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生き方

運も遺伝する? 双子の実験にみる“DNAが人生に与える影響”

安藤寿康(行動遺伝学者)

2025年06月26日 公開

運も遺伝する? 双子の実験にみる“DNAが人生に与える影響”

運は遺伝するものなのでしょうか。そうだとしたら、「運が悪い人」は、あきらめるしかないのでしょうか?行動遺伝学者の安藤寿康さんが教えてくれました。

※本稿は、『月刊PHP』2024年6月号より、内容を抜粋・編集したものです

 

「運」の合理的で生物学的な原因

われわれが「運」と呼ぶもののほとんどは、ランダムに生じたよい出来事や悪い出来事の偶然の連鎖に対して、因果関係を見出して理解しないと気が済まないわれわれの脳が勝手にでっちあげた錯覚だと思う。だが完全にランダムな偶然の連鎖とは言えない、合理的で生物学的な原因があるかもしれない。それが「遺伝」だ。

20年以上前、民放テレビの科学バラエティー番組で、スタジオに40組の一卵性のふたごを集めて何か実験をしたいと言われ、ふたごでじゃんけんをやって、何回あいこが続けて出るかやってみてくださいと提案したことがある。

それまでに数百組のふたごの方たちに行なったさまざまな調査の経験と膨大な行動遺伝学の知見から、おそらく偶然以上の確率で、お互いが同じ手を出し合うはずと予想したからだ。

一卵性双生児はその名の通り、一つの受精卵が分裂する初期になんらかの理由で二つに分かれ、別々の個体として成長した人たちである。だから基本的に同じ遺伝的条件を持っているとみなしてよく、見た目は「瓜二つ」だ。そのきょうだいが同じ知識や行動パターンを学習する機会なしに類似した行動をとるとしたら、それは遺伝によるものと推定できる。

もしグー・チョキ・パーの3つのうちのどれかを毎回ランダムに出すとすれば、1回目で一致する確率は3分の1(33.3パーセント)、2回続けて一致する確率は9分の1(11.1パーセント)、3回なら27分の1(3.7パーセント)、4回で約1パーセントとなり、あいこが出た組だけ残ってじゃんけんを続けても、40組で残る組はほとんどいなくなるはずである。

はたして結果は行動遺伝学が予想するように、その確率をはるかに上回り、4回目でも6組、5回目(約0.4パーセント)で5組、6回目(約0.1パーセント)で3組、7回目(約0.05パーセント)でようやく1組となり、スタジオはおおいに盛り上がった。

この「実験」が、単なるバラエティー番組のおもしろコーナーではなく、科学的に見て人間観を180度転換させるほどの驚くべき現象であることに気づいた人がどれだけいただろうか。じゃんけんにも遺伝の影響があるのだ。

遺伝といってもそれほど強いものではない。むしろ微弱だ。だから7回まで続くペアがかろうじて1組いただけだった。しかしそれは明らかに偶然とは考えにくい類似性であり、そこに行動遺伝学者は行動に及ぼす遺伝の姿を読み取る。

あなたがじゃんけんで何を出すか判断するときの心の動きや手の感覚を思い返してみてほしい。はじめチョキを出したから次は違うのを出そう、チョキを出し続けたら指が突っ張ってきたから次は握ってグーにしよう......。

そんなたわいもない微妙な心と体のあり方の中に、40億年前から生命をつむぎ、今あなたをあなたたらしめているDNAの個性が内側から顔をのぞかせているのである。

 

遺伝の影響は2割から5割

実際、ふたごが同じ日に別々に同じ服を買ってきたとか、それぞれが同じ時期に同じ場所に行って同じことをしたといった話は枚挙にいとまがない。

行動遺伝学の研究によると、解雇や離婚のような自分の行動が引き金になったと考えられる出来事だけでなく、病気や死別、強盗に遭うなどの出来事ですら、一卵性のほうが二卵性よりも類似していることが多い。その遺伝率(遺伝子の個人差で説明できる割合)は20から50パーセントになる。

こうしたストレスの大きな出来事の類似は神経質であることや感受性の高さ、認知能力の低さなどが遺伝的に関わっていることを示唆している。そうした性質のある人がこうした出来事を実際に経験しやすいということもあるし、それをストレスだと解釈しやすいということも関わっているようだ。先に挙げたようなライフイベントの30パーセントがDNAの塩基配列から説明できるという研究もある。

遺伝の影響はじゃんけんのようなたわいもない意思決定はおろか、むしろ意識や意思の及ばないところにこそ表れるという研究もある。遺伝かもしれない自分の行動のクセを予測して、そうするまいといくら意識しても、そのとき意識の及んでいないことに遺伝の影響が出るのだから、結果的にはやはり遺伝の影響から逃れられない。

そもそもあなたは自分の遺伝子たちを、生きているかぎり常に持ち歩いて自動運転させているのだから、一定の確率でその遺伝に導かれた同じような意思決定をしてしまう場面が少なからず生ずる。

その結果、人生を作り上げている膨大な出来事の連鎖になんらかの必然的な流れが生まれ、その方向にライフイベントが巻き込まれやすくなることは想像に難くない。これが「運も遺伝する」の正体だ。

 

運に恵まれなくても悔いなく生きる

ただし誤解をしてはならないのは、この場合の「遺伝」とは親から運のよし悪し自体を受け継ぐという意味ではない。父親と母親からは遺伝子をランダムに半分ずつ受け継ぐので、遺伝子の組み合わせ全体は親子でも異なっている。

その遺伝子の組み合わせはまったくの偶然である。もう一つの偶然はあなたが生まれ落ちた時代と場所だ。ある特定の遺伝子の組み合わせを持った人が、どんな経済状況や価値観の親のもとに生まれるかはまったくの運である。人生はまさに運任せのランダムな初期布置から始まる。

とすると遺伝的に運の悪い人は、意識的に運をよくすることなどできない現実のもとで、それでも悔いなく生き切ることはできるのか。こののっぴきならない問いにうかつに答えることなどできないが、思うことはある。

まずあなたより運のよかった人が作り出したものに、自尊心を持って甘えること。運に恵まれようがそうでなかろうが、もともと偶然が始まりなのだから、偉くもなければ恥じる必要もない。

また、人が今まで生き延びることができた(本当に不運ならそれもかなわない)中にあったはずの幸運に気づき、その恩恵をあなたより運の悪かったほかの人に分け与えること。そうすれば、仮に「遺伝的に運が悪い」としても、逆にその運の悪さこそが社会をよくするためのきっかけとなり、それがめぐりめぐって、その人の生きがいと幸福感につながるはずだ。

それが実現されないのは、不運のどん底に陥っている場合と、もう一つは自らを不運と思い込むあまり、本当は訪れていた幸運に気づいていない場合である。

しかし、人類はこれまでも、人生の困難を少しずつでも乗り越えようと知恵を絞り、文化を築き上げてきたのだ。それは今も、そしてこれからも続くと確信している。

 

【安藤寿康(あんどう・じゅこう)】

1958年、東京都生まれ。'81年、慶應義塾大学文学部卒業。'86年同大学大学院社会学研究科博士課程満期退学。教育学博士。2001年、慶應義塾大学教授。'23年より同大学名誉教授。著書に『運は遺伝する』(共著、NHK出版新書)などがある。

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