ひきたよしあきさんは、「ご縁」を意識することで、孤独は次のご縁のための待ち時間と思えるようになったといいます。「ひとりぼっち」も怖くなくなる、人づきあいへの向き合い方をご紹介します。
※本稿は、月刊誌『PHP』2024年3月号より、内容を一部抜粋・編集したものです。
孤独は「ご縁」のための待ち時間
定年退職とコロナ禍が重なった私は、だれに見送られることもなく37年勤めた会社を去りました。自粛が始まったばかりのころで、まだリモートの手段もない。退職に関する書類は郵便で送られてきました。その返信用封筒に社員証を入れて送り返しました。
退職の翌日に、社用携帯は通じなくなりました。メールアドレスも使えなくなりました。自宅から一歩も出られない状態で、会社関連の人脈がプツンと切れた。竜宮城から戻った浦島太郎のような「ひとりぼっち」を味わいました。
肩書きと仕事がなくなると、おもしろいように人が去っていく。「仕事」というかすがいがなくなると、人脈はバラバラと崩れていく。人間関係とは、これほど脆いものなのか。裸一貫、もう一度ゼロから人間関係を築いていく。それを強いられたような思いでした。
仕事でつながった人脈は、驚くほど脆弱である。60歳を過ぎてそれを知った私に新しい視点を与えてくれたのは、古くからの京都の友人でした。京都では「人脈」の代わりに「ご縁」という言葉をよく使います。「せっかくご縁をいただいたんやから」「これも何かのご縁やと思って大切にせな」という感じ。
友人の話では、「『ご縁』は、自分の思惑でつながれるものではない。もっと大きな、人智を超えた何かによって結ばれるもの。だから、人脈はできなかろうが、切れてしまおうが構わない。そんなのは人間が考えても仕方ないこと。『孤独』とか『ひとりぼっち』は、悪いことでも悲しいことでもなく、次の『ご縁』につながるための待ち時間のようなもの」なのだそうです。
会社の人脈が切れ、クヨクヨしていた私はこの言葉に勇気づけられました。ひとりでいることをポジティブに感じられるようになったのです。
「強いひとりぼっち」になれた
人と人との関係は、人間が考えてつながれるものではない。ご縁で結ばれていくものなのだ。なんておおらかな考え方でしょう。この孤独も、いつか縁とつながる。その根拠のない楽観に当時はずいぶん救われたものです。
37年の会社生活で築いたつながりはなくなった。それにクヨクヨすることなく、むしろゼロベースから大きな縁がくるのを待とうと思った瞬間、少し世界が変わって見えました。会社の決めた道をひた走る人生から、ひとり荒野に立ったことに気づくと、感傷に浸るばかりでなく、冷静に「孤独」の深さを味わえる「強いひとりぼっち」になれる気がしました。
人間関係は、不思議な「ご縁」でつながっている。これを考えるうえで参考になったのは、進化心理学者ロビン・ダンバー氏の「ダンバー数」でした。「人間関係は、3人、6人、9人と3の倍数で増えていく」というものです。
顔と名前と性格がわかる人数は、学校のひとクラス分、36人ほどでしょう。私は、親しい人の名前を36人思い浮かべてみました。驚くことに、「永遠の友達!」のように固定される人は実に少ない。一年前と今とを比べても、親しい人もその距離も変わっています。
ご縁でつながる人間関係は、常に変動する。言い換えれば交換可能です。固定した関係などそもそもなく、常にご縁の力で動いている。人と人は集まり散じる。こう考えると、「ひとりぼっち」が怖くもさみしくもなくなっていったのです。
孤高の地図を自由に歩く
少子化、高齢化、ネット社会化、グローバル化。ここ数十年の社会変化によって、「ひとりぼっち」のかたちも大きく変化しています。
コロナ禍で家族全員が家にいる時期があった。あのとき、「温かいと思っていた家族は、結局は孤独な人の集まりだった」と言った人がいました。ひきこもりの中学生が「学校に行っても孤独だけど、オンラインゲームの中にはたくさんの友達がいる」と言いました。
見た目や旧来の価値観で「孤独」や「ひとりぼっち」を定義できない時代です。だから「孤独」の度合いを人と比べることには、全く意味がありません。SNSに投稿されるキラキラ写真を見て「みんな、こんなに楽しそうなのに、私はひとりぼっち」などと考えることに意味はないのです。
「茶道」「華道」「剣道」「柔道」と、いろいろなものを「道」にたとえる傾向のある日本では、つい人と比べて、遅れている、立ち止まったら負けだ、踏みはずしてはいけない、などと考えてしまう。みんなより遅れてしまうことに孤独感を抱いてしまいがちです。
ところが私が訪れたフランスの小学校では、人生を「地図」にたとえていました。ゴールは決まっているのですが、そこに行き着くまで、山を駆け登ろうが、小川のほとりを歩こうが自由。全員、描く地図は違います。つまり全員、ひとりぼっちで、孤独に地図の上を歩むのです。
これは「孤独」ではありません。「孤高」です。しばらく歩くうちに、天からご縁がふってくる。それを得て、また次の道に悠然と進んでいく。私はこれが「孤独」の理想だと信じています。
あなたも自分の地図を歩いてください。きっと空から次のご縁がふってきますよ。
【ひきたよしあき】
1960年、兵庫県生まれ。早稲田大学法学部卒業後、博報堂に入社。2022年に株式会社SmileWordsを設立し、代表取締役に就任。政治、行政、大手企業のスピーチライターとしても活動。『モヤモヤを言葉に変える「言語化」講座』(PHP研究所)など、著書多数。
![月刊PHP 2024年 3月号 [「ひとり」を楽しむ「孤独」を味わう]](/userfiles/images/book2/B0CSQK1G6B.jpg)






