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イタリア人が愛する「お金を使わない娯楽」 おしゃべりとパッセッジャータの魅力

中山久美子(イタリア語通訳・コーディネイター)

2025年03月30日 公開

イタリア人が愛する「お金を使わない娯楽」 おしゃべりとパッセッジャータの魅力


(写真:中山久美子)

イタリアと聞くと、陽気な人々、美味しいピザやパスタ、太陽の光を浴びて輝く、色彩豊かな街並み...。そんなイメージが思い浮かびます。実際、イタリアでのリアルな生活はどのようなものなのでしょう?

本稿では、トスカーナ州在住の中山久美子さんによる書籍『イタリア流。』より、「イタリア人が愛する娯楽」「長いバカンスの過ごし方」についてご紹介します。

※本稿は、中山久美子著『イタリア流。 世界一、人生を楽しそうに生きている人たちの流儀』(大和出版)を一部抜粋・編集したものです。

 

お金を使わない娯楽 おしゃべりとパッセッジャータ

いったい、いつになったら解散するのだろう......?

移住して数か月後、夫の友人たちとピッツェリアで夕飯をすませた後のことです。

集合時間になってもメンバーはそろわないので、店の前でひとしきりおしゃべり。入店後も食べながらずっとしゃべっていたのにもかかわらず、店を出てからもすぐに解散にはなりません。喫煙者に付き合ったり、なんだかんだでいつまでもしゃべり続けます。

イタリアでは老若男女問わず、だいたいおしゃべりなので、まさにエンドレス!

休みにお出かけしなくとも、家族や友人と食卓をを囲む時、バールで軽く飲み食いする時、なんなら広場で立ったまま。おしゃべりだけで時間が過ぎていきます。

おしゃべり好きというよりも、それは彼らに生まれつき備わったデフォルトのようなものなのでしょう。それをフル稼働させるのが、また人のおしゃべりを聞くことが、どんな娯楽よりも楽しいのかもしれません。それがたとえ同じ話の繰り返しだったとしてもです。

イタリア人が愛するもう一つの「娯楽」はパッセッジャータ(散歩)。

所用では短い距離でも車に乗るイタリア人ですが、一緒に歩く仲間や美しい景色があるのなら、歩いていくらでも時間を過ごします。

最大のハイライトが夏のバカンスで、ビーチでは波打ち際を延々と歩いている人がたくさんいます。

ある程度まで行ったら折り返し、戻ったら逆方向にもう一度。それを数回したうえに、夕飯後はまた「パッセッジャータに行こう」。中心街のお店やビーチ沿いの屋台を冷やかしたり、ジェラートを食べたり、夜遅くまでブラブラと楽しみます。

移住当初、こんなバカンスの毎日はちょっとした拷問でした。

しかし慣れてくると、パッセッジャータも楽しいもの。今では少し時間ができると、田舎暮らしの日常でも取り入れています。亡き舅の定年後の楽しみは、おしゃれをして元同僚とフィレンツェ旧市街をパッセッジャータすることでした。

なぜパッセッジャータが楽しいのでしょうか?

歩くことそのものよりも、共に時間を過ごす人と話ができること、普段なら見逃しがちなものに美しさを見出せるからなのかもしれません。

 

イタリアのビーチはみんなのもの

イタリア人の長いバカンス。山や都市に行く人もいますが、圧倒的に多い行き先は海です。「お金を使わない娯楽」でも触れたように、のんびり過ごすのが一般的です。

朝はゆっくり起きて朝食。食べ物を消化中は水に入るのは厳禁なので、まずはビーチベッドで読書やスマホを見て過ごしてから、散歩したり海に入ったり。海から出たらビーチベッドで体を乾かし、正午頃に宿に退散、あるいはビーチのカフェでアぺリティーヴォ(食事前の軽い飲み)。

ランチの後は昼寝などでゆっくり休んで、夕方にビーチに戻り、午前中と同じことを繰り返す......。

若者はビーチバレーに興じたり、幼い子連れは砂遊びもしますが、同じようなスケジュールを繰り返すことは変わりません。

当初は、私もかなり飽きていました。しかし、のんびりと過ごすのに慣れて来た頃、イタリアのビーチの良さをしみじみ感じるようにもなりました。

イタリアのビーチを楽しむのは0歳から超お年寄りまでの老若男女。

イタリア人は海をこよなく愛し、また海水のミネラルやマイナスイオンが健康に良いとされているため、新生児がいようが年をとっていようが、海でバカンスを過ごす人が多いのです。

日本だとビーチは若い子や子連れ家族専用のようなイメージですが、イタリアのビーチはみんなもの! 近いパラソルに新生児がいる家族がいたり、波打ち際で初めての海を体験している赤ちゃんがいると、周りは幸せオーラに満ち溢れます。近くの人は嬉しそうに話しかけたり、あやしたり。

赤ちゃんが泣いても「うるさい」なんて怒る人は一人もいません。

お年寄りも同じこと。定年後のご夫婦だけになっても海バカンスは変わらず、手をつないで散歩してたり、一緒に海に入ったり......そんな様子はとても微笑ましく、将来あんな夫婦になりたいな、と思ってしまうこともしばしばです。

あるいは年老いた親を一緒に連れてきて、両手でサポートしながら一緒に海に入ったり、波打ち際まで車椅子を押し、海水をぴちゃぴちゃと足にかけてあげたりするご家族も。長い夏休みの孫を預かり、お忙しのおじいちゃんおばあちゃんもたくさんいます。

そしてとても感動したのは、ある夏に見た光景です。

波打ち際に座っていた私の視界に入ってきたのは、毎年一緒にバカンスに来ていそうな3組のカップル。年齢は70台前半くらい、うち一組の奥さんは車椅子の女性でした。皆でわいわいとしゃべりながら、男性3人がビーチ仕様に改造したような車椅子を押し、そのまま海へずんずんと入っていくのです。

その顛末を見届けたくて、私も一定の距離を置いて海に入りました。

男性3人は海中でも車椅子を支えていたのですが、ある程度の深さになると乗っていた女性は車椅子から身を投げ出し、ぷっかりと気持ち良さそうに大の字に浮かびました。

映画のようなそのシーンも印象に残っていますが、それを特に気をかける訳でもなく、かといって無関心でもなく、彼女のそばで談笑する仲間たちの姿、そして楽しそうに一緒に泳ぐ彼女の笑顔。

そしてしばらくすると、女性はまた仲間の手助けで浮いていた車椅子に座り、男性たちは車椅子を担いでビーチに引き上げてゆく......そのあまりにも自然な感じが、余計に胸を打ちました。

誰もが同じように楽しめる、そんなビーチを眺めているだけでほっこりするのです。

 

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