強力なリーダーシップが要求される自衛隊、それが公立高校で通用するのか?
一等海佐から大阪府立狭山高校校長へ転身した竹本三保はこう述べる。「組織を動かし、人を動かして任務にあたるという文化が、自衛隊と学校とでは大きく異なるとはいえ、最終的には高い志、夢や希望が持てるという、やりがいのある職場環境づくりが大切だということには変わりはない。
そのためには優れた見識のあるリーダーが必要であり、また育てることが急務かと考える。これは自衛隊や学校に限らず、企業や団体、地域、スポーツ界など、人と人が結びついて成り立っている、あらゆる世界についても同じことが言える」と。
男社会だった自衛隊で女性リーダーとしての道を切り開き、培ってきたリーダーシップを紹介する。
※本稿は、竹本三保 著『国防と教育 ~自衛隊と教育現場のリーダーシップ~』(PHP研究所)から抜粋・編集したものです。
自衛隊と学校のリーダーシップ
"人を育む"教師という職業は聖職とも呼ばれますが、私にとっては"国を守り、国民の命を守る"自衛官という職業も聖職だと考えています。
どちらもとても大切に思うからこそ、自衛官から校長に転身することが、世間で言われるような異色とも思いませんし、むしろ全身全霊で取り組む意味においては、私にとって同じ価値を持つものだったのです。
ただ、学校現場におけるリーダーシップという意味においては、ずいぶん戸惑いもありました。
いわゆる典型的な"ピラミッド式"の自衛隊組織から、校長、教頭を除いてすべての教員が横並びという"ナベブタ式"の学校組織にある日突然着任して、リーダーシップを発揮せよというのですから、一筋縄ではいかないことも数多くありました。
それでも自衛官時代に培った、命を賭して国を守るリーダーとしての"覚悟"さえあれば、いかなる環境でもなじむことができ、困難も乗り越えられると考えていますし、成功も失敗も、それが生かされていたからこその貴重な体験であったかと、今にして思うのです。
言い替えれば、リーダーの本質を、自衛隊と学校という場で学び、実際に生かしてきたとも言えると思います。
そして、「人間が生まれたからには、その人がやるべき何かがあるはず」と考え、それを心掛けてこれまで行動してきました。
絶対的に正しいことをやる
では、リーダーが一番に守るべき大切なことは何かといえば、シンプルに"己が正しいと思うことをやる"ということではないでしょうか。
その正しさという意味の中には、正しい行動というものもあるし、社会的な正しさもある、正しい判断ということもあるし、人も自分も欺かないという正しさもあるのです
正しささえあれば、それが成功しようが失敗しようがどちらに転んでも、何らうしろめたいこともなく説明ができるのです。そしてこの"絶対的に正しいことをやる"という強い意志、信念こそが、リーダーシップの根幹であり、基準となるべきものなのです。
当然のことですが、この基準がぶれてしまうと正しいリーダーシップを発揮できず、秩序も保たれず、組織全体がゆらいでしまうといった結果に陥ってしまいます。
先に神戸の小学校で教員に対するいじめが大きな問題(というか事件ですが)として取り上げられていましたが、報道のように本当に教員間でのいじめが存在していれば、たかだか30人ほどしかいない教員たちの行動、関係性を把握していない校長はあり得ないでしょう。
いじめられているとわかっているのに何の手立ても講じないばかりか、気づかないフリをして、なかったことにしようとする。これは正しさの基準を持っていない事なかれ主義のリーダーであり、組織全体が腐敗してゆくことにもつながります。
ですが、こうした事例は少なくありません。それだけに多くのリーダーがしっかりと機能していれば教育界全体も変わるはずなのです。
ただし、自分の判断や行動が絶対的に正しいかどうかというとそれは、時に厳しい批判にさらされますが、実行する勇気が必要となってきます。
つまりリーダーともなれば、他人の意見に左右されることなく、確信と信念を持って狂いのない決断を下し、しかも迅速に行動することが要求されるからです。しかしながら、そうした局面を乗り切った時には、部下からの信頼を得て一体感が生まれるということにもなろうかと思います。