめ、「また」などと過去の失敗まで振り返らないようにしましょう。大切なのは、過去よりも「今」です。

 

\悪いことが起こったらどうしよう/

今ある感情や、具体的な悩みを口に出すのはOKですが、まだ先の未来を悪いほうに予測し、不安を口に出すのは、脳を混乱させるだけ。考えたところでどうにもならないうえに、その言葉が現実になる可能性を高めるからです。未来のことを口に出すときは、ポジティブな内容に限定してください。

 

独り言を味方につけて人生を楽しもう

脳は「自分の内面と向き合っているとき」に成長すると考えられています。自分と向き合うと言っても、難しいことをする必要はありません。ひとりでボーッとしている時間で、無意識に脳が自分と向き合い、自分に関する情報を整理・処理しているからです。

実際、ひとりで入浴や散歩をしているときにパッとアイデアを思いつくことは、よくあります。ひとり=孤独、さらに「孤独は悪いもの」と捉えている人もいますが、脳の働きから見たら、孤独こそチャンスなのです。寂しさを感じたときは、独り言をつぶやいてみてはいかがでしょうか。素敵なひらめきが生まれるかもしれません。

また、私たちは日々、大量の情報にさらされています。パソコンで調べものをしたりテレビを観たりするのはもちろん、何もしなくてもSNSやメールなどの通知が昼夜問わず来る現代社会において、脳が疲弊している人が増えているのも事実です。脳の疲れやネガティブ感情をためこまないためにも、独り言と上手につきあって、人生をより豊かにしていきましょう。

 

【毛内拡(もうない・ひろむ)】
東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程修了。博士(理学)。理化学研究所脳科学総合研究センター研究員などを経て、2018年よりお茶の水女子大学基幹研究院自然科学系助教に。脳神経生理学と生物物理学を研究する傍ら、脳についての知見を動画や書籍などで発信している。『面白くて眠れなくなる脳科学』(PHP研究所)など著書多数。

 

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