1. PHPオンライン
  2. くらし
  3. 寝た気がしない...自律神経の専門家が指摘する「睡眠障害を招く習慣」

くらし

寝た気がしない...自律神経の専門家が指摘する「睡眠障害を招く習慣」

小林弘幸(順天堂大学医学部教授)

2023年12月25日 公開 2024年12月16日 更新

寝た気がしない...自律神経の専門家が指摘する「睡眠障害を招く習慣」

寝たいのに眠れない、眠りが浅くすぐに起きてしまう...。現代人の多くが睡眠にまつわる問題を抱えています。しかし、その原因は日々の習慣にあるかもしれません。医師の小林弘幸さんが、よく眠るためにするべきこと、やめることについて紹介します。

※本稿は、小林弘幸著『「ゆっくり動く」と人生が変わる』(PHP文庫)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

睡眠不足は自律神経の最大の敵

自律神経の研究を進めるごとに、睡眠の重要性を痛感させられます。もっといえば、心身の余裕=「ゆっくり」のリズムを作り出せるかどうかは、睡眠の質にかかっているといっても過言ではないのです。

食事や運動を含め、どんなに体にいいことをしていても、質のいい睡眠がとれないと、その瞬間に、自律神経のバランスは崩れてしまいます。私も若い頃は、若気の至りで、「三日三晩寝なくても大丈夫」ということを誇らしげに語っていたものですが、それは、本当にまったくの誤りなのです。

徹夜して短期的にはうまくいくこともあるかもしれません。しかし、昔話の「うさぎと亀」ではありませんが、長期的に人生で成功を手にするのは、ゆっくり、よい睡眠をとった人なのです。

では、なぜ睡眠不足だと、副交感神経の働きが下がり、心身のパフォーマンスが下がるのでしょうか。

自律神経のバランスは、ほうっておいても、一日のなかで変動します。普通は夕方から夜にかけて副交感神経の働きが上がり、やや副交感神経優位の状態になります。

しかし、徹夜で仕事をしたり、夜更かしをしたり、本来なら副交感神経が優位になる時間帯に交感神経を刺激する=興奮することばかりをしてしまうと、副交感神経が上がるタイミングを失ったまま、朝の時間帯になってしまいます。

すると、血管は収縮し、体は興奮状態のまま。ですから、横になっても「頭が沍えてよく眠れない、眠りが浅い」という状態になってしまいますし、心身のパフォーマンスも、ガクンと下がってしまうのです。

みなさんも、徹夜明けに、まるで自分がスローモーション映像のなかの人物になったかのように、あるいは、すべての動きがプールのなかにでもいるかのように鈍く遅く感じられた経験があると思いますが、それも、たんに疲労だけではなく、睡眠不足によって副交感神経の働きが下がり、血流が低下し、脳の機能が低下したことから起こる現象なのです。

ですから、とにかく夜は、副交感神経の働きを上げること、そして、それによって質のよい睡眠を十分にとることを心がけていただきたいと思います。

とくに寝る前の1時間、興奮は禁物です。どんなに好きでも、強い刺激があったり、心を大きく動かすような映画やドラマや音楽を鑑賞すること、あるいはネットサーフィンを長時間すること、あるいは長電話で愚痴などのネガティブな話をすること、さらには強い光の照明や激しい運動も禁物です。

なぜなら、それらはすべて、副交感神経を下げ、交感神経を上げてしまうからです。最近、よく言われる「睡眠障害」も、よく分析してみると、これらのことをしている人に多く見られるということがはっきりわかっています。

夜疲れた脳でやる3時間の仕事よりも、質のよい睡眠をとったあとの1時間の仕事のほうが質量ともにだんぜん優っていると考えて、早めに切り上げる。そして、寝る前の1時間は、暗めの光のなかで、ゆっくり穏やかに明日の準備をする。

どうぞ、寝る前の1時間はぜひ、この2つを心がけていただきたいと思います。そうすれば、高価な寝具を買わずとも、みなさんの睡眠の質は必ず高まり、ゆっくりいいリズムの生活に変わっていくはずです。

 

健康に美しくなれる「究極の入浴法」

一日の終わりにお風呂に入る。つまり、入浴も、自律神経の安定には絶対に不可欠なものです。

そして、自律神経を整えるためにもっとも理想的なのは、39~40度のちょっとぬるめのお湯に、15分つかること。さらに詳しくいえば、最初の5分は首までつかり、残りの十分はみぞおちぐらいまでつかる。本当に、これが究極の入浴法です。

なぜなら、実験の結果、これほど血流がよくなり、それでいて直腸温度を上げ過ぎず、体の深部体温を38.5~39度という、自律神経にも体全体にももっともいい適温に保ってくれる入浴法はないからです。

そして、この入浴法を実践することで、副交感神経はスムーズに上がり、質のいい睡眠へとシフトチェンジしてくれます。また、入浴後、コップ一杯の水を飲むと、脱水症状も防げて、血液の状態もさらによくなります。

つまり、自律神経的にいえば、夜寝る前の入浴の最大の目的とは、体をきれいに清潔にすることではなく、自律神経のバランスを整え、いかに自分の体を質のいい睡眠にもっていくかということなのです。

ですから、熱すぎるお風呂は、私としてはまったくおすすめできません。

42度ぐらいの熱めのお風呂が好きな方もけっこういらっしゃいますが、私からすると熱すぎます。なぜなら、そういう熱すぎるお風呂は、交感神経の働きを急激に上げ、血管を収縮させ、血液をドロドロにし、結果、高血圧や脳卒中などを引き起こしかねないからです。

お風呂も、「ゆっくり」がポイントです。ぬるめのお湯にゆっくり、ゆったり半身浴する。それが最高です。ただ、あまり長すぎるお風呂も、かえって脱水状態を引き起こしてしまうので、15分がベストです。

また、シャワーだけというのは、本当に避けていただきたいと思います。たとえ夏でも、シャワーだけでは深部体温を下げてしまいます。そうすると副交感神経の働きがガクンと下がるので、質のよい睡眠のためには好ましくないからです。

 

「リラクゼーション型睡眠」と「緊張型睡眠」の違い

4~5時間しか寝ていないけれど、朝起きると、意外と疲れがすっきりとれている。逆に、けっこうな時間寝たはずなのに、朝起きると体がだるく疲れがとれていないと感じる。

私は、前者を「リラクゼーション型睡眠」、後者を「緊張型睡眠」といっています。リラクゼーション型睡眠がとれると、副交感神経の働きが高まっていますので、自律神経も体も、すべてはいい方向に向かいます。寝ているとき、心も体もすーっと力が抜けて、解放されています。

一方、「緊張型睡眠」では、副交感神経がうまく機能していないので、寝ていても、血管は収縮したまま、体全体も興奮状態で、力が入ったまま、だから起きても疲れがとれていないのです。

そして、現在は、残念ながら、「緊張型睡眠」の方がとても多く、それがいわゆる「睡眠障害」につながっています。なかなか寝付けない、なんとか寝ても眠りが浅い、さらには夜中に何度も目が覚める──という状態を引き起こしているのだと思います。

そんな緊張型睡眠は、本当に自律神経の大敵です。

でも、大丈夫です。それも、寝る前のちょっとした心がけで、必ず改善できるのです。先ほども少し述べたように、寝る前に、交感神経の働きを上げるものを避けるようにしてください。

たとえば、ひとりでの深酒をやめる。たとえば、夜の長電話をやめる。たとえば、眠る直前に観たり聴いたりするものを、できるだけ気楽に、穏やかに楽しめるものにする。さらには、照明もできるだけルクスを落とした暗めのものにする。

そうすれば、ストレス多き、つまり副交感神経の働きを下げるものがあふれている現代社会においても、みなさんは、きっと、緊張型睡眠から脱して、子供の頃のような、健やかなリラクゼーション型睡眠に変われるはずです。

そして、ゆっくりすてきな朝が迎えられる──。

ただし、それでも夜中に何度もトイレで目が覚めるという方は、睡眠の質だけでなく、膀胱炎といった病気の可能性もあるので、一度きちんと医師に診断してもらうことをおすすめします。

 

関連記事

アクセスランキングRanking

前のスライド 次のスライド
×