なぜ空き家は増え続けるのか? 「バブル期の別荘地、人口減地域からの撤退戦」
2025年03月05日 公開

近年問題になり始めた「空き家」の増加。相続した実家や別荘を手放したい時、どう処理したらいいのだろうか? 解体工事のプロによる解説を、書籍『建設ビジネス』より紹介する。
※本稿は、髙木健次著『建設ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)を一部抜粋・編集したものです。
実家を取り壊すときはどうしたらいい? 解体工事のプロに聞いてみた
「実家が空き家になったときどうする? 解体ってどこに頼めばいい?」
そんな疑問に答えてくれるのがXで「もふもふライオン (@mofumofu_LION)」(以下、ライオン)のアカウント名で発信を続けるライオンさんです。ライオンさんの「中の人」は解体工事会社の経営者ですが、個人的な活動としてSNS経由で全国の解体に関する相談に乗っています。今回は社名や本名を明かさないことを条件に取材に応じてくれました。「皆さん実名の中、ライオンですいません(笑)」だそうです。
別荘と蜂と熊
最近はどのような相談が多いのでしょうか?
「『両親が亡くなって相続したバブル期の別荘を解体したい』など個人の方からの相談が多いです。もちろん実家の解体の相談もありますが、人口が減っている地方が多いですね。
人が住まない別荘は荒れます。まず蜂など害虫が巣をつくり、それを餌にする熊などが近づいてきます。そうすると近隣の方に危険が及ぶ。そうなる前に解体したいという相談ですね。
そういう物件は不動産としての価値もほとんどないので、不動産業者も相談に乗れない(乗りたくない)ケースも往々にして見受けられます」
ライオンさんの話を聞くと、「バブルや人口減地域からの撤退戦」が始まっているのがわかります。
新築住宅やリフォーム工事は仮にトラブルになっても国土交通大臣指定の相談窓口があります。しかし解体はそういう窓口がまだ整備されていません。見兼ねたライオンさんが本業の合間にボランティアでやっている状況です。
「多くの個人の方は地元の不動産会社に問い合わせますが、不動産の人も解体のプロではないので、実は困っています。だいたい不動産会社は地元の解体業者に問い合わせるケースが多いですが、意外にも、最近は不動産会社からSNS経由で私宛に連絡があります」
別荘や実家の解体はどのように進めるのでしょうか?
「家具家電などの家財、衣服は一般廃棄物となり、解体業者は引き取れません。家財をご家族に先に片付けていただき、その上で建物を解体します」
廃棄物処理法では事業活動で生じた廃棄物を産業廃棄物(産廃)、それ以外の家庭ごみを一般廃棄物(一廃)と定義しており、法令上の扱いが異なります。解体業者は産廃処理の行政許可を持っていることが多いですが、一廃の処理にはまた別の行政許可が必要なため、法令上、家財を引き取ることはできないのです(両方の許可を持つ会社もあります)。
そのため、解体前の家財整理は、家族で行うか、解体業者とは別の遺品整理業者に頼むケースが増えています。最近は税理士法人と連携した家財整理業者(整理に加え、遺品の中の文化財などの鑑定を行う)も業績を伸ばしています。
身寄りのない独居者が亡くなった場合、不動産管理会社、行政が対応することになります。
私が話を聞いた「特殊清掃」(遺体の腐敗などでダメージを受けた室内の現状復旧をする専門業者)の会社によれば、コロナ禍以降「孤独死」に関係した依頼が増えているとのことでした。
事故物件(孤独死など何らかの原因で前居住者が死亡した経歴のある不動産)専門の「成仏不動産」というサービスを展開する不動産会社もあります。
空き家はなぜ増える?
空き家がなぜ増えるのか、ライオンさんに聞きました。
「空き家が増える背景を税制から説明します。固定資産税・都市計画税(どちらも不動産を所有していると発生する税金)は空き家でも発生します。
しかし、固定資産税の特例により、人が住んでいない空き家は税金が通常の6分の1に安くなります。空き家を解体し、更地にすると建物の固定資産税はなくなりますが、特例がなくなるため、土地の固定資産税は6倍になり、トータルの税額負担が増えます。『ある程度管理していれば空き家を解体しない方が税制的には得』なんです」
そうすると空き家を放置する人が増えるのではないでしょうか?
「そこで2014年に制定され、2023年に改正されたのが『空き家対策特別措置法』です。『建物の倒壊のリスクがある』『ごみの放置などで害虫、害獣が増え、地域住民の生活に支障が及ぶ』など管理不十分とされた空き家は固定資産税の特例がなくなり、税負担が6倍になります。『空き家を放置すると税金が6倍になる』と言われる理由です。そうなる前に実家や別荘を中古物件として売却する、解体するなどの対応が必要になります」
実家の空き家問題は税、不動産、廃棄物処理、解体の知見がある人に相談する必要がありますね。
解体の品質
「新築住宅と違って解体の品質は目に見えにくいですが、解体工事には建設業許可はもちろん、建築や産廃処理の知識が必要であり、近隣住民対策もしながら安全に解体するのは高度な技術が必要です。
また、産廃処理費用もかかっています。『相見積でとにかく安く!』と値段だけ安い業者を探す人もいますが、安い業者は不法投棄など違法行為に走っている場合もあります」
とライオンさんは「とにかく安く」がもたらす弊害を教えてくれました。実際に、不法滞在外国人を雇い、関係ない周りの家まで破壊する違法解体業者の問題も最近は報道されることが増えています。
【髙木健次(たかぎ・けんじ)】
クラフトバンク総研所長/認定事業再生士(CTP)。1985年生まれ。京都大学在学中に塗装業の家業の倒産を経験。その後、事業再生ファンドのファンドマネージャーとして計12年、建設・製造業、東日本大震災の被害を受けた企業などの再生に従事。その後、内装工事会社に端を発するスタートアップであるクラフトバンク株式会社に入社。2019年、建設会社の経営者向けに経営に役立つデータ、事例などを発信する民間研究所兼オウンドメディア「クラフトバンク総研」を立ち上げ、所長に就任。テレビの報道番組の監修・解説、メディアへの寄稿、業界団体等での講演、建設会社のコンサルティングなどに従事。
【クラフトバンク総研】https://corp.craft-bank.com/cb-souken
【X】https://x.com/TKG_CraftBank