「きっとこの記事に目を止めてくださったあなたは、やりたいことを見つけて、なりたい自分に近づきたい、自分を変えたいと思っているはずです。まずは、そんな向上心を持っているあなたのことを、私に褒めさせてください!えらすぎ! すごすぎ! 大優勝!」
21歳のとき、当時休刊となっていた女性向け雑誌『egg 』の編集長に就任し、多くの若い人たちをプロデュース。結婚を機に編集長を退任、専業主婦を経て、より多くの若者の夢を応援し、導く存在になるべく、現在は渋谷女子インターナショナルスクールの校長先生を務める赤荻瞳さん。
そんな赤荻さんは著書『平凡な会社員がギャルに出会って人生変わった話』で、ご自身の経験の中で培ってきた「なりたい自分に近づくための6ステップ」の進め方を、若い人たちだけでなく、より多くの人たちに届けられるよう、小説形式で解説しています。
内定をもらえた企業になんとなく入社、やりたいことが見つからない26歳の会社員・藤原大紀を"カリスマギャル"の高萩さんはどのように導くのか?本稿では、その最初のステップをご紹介します。
※本稿は赤荻瞳著『平凡な会社員がギャルに出会って人生変わった話』からの抜粋です。
「僕でも、強くなれますかね?」
水曜日、打ち合わせ後。
約束通り、大紀は高荻さんと1対1で着席していた。
その姿はまるで先生と生徒のようで、学生に戻った気分になる。
高荻さんはホワイトボードの前に立ち、「はじめますよー」とゆるい号令をかけると、片手に開いたB5ノートを持って話しだした。
「今日は、私が『これからどんなことしたいかなー』って考えるときにやっていることを6つのステップに分けてお教えします。わからないところがあったらじゃんじゃん聞いてください!」
「わかりました」
大紀がうなずくのを見て、高荻さんはホワイトボードに文章を書きはじめる。
しばらく眺めていると、そこには「なりたい自分に近づく6つのステップ」という題字と各項目が現れた。さっそく持ってきたノートにメモを取ろうとすると、高荻さんはそうだ、とこちらを向く。
「1個、言い忘れてました。事前に持ってくるようにお願いしていたそのノートなんですが、そこには今日のことだけじゃなくて、日常で見つけた自分の『いいな』を溜めていってください」
「いいな?」
「そう! これ、私がいつも使ってるノートなんですけど、私、自分がいいなと思った言葉とか思い出をここに溜めるようにしてるんです」
ほら、と高荻さんは持っていたノートを開いて見せてくれる。
そこには、見るだけで前向きな気持ちになれそうな誰かの名言や、楽しかった日の思い出、マンガかなんかのセリフらしき一文などが書かれていた。そのどれもがカラフルなペンやシールでデコレーションされていて、大紀は高荻さんがギャルであることをあらためて実感する。
「ヘコんだり落ち込んだりして、もう今日マジで自信ないなー、元気ないなーってときは、このノートを見て元気をチャージしてるんですよ」
「高荻さんにも、そういうときがあるんですか?」
意外だ。いつも前向きで明るい高荻さんは、「落ち込む」「自信がない」といった言葉とは無縁だと思っていた。
それを伝えると、高荻さんは当たり前じゃないですかと笑う。
「私にだってたまにはありますよ。そんな超人じゃないんで。仕事がうまくいかないことだって全然ありますし、失敗するときもあります。このあいだだって、途中までイイ感じに進んでた商談すっぽかされちゃったし」
あれはマジでやばかったなー。高荻さんは軽い口調で言うが、なぜそんなにもサラっと失敗を受け止められるのか、大紀には不思議でしかたなかった。
「僕でも、高荻さんみたいに強くなれますかね?」
質問すると、高荻さんはきょとんとした顔をする。
「私、強いですか?」
「えっ、十分強いと思いますけど......。僕、失敗を笑い話にできないんです。嫌なこととかがあると、ずっと引きずっちゃって」
そう答えると、高荻さんはすべてを理解したかのように大きくうなずく。
「それで言うと、そもそも私、失敗って勉強でしかないと思ってるんです。失敗しても、『次は同じことをやらかさないように』って考えれば、成長の糧になるし。『あ、これ自分には向いてなかったんだな』って気づければ、逆に自分の得意なこともわかってくるし。だから、失敗ってぜんぜんダメなことじゃないんです!」
あまりにもポジティブな考え方に、大紀は圧倒される。
「すごいですね......。僕にはそんなふうに思えそうもありません」
「そんなことありませんよ! 藤原さんも、絶対にできるようになりますよ!」
「そうでしょうか?」
「そうです! まずは、失敗の概念を変えてみるところから、始めてみましょう!」
高萩さんは意気揚々と告げるが、いまいちピンとこない。
「あの、概念を変えるっていうのは?」
大紀が尋ねると、高萩さんは「つまり、もしなにか失敗してしまったら、落ち込むより先に『今失敗しといてよかった!』って考えてみるんです」と説明した。
「もしその失敗を経験してなかったら、本当に取り返しのつかないような、おっきなミスをしでかしちゃっていたかもしれないじゃないですか。だから、そうなる前にここでミスっといてよかったなーって考えるんです。これを何度も繰り返せば、失敗が怖くなくなります!」
「なるほど。それなら自分でも挑戦できそうです」
「いいですね! そうやって失敗への恐怖心をなくしていけば、自ずと、いろんなことに挑戦できるようになります。失敗しても、そこから学びを得られるようになりますよ」
「『失敗は成功の母』と言いますもんね」
「そうそう! やりたいことを見つけるには、そういう『失敗するかもしれないけど、まずはやってみよう!』っていうギャルマインドを持つことも、すごく大切なんです」
今聞いたことを忘れないよう、しっかりとメモを取る。
それを見て、高荻さんはまた、うんうんとうなずいた。
「それじゃ、本題に入りましょっか」
「はい、よろしくお願いします!」

今の自分を見つめなおす
「最初のステップは『今の自分を見つめなおす』です。まずは自分が最近どんなことを考えていて、なにに興味を持っているのか、ノートに書いてみてください」
ホワイトボードに書かれている6つのステップの①を指して高荻さんは言う。
「つまり、簡単な自己分析をすればいいってことですか?」
「その通りです!」
内心、「派手なファッションやギャルメイクをして自分を変えよう」とか言われたらどうしようと思っていた大紀はほっとする。
「ちょっとしたことでもいいので、『自分は最近、どんなことを思っているのか』『やってみたいこと、気になっていることはあるか』『楽しそうだな、いいなと思ったことはあるか』『やってみたいけど、できていないことはあるか』など、なるべくポジティブに書いてみてください!」

「書けましたかー?」
「い、いちおう......」
これでいいのかと迷いながら、大紀はおずおずとノートを差し出す。
それを見て高荻さんは、おっと声を上げた。
「ちゃんと書けてるじゃないですか!」
「でも、どうしてもポジティブに書けなくて......」
自分で書いたにもかかわらず、大紀は書き出された「今の自分」にうんざりしていた。文字にしてあらためて見直すと、自分がいかにネガティブでつまらない人間なのか突きつけられた気持ちになる。
内容を見た高荻さんも「うーん、たしかに暗いっちゃ暗いですけど......」と言い出したため、大紀はがっくりと肩を落とした。
「あ、まだ落ち込まないで! いい方法がありますから」
「いい方法?」
「そうです。藤原さんは、普段からちょっとネガティブになりやすいみたいなので、言い換えをして考え直してみましょう」
そんな簡単に変わるものだろうか。半信半疑のまま話を聞いていると、高荻さんはペンケースからボールペンを取り出して、大紀が書いた「今の自分」を指した。
「例えば、【なぜかひとりだけ新卒で配属された】って部分。藤原さんは悪いことみたいに書いてますけど、【カッコイイピンチヒッターとして新卒で配属された】っていう言い方もできますよね。それから、【今は広報部のお手伝い中】ってところも、【部署の人たちから信頼されているから、今は広報部のお手伝い中】と言い換えることができると思います。だって、ほかの部署に行かせても大丈夫って思える人じゃないと、応援に送ったりしないですよね?」
「そう......かもしれないですね」
高荻さんによって、「今の自分」が次々にポジティブなものに変換されていく。
言われてみればそうなのかもしれない。大紀は納得しかけたが、よく考えてみれば、それは言葉を変えて自分の都合のいいように解釈しているだけだとも思えた。
そのことを高荻さんに伝えると、彼女はその通りとうなずく。
「それでいいんですよ」
「え?」
「だって藤原さんも、ただ悪いように思い込んでるだけじゃないですか。実際、周りの人からどう思われてるかなんて、直接確認しないかぎりわからないし」
「それは、まあ」
そう言われてしまうと言い返せない。
「なら、自分に都合のいい言葉に言い換えて、少しでも明るい気持ちになったほうがおトクです! さっきも言ったけど、私、自分に自信が持てないときはノートを見返すんです。それって、ちょっとでもいいから自分の好きなところとか、頑張ってるところを見つけたいからで。そうやって、自分で自分の自信を取り戻してるんです!」
「なるほど......」
常に自分に自信がない大紀にとって、高荻さんの考え方は目から鱗うろこだった。
「藤原さんは今、『自信がない期』なだけなんです。だから、こんなふうにちょっと言い方を変えて、まずはテンションを上げていきましょう!」
高荻さんはテーブルに置かれた大紀のノートに、すらすらと書き加えていく。
大紀が目を向けると、そこにはこう書いてあった。

「これが、今の僕ですか......」
高荻さんのギャルっぽい言葉で書き換えられた「今の自分」に、大紀は驚く。
そこに書かれている自分は、まるで仕事のできる人間のようだった。
やりたいことも、「ない」のではなく「まだ見つかっていない」と言ってしまえば、前向きに考えているように思える。
「言葉を少し変えるだけで、ちょっと気分が上がりませんか?」
大紀は力強くうなずいた。
「なんだか自分がすごい人になったみたいです」
「超イイ感じですね! 誰かに言うわけでもないし、自分の中でくらいは、自分のことをアゲていきましょ」
はい! と返事をして、ノートにメモを取る。まだ1つ目のステップだと言うのに、すでに前向きな気持ちになりはじめている自分がいることに、大紀は驚いた。
高荻さんから学べば、自分は本当に変われるのかもしれない。そんな予感がしていた。







