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世界の富裕層が「スイスの寄宿学校留学」に子どもを行かせたがる理由

田山貴子(スイス留学.com 代表)

2025年02月14日 公開

世界の富裕層が「スイスの寄宿学校留学」に子どもを行かせたがる理由

中央ヨーロッパの永世中立国・スイスにあるボーディングスクールへの留学が、世界中の富裕層の間で注目されている。その理由は、豊かな自然の中で行われる多言語による教育環境と、そこに通う生徒たちのバックグラウンドにあると、スイス留学の専門家である田山貴子さんは言う。

 

イギリス王室や貴族の子息も通うボーディングスクール

ボーディングスクールは日本語にすると「寄宿学校」となり、日本ではあまり馴染みがありませんが、欧米を中心に世界各地にあります。世界的な大ヒット映画『ハリー・ポッター』の舞台となっているホグワーツ魔法魔術学校も、魔法使いの世界のボーディングスクールです。

基本的には全寮制で、生徒たちは親元を離れて「ハウス」と呼ばれる寮で同級生たちと寝食を共にし、昼間は学校でさまざまな教科を学んでいきます。

ボーディングスクールの制度はイギリスで始まりました。その歴史は古く、15〜16世紀にかけて創設された寄宿学校が基になっています。そこでは、学業面だけでなく上流階級において必要なマナーや知識、社交性なども教育されるため、一部の特権階級の子息が通う学校となっていました。

実際、歴代のイギリス王室や貴族の方々もイギリス国内のボーディングスクールで学んでおり、チャールズ国王はスコットランドにあるゴードンストウン、子息のウィリアム皇太子とヘンリー王子の二人はイートン・カレッジという名門ボーディングスクールを卒業しています。

一方、スイスのボーディングスクールは、古くは1800年代後半に設立されたところもありますが、戦後に設立されたところも多く、学校によってさまざまな歴史を持っています。また、全寮制の学校だけでなく、通学生も受け入れている学校もあります。

その大きな特徴は、イギリスやアメリカのボーディングスクールが留学生の割合は多くても4分の1ほどなのに比べて、スイスのボーディングスクールはほぼ全員がスイス国外からの留学生だということです。しかも、少ない学校でも20か国、多いところでは120か国からの留学生が集まっているのです。

 

スイスのボーディングスクールならではの3つの特徴

では、なぜスイスのボーディングスクールにそれほど多く、スイス国外から留学生が集まるのでしょうか。それには大きく分けて三つの理由があります。

一つ目が、世界各国から集まった留学生とともに、世界トップクラスの教育環境で学べるということです。スイスの教育レベルの高さは世界的に定評があり、世界各国の王族や貴族、一流企業の経営者などの子息が留学する名門ボーディングスクールが数多くあります。

学生時代にこういった同級生たちと寝食を共にして学ぶことで、将来的には世界的に影響力のある人たちとのコネクションができることになります。実際、多くの方々が卒業したあともSNS上で同級生のグループを作り、つながりを持ち続けています。全卒業生が入れるグループもあります。これが本人の将来にとって大きな財産となることは間違いありません。

二つ目が、スイスの豊かな自然環境の中で安心して豊かな自然から学べることです。山や森などの自然がすくそばにある学校もあり、そういった学校では授業時間に近くの森に行って自然の生態系を学んだり、きれいな空気の中で体を動かすことで自然と体が鍛えられたりと、周囲の自然を活かした教育も行っています。

今の子どもたちは電子ゲームやスマートフォン、インターネットなどに費やす時間が増え、自然に親しみながら学ぶ機会が少なくなってしまいました。自然の中で五感を使って遊びながら生まれる知恵や工夫は、ゲームやネットからは決して得られない貴重なものです。

そして三つ目が、国際色豊かな環境の中で暮らし、学べることです。前述したように、生徒のほとんどがスイス国外からの留学生で、数十か国の国から来た生徒が在籍しています。そのため特定の国や言語に偏りがなく、どの国から来た生徒も対等の立場で向き合うことができます。そういう意味においては、真のインターナショナルな環境を実現しているのがスイスのボーディングスクールの特長といえます。

また学校の外では、スイスならではの多言語・多文化の中で国際的なコミュニケーション能力を磨くことができます。スイスの公用語はドイツ語、フランス語、イタリア語、そしてロマンシュ語の4つで、地域によってメインで話されている言語が異なるのです。

スイスのボーディングスクールのほとんどは、英語が校内のメイン言語となっていますが、英語をメインにしてフランス語またはドイツ語も学ぶバイリンガルの学校や、フランス語、ドイツ語をメインとするコースが用意されている学校もあります。また、学校では英語がメインで、寮ではフランス語で生活するという学校もあります。

そして、学校の外はもちろん多言語の社会で、学校がある地域でメインに話されている言語に囲まれ、その言語で街の人たちとコミュニケーションをとることになります。このようにして、英語以外の言語も、日常的に使うことで自然と習得していくことができます。

こういった三つの特徴が、スイスのボーディングスクールならではの魅力を生み出し、スイス国外から多くの留学生を惹きつけているのです。

 

9歳の女の子が一人で飛行機に乗って海外へ

スイスのボーディングスクールへの留学はさまざまなタイプがあり、サマースクールやウィンターキャンプへの参加という短期のものから、2週間~1学期にわたり通常授業を受ける体験留学、そして期間が1年以上の正規留学があります。小学生の時に留学を開始した留学生の多くは、高校卒業までスイスの学校で学びます。

スイス留学のメリットについてここまで述べてきましたが、そのほかに、幼いうちから親元を離れて生活することで自立心が養われることから、留学中に精神的に大きく成長する子が多いことも、メリットとして挙げられます。

私たちがスイス留学の支援をしているのは富裕層の子息がほとんどですが、ご家庭でのしつけの方針や個々のお子様のお人柄は様々です。同じ小学生でも、留学開始前からいつもにこやかに誰にでもはっきりと挨拶や感謝の言葉を発せられるお子様、感謝を表してペコリとされるけれどまだシャイでお言葉が少ないお子様、そして、感謝の気持ちを表すことのないお子様もいらっしゃいます。

10歳でスイス留学を始めたお子様は、留学開始前は誰に対しても「ありがとう」を全く発することがありませんでした。人が自分に何かをしてくれるのが当たり前という環境で育ったのでしょう。ところが、しばらくして、頼まれたものを届けるために学校に持っていったところ、自然に「ありがとうございました」とおっしゃってくださいました。

ボーディングスクールでは、生徒同士がお互いに支え合って生活している環境の中で、「ありがとう」と言うことは当たり前なので、この子もそれが身につき、感謝という気持ちも持つようになったのだと思います。

また、自立心も養われます。9歳で留学した別の女の子は、冬休みなどで寮が閉まる際には、UM(航空会社が一人旅のお子様をサポートするサービス)を利用して一人で飛行機に乗って日本とスイスの間を行き来するようになり、1年後には同じくUMを利用して、アメリカやタイに住む同級生や知人が待つ国へ一人で渡航するようになっていました。

渡航に関しては日本とスイスを行き来したことで自信がついたということもありますが、スイスの学校は生徒のやる気を後押しする先生方ばかりで、そういったことから自立心が養われたのだと思われます。

 

英語は勉強するものではなくコミュニケーションツールに

次は7歳で留学を始めた男の子です。初年度は自分が着る服選びも学校の準備も寮母さんに手伝ってもらっていましたが、3年目からはすべて自分で準備し、ベッドメイキングからクローゼット内の整理整頓まで自分でやっています。

また、当初は自分の家の豊かさをひけらかすように、父親が所有する高級車の台数を自慢したりすることもあったようですが、今では寮のリーダー格になっていて、新入生のお世話も率先してやっています。

体力面でもかなり強くなってきていて、雪山に行くことが多い1年目の冬は体調を崩しがちで欠席も多かったのですが、2年目は体力がつき1日も欠席がなく、3年目の冬学期からは、練習時間が長く体力的な負荷が大きい学校のスキークラブに所属するほどまでになりました。

スイスの学校は日本の学校よりもさらに文武両道に力を入れています。特に周囲は自然が豊かなので、山や川で行うアクティビティが多く、そこで体を使うことで、自然と体力がついてくるのです。

また、サマースクールのような短期留学でも大きな成長が見られます。

特に言語面では、日本だと英語イコール授業での勉強となりますが、留学すると英語は勉強するものではなくコミュニケーションツールであると身を持って理解します。他の国から来た生徒は、文法や発音はめちゃくちゃでも臆せず積極的に話してコミュニケーションを取る子が多いです。そういった環境に入ったことで英語を話したいという思いが高まり、帰国してからも英語の勉強に真剣に取り組むようになったということをよく聞きます。

そして、たまたま寮で同室になったルームメイトの出身国がニュースで報じられると聞き入ったりして、世界情勢にも興味を持つようになります。

また、わずか1か月ほどとはいえ、言葉や文化の異なる同級生との共同生活を送ることで、コミュニケーションの重要さに気づき、以前は人見知りだったのが、帰国してからは自分の意思をしっかりと言葉で伝えるようになったという話を、親御様からよく聞きます。

ここまでお伝えしてきたように、スイス留学での経験は心身ともに大きな成長をうながすだけでなく、世界各国の富裕層の子息とのコネクションを作れることができます。それがお子様たちにとって、将来の一番の大きな財産になることは間違いありません。

著者紹介

田山貴子(たやま・たかこ)

スイス留学.com 代表

「日本の子どもたちに、スイスの教育環境を活用していただきたい」という想いのも
と、日本の子どもたちが将来、国際社会の中で、充実した生活を送ることができる成人に
なるための最適な教育環境を提供べく、日本とスイスの架け橋をするなど、留学サポート活動を行っている。
https://swiss-ryugaku.com/
https://swiss-ryugaku.com/about-us/ceo-message

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