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カリスマ的指導者は必要ない? ビジョナリー・カンパニーを築く経営者の素質

竹村俊助(株式会社WORDS代表取締役、編集者)

2025年08月26日 公開

カリスマ的指導者は必要ない? ビジョナリー・カンパニーを築く経営者の素質

生き残る会社になるためには、社員・顧客・投資家に社長の言葉を届ける必要があります。時代を超えて業績を上げ続けている「ビジョナリー・カンパニー」。そんな企業になるためのコツとは?

経営者の言語化・コンテンツ化をサポートすべく顧問編集者として活躍している竹村俊助さんは、「言語化は経営そのもの」と考えます。『社長の言葉はなぜ届かないのか? 経営者のための情報発信入門』からご紹介します。

※本稿は、竹村俊助著『社長の言葉はなぜ届かないのか? 経営者のための情報発信入門』(総合法令出版)を一部抜粋・編集したものです。

 

「言語化」は経営そのもの

発信に躊躇している経営者でも、その前の段階である「言語化」に関しては、その重要性に異論はないはずです。ビジョンを定め、経営の方針を提示し、日々の決断を下していく。その際に自らの思考を言語化しないことには会社は進んでいきません。そう考えれば、言語化はむしろ「経営そのもの」です。

僕が言いたいのは、言語化を強化するためにも発信をしたほうがいいのではないか、ということです。もちろん言語化をするだけでも価値はありますが、発信というゴールがあるからこそ、言語化の量と質が上がっていくというのは往々にしてあります。

「インプットをするためにはアウトプットの機会を作るといい」というのはよく聞く話。発信という機会があるからこそ、良質な言語化ができるのです。

 

経営者の脳は最強の「事業開発室」

自分の考えを言語化しているうちに「ああ、だから私はこの事業をやりたいんだな」と再確認したり「僕は会社をこうしていきたいんだな」と気づいたりする瞬間があります。心の中のモヤモヤしている思いに「輪郭」を与え、より明確にしていくことで、思わぬ収穫があるのです。

ときにはそれが新規事業を生み出すきっかけになる経営者もいます。言語化する過程でふと新しいアイデアが浮かんでくることがある。外から見れば、ただのXやnoteでの発信に見えるかもしれません。

しかし、自分の考えを整理してまとめて発信するというのは「事業開発」にもつながる大切な行為。発信におけるプロセスとその効果・価値というのは思った以上に大きいのです。

その意味で、経営者の脳は最強の「事業開発室」と言えるのかもしれません。その開発室が最大限稼働できるように刺激を与えてあげる。それは会社にとっても重要だと思うのです。

 

「言葉」に人とお金が集まる時代

しかも今は、言葉のパワーがかつてないほど高まっています。先が見えない時代ほど、「言葉」に対して人とお金が集まってきます。

Uberという会社はご存じでしょう。アメリカに本社を置く、配車プラットフォームやフードデリバリーサービスなどを提供する会社です。創業者であるトラビス・カラニックは「これからは移動したいときにすぐ車が呼べるようになる! タクシーはなくなって、世界中がUberだらけの時代になる!」などとアピールすることで1兆円近い資金調達に成功しました。

これは創業者および、それに共感した経営陣や社員の「言葉」を信じて、共感した人が多かったからこそ起きたことです。

先が見えない時代においては「世界はこうなっていく!」という未来を指し示した人、そしてその未来に対して共感を集めた人のところにお金と人は集まっていきます。そして、発信の主体は経営者がベストです。今こそ経営者が前に出て「未来はこっちだ!」と社内外に示してほしいのです。

「会社の発信」を考えたとき、カッコいい動画を作ったり、派手なイベントをやったりする経営者は多くいます。キャンペーンをやったり、町に看板を出したりする経営者も多い。

でもまずは自分が考えていることをきちっと「言語化」すること。そして、それを伝わるように「発信」することです。ブランディングも、PRも、営業も、採用も、IRも、そこがないことには骨抜きになってしまいます。

経営者の言語化と発信は最優先事項なのです。

 

ビジョナリー・カンパニーへの道は「経営者の言葉」から

時代を超えて残り続けている企業の共通点とはなにか? それを長年にわたる地道な調査によって解き明かしたのが『ビジョナリー・カンパニー』です。

同書はマッキンゼー出身のジェームズ・C・コリンズらによって書かれた、言わずと知れた名著であり、P&Gやソニー、アメリカン・エキスプレス、IBMなど、時代を超えて業績を上げ続けている「ビジョナリー・カンパニー」と、そうではない企業の違いがまとめられています。

意外なことに「ビジョナリー・カンパニーを生み出すために、カリスマ的な指導者は必要ない」と同書では結論づけています。やるべきことは、まず「基本理念」を明文化すること。そしてそれを組織全体に浸透させること。さらには理念を「進化」させていくことで時代の変化に対応していくことが重要だと言います。

ソニーの創業者の1人、井深大氏は会社の基本理念である「設立趣意書」を作りました。その一部がこちらです。

●真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設
●日本再建、文化向上に対する技術面、生産面よりの活発なる活動
●戦時中、各方面に非常に進歩したる技術の国民生活内への即時応用

 驚くべきは、このビジョンが資金繰りもままならない創立後1年ほどの時点で作られたものであるということです。社員7名、貯金19万円からのスタート。今となっては誰もが知る巨大で素晴らしい会社になったソニーも、創業当初は炊飯器や和菓子、粗雑な電気座布団などあらゆるものを作って必死に食いつないでいました。

そんななか「技術者が力を発揮できるような自由で愉快な工場を作ろう」「日本の再建、文化の向上に寄与しよう」と高らかに宣言したのです。

もしこの「設立趣意書」がなければ、今頃は「電気座布団の会社」もしくは「ラジオの会社」になっていたかもしれません。もしくは、存在していなかった可能性もあります。

創業期にまず基本理念を掲げたことで、ソニーは「ある特定の製品を作る会社」ではなく、理念を追求するビジョナリー・カンパニーに進化することができたのです。

『ビジョナリー・カンパニー』で印象的なのが「永続する偉大な企業を作りたいなら、時を告げるのではなく時計を作りなさい」という教えです。経営者自らがカリスマとなって、その都度指示を出すことは「時を告げる」行為でしょう。

一方で、会社の理念、パーパス、会社の存在意義を言葉にして残すことは「時計を作る」行為です。

ビジョナリー・カンパニーを生み出すうえでも、まずは経営者の思考を言語化して「時計を作る」ことは必須だと言えるのです。

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