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稼いでいたら家事をしなくていい? 「資本主義を家庭に持ち込んではならない」理由

山田尚史(マネックスグループ取締役兼執行役/小説家)

2025年04月21日 公開

稼いでいたら家事をしなくていい? 「資本主義を家庭に持ち込んではならない」理由

SNSで議論になりがちな「家庭内での家事育児の分担」。相手よりも多く稼いでいる場合は、家事育児はやらなくてもいいのだろうか?

本稿では、小説家(「『このミステリーがすごい!』大賞」大賞受賞)、AI研究者(東京大学・松尾豊研究室出身)、経営者(マネックスグループ取締役)の3つの視点から山田尚史氏が考える「家庭と資本主義の関係」について、書籍『きみに冷笑は似合わない。』より紹介する。

※本稿は、山田尚史著『きみに冷笑は似合わない。SNSの荒波を乗り越え、AI時代を生きるコツ』(日経BP)を一部抜粋・編集したものです。

 

資本主義を家庭に持ち込んではならない

家庭内にもめ事は尽きない。特に、家事・育児分担は議論になりやすいところだ。以下は既婚者や同棲している人向けの内容になってしまうが、共働きの場合、仕事が大変な方(だいたい、こちらの方が年収が高い)をサポートするために、もう一方が多めに家事を分担するなどをしている家庭が多いようだ。

一方で、専業主婦・専業主夫の方から、配偶者が仕事ばかりで家事をしない、という不満も散見される。具体的には、仕事から帰ってきた夫が育児をしない、自分は家に縛り付けられているのに自由に飲んで帰ってくる、たいした稼ぎもないくせに偉そう、なんて愚痴はよく目にするところである。時には、専業主婦(主夫)を年収換算すると○千万円、なんて言説が飛び出してくることもある。

私見では、こうした議論は、そもそも資本主義、あるいは商業主義の規範で解決しようとしてはならないものだ。どっちがどれだけ稼いでるとか、一切関係ない。なぜなら家族の目標において、構成員の資産を最大化することは従属的な目的であり、主目的は幸福を最大化することだからである。

もしあなたが、「いや、稼いでる方がそのうえ家事まで背負い込むとかおかしいだろ」と思うのであれば、それは資本主義の規範で過ごすことが長すぎて、それが自分や家庭の規範に染み出してしまっているためである。それだけならまだいいが、自分の「家事をしたくない」という不満を正当化するのに、ちょうどいい棍棒として資本主義を流用してしまっているというケースも多い。

もしあなたが資本主義のルール下で過ごすなら、あなたは家事をしない代わりに、年収を最大化する義務も負っている。空いた時間を余暇にあてるなどもってのほかで(必要量の休息は重要だが)、資格を取る、転職を検討する、投資を行う、などの活動にあて続けなければならない。

いやそもそも、学生時代、年収を最大化するために勉強を続け、年収の期待値が最も高い最難関校に挑戦していたのでなければ辻褄が合わない。

相手に資本主義の規範を押しつける以上、相手からそうした非難を受けることを覚悟するべきだ。両者の調停にだけそのルールを持ち出し、自分の可処分時間に適用しないというのは、ダブルスタンダードもいいところである。

そうではなくて、あなたはたぶん、単に家事や育児をしたくないのである。それをしなくていい理由として、世の中で一般に通用するルールを初めは持ち出し、そのうち自分でもそれを信じ込んでしまっているだけである。自分の気持ちに、誤った理由づけをするケースは全く珍しくない。私にもよくあることだ。

一度そのルールは置いておいて、なぜ自分が同棲や結婚をしたのか、パートナーのことをどれだけ愛しているかを思い出すべきだ。自分が家事をしなくていい理由を考える前に、家族皆が、もちろん自分も含め、幸せに過ごすにはどうすればいいだろう? と自問する方がよっぽど有益である。

当然あなたが労働をしていれば、その分の疲労もたまっているはずである。だから、「申し訳ないが、疲れていて、〇分間の休養を取りたい」ということもあるだろう。それは、「自分は外で働いてきたんだ、家事まで背負ったら不公平だ」という意見とは似たようで全く別である。仮に資本主義のルールの下では不合理に見える状況でも、あなたにそれができて、皆が幸せなら全く問題ない。家庭は会社ではないのだから。

 

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