その「正義」は本当に正しいか? 詩人アルチュール・ランボオの名言が問いかけるもの
2025年09月11日 公開
逃避――本来は向き合うべき困難や現実からそっと身を引くこと。ネガティブなものと捉えられがちなその行為を、作家・山口路子さんは「肯定する」と語ります。
社会の中で突きつけられる"正義"に、すべて従う必要はあるのか。山口さんは、詩人アルチュール・ランボオの言葉を手がかりに、その問いに向き合います。
※本稿は、山口路子著『逃避の名言集』(大和書房)より、内容を一部抜粋・編集したものです
ためらいもなく「正義」を使う人は信用できません
俺は正義に対して武装した。
――アルチュール・ランボオ『地獄の季節』
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アルチュール・ランボウはフランスの詩人です。早熟の天才詩人として注目を集めましたが20代前半で詩作をやめ、さまざまな職業を転々としたのち、商人として成功をおさめます。かなり変わった経歴です。17歳で10歳年上の詩人ヴェルレーヌと出逢い同棲します。映画『太陽と月に背いて』は、このふたりの破滅的な愛憎が描かれています。ランボウをレオナルド・ディカプリオが演じています。
「正義」を語る前に
正義という言葉をためらいなく疑いなく口にする人に出会うと、急用を思い出したくなるのはなぜでしょう。
本でもそうです。なぜかベストセラーに多いのですが、「正義感」が、読んでいるほうが恥ずかしくなるような使われ方をしていると、放り投げたくなります。なぜ放り投げるかといえば、そこにデンジャラスなにおいを感じとるからです。
古い十字軍の例を出すまでもなく、いつの時代も人間が堂々と大量殺人を行うのは「正義」という名のもとでした。いま、この瞬間だって、十字軍のときと同様のことが世界のどこかで起こっているのです。
正義。この言葉を使う人に未来はない、と言いたいのではありません。もっと慎重に扱いたいのです。
せめて、「正義」の前に、「私なりの」「自分なりの」という個人が欲しいのです。







