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ニュースの裏を読む技術

深澤真紀(コラムニスト/編集者)

2012年12月25日 公開 2022年12月07日 更新

《PHPビジネス新書『ニュースの裏を読む技術』より》

「もっともらしいこと」ほど疑いなさい

「今は本当にひどい時代だ」
「どうしてこんな日本になってしまったんだろう」
こんな「もっともらしい」ニュースを目にしたり、口にする機会が多くなったと思いませんか。
しかし、こういう言い方は「今」に限らず、「今まで」にもされてきました。私は幼児の頃から新聞やニュースが大好きな子供(1967年生まれの45歳です)でしたが、この40年あまり、世間やメディアの悲観的な論調は、基本的には変わらないと感じます。
新聞の投書欄などを読むのも大好きでしたが、いつも「今の日本はダメだ」という意見ばかりで、「今は素晴らしい時代だ」と書いてあるのを読んだ記憶などありません。
子供心に、「こんな日本に生まれてよかったのか」と心を痛めたものですが、大きくなるにつれて、「新聞とか、投書欄ってこういうものなのだな」とわかるようになりました。

ことに現代は、テレビや新聞のニュースだけではなく、ネットでもさまざまな情報が手に入るようになりました。
私は、「テレビや新聞などの大マスコミは、何かを隠蔽している」とも思いませんし、「ネットの情報はウソばかり」とも思いませんが、しかし読者に“受ける”のは、大袈裟で「もっともらしいニュース記事」なのだな、とは思うのです。

そんな「もっともらしい」記事を読み続けていると、それ以上、その物事について掘り下げようとはしなくなってしまいます。
しかし、そのニュースの裏にあるデータを読むと、記事とは違う事実が見えてくることも多いのです。

私自身もさまざまなメディアで、ニュースに関するコメントを求められるようになりましたが、新聞や雑誌では、私の書いたコラムや話したコメントに、「もっともらしい」タイトルをつけられてしまうことがあります。
そのほうが、読者に興味は持ってもらえるのかもしれませんが、「私の言いたい内容とはちょっと違う」ということも多いのが実感です。
取材を受けるときにも、記者がそのニュースについてあまり予習してこなかったり、あるいは逆に、最初から「こういう記事を書く」という筋立てを決めてくることも少なくなく、「もっともらしい」ニュースにされてしまう。これは国内のメディアだけではなく、海外のメディアでもそうなのです。

「もっともらしい」の意味は、「いかにも道理にかなっているようである。また、いかにもまじめくさっている」(大辞泉より)です。
この「いかにも」がくせ者なのですね。
本書『ニュースの裏側を読む技術』では、このような「もっともらしい」ニュースを読んで、安易に溜飲を下げるのではなく、その裏側について考えていきます。

ニュースを見ながら、「これは本当なのかな」とデータや裏側を見る習慣を身につけると、「自分の立ち位置や意見」を考えられるようになるのです。
データといっても、ネットを検索すれば出てくるようなものがほとんどで、特別なことではありません。きっとあなたの視野が広がるはずです。  

あの社会現象の表と裏

スマホ、ネット……現代は人間関係が希薄?

「イマドキの若者の人間関係は、ケータイやネットのせいで浅い」というのも、「もっともらしく」言われます。

ところが、「学校に通うことの意義は?」と聞かれたら、現代日本の若者たちの一番多い答えは「友達との友情をはぐくむこと」なのです (右図参照)。
友情という答えが一番多いのは、世界では特殊です。
これは18歳から24歳までの各国の若者に、1973年から5年ごとに実施している「世界青年意識調査」(内閣府、2009年3月発表)の第8回の結果ですが、日本では「友達との友情をはぐくむこと」が65.7%にものぼるのですが、韓国41.2%、アメリカ39.2%、イギリス40.2%、フランスに至っては16.3%と、かなりの差があるのです。
韓国で一番多かったのは「学歴や資格を得る」(58.8%、日本54.5%)、アメリカとイギリスとフランスは「一般的・基礎的知識を身に付ける」(アメリカ79.1%、イギリス63.0%、フランス66.9%、日本55.9%)というように、諸外国では学歴や知識が重視され、友情重視の日本との違いがはっきりします。

そして、友情が大事なのは、若者だけではありません。
「母親の子どもの将来に対する期待」という問いで一番多い答えも「友人を大切にする人」が東京で74.5%(「幼児の生活アンケート 東アジア5都市調査」ベネッセ教育研究開発センター、2006年2月発表)なのです。
他の東アジアの都市では、ソウル14.3%、北京14.2%、上海11.3%、台北13.9%と、友人についてはほとんど重視されていません。
他の都市で一番多かったのは、圧倒的に「自分の家族を大切にする人」(ソウル69.2%、北京71.8%、上海75.7%、台北84.1%)でした。もちろん日本でも69.7%とこの数字は高いのですが、3番目に多い答えでしかなく、2番目は「他人に迷惑をかけない人」(71.0%)でした。しかし、この回答も他の都市では5~25%くらいでほとんど重視されていません。

子供には友人を大切にして、他人に迷惑をかけないで欲しいという、日本人の母親ならではの結果になっているのです。
儒教的な価値観が共通しているように見える東アジアの中でも、日本だけが突出して「友人重視」なのです。

現代の日本は、母親が子供に「友人を大切にする人」になってほしいと願い、若者は学校に通う時に「友人との友情をはぐくむこと」を大事に思う、そんな「友情の時代」と言ってもいいのです。

なぜ、「友情の時代」なのでしょう。
第二次世界大戦中の日本は、愛国精神を持って戦い抜く「国の時代」でした。
そして、敗戦によって、家族で助け合う「家族の時代」が訪れ、やがて高度経済成長期には「会社の時代」があり、男たちは家族よりも会社や会社の仲間と過ごすようになりました。
バブル期にはトレンディドラマが大ヒットし・クリスマスには赤プリ(赤坂プリンスホテル・営業終了)のスイートにティファニーのオープンハートネックレス、お金を持ち、欧米的な遊び方を知った日本人が一気に恋愛至上主義に走り、「恋愛の時代」になったのです。
やがてバブルがはじけ、「友情の時代」が訪れるのです。
現在の若者は国や会社に多くを望むことはできません。恋愛は楽しいけれど、お金や時間などのコストがかかりすぎます。
家族はとても大事にしていますが、それと同じかそれ以上に友情を大事にするようになりました。
先の「世界青年意識調査」で「学校に通うことの意義は?」という問いは、1998年(第6回)と2003年(第7回)でも実施されていますが、日本はずっと「友達との友情をはぐくむこと」が一番多かった(第6回59.9%、第7回61.5%)のです。

無緑死と「ぼっち」を恐れる若者

一方では、2008年12月に亡くなったタレント飯島愛さんの「孤独死」や、「NHKスペシャル 無縁社会~“無縁死” 3万2千人の衝撃~」(2010年1月31日放送)により、若者たちは「孤独死」「無縁死」を極端に恐れるようになりました。
この番組の放送後、ネット上などでは多くの若者が「怖い」「こうなりたくない」と書き込み、私が取材などで出会う若者も「無縁死だけは絶対にいやだ」と真剣に語るのです。
まだ死を考えるには若すぎる若者たちがこんなに無縁死を恐れることは、私には意外でもあり、ショックでもありました。
ちなみによく言われがちな「昔は無縁死もなかった」というのも怪しい話で、住民の管理が行き届いていない時代でしたから、単に問題にならなかっただけなのではないかと思います。

若者の人間関係はますます濃くなっています。濃くなってきたからこそ友人を増やし、仲間に恵まれるのが人間のゴールだと思っているのですが、友人がいないといずれは無縁死してしまうという恐怖もあるのです。
つまり、今の若者のあいだでは、「友情」と「無縁死」が人間関係の表裏になっているのです。

「ぼっち」という言葉を知っているでしょうか? これは若者世代に流行している言葉で「一人ぼっち」を意味しています。
一人の食事を見られたくなくてトイレで食事する「トイレメシ」は、メディアでも話題になりましたが、若者はそれを「ぼっちメシ」と呼びます。
彼らは「ぼっち」ではなく「リア充」だと思われたいのです。こちらもネットから生まれた言葉で、「リアル(現実の生活)が充実している人」という意味。
さらに彼らにとって重要な言葉が「深い・繋ぐ・絡む」。「深い」(若者の最上のほめ言葉は「あいつ、深いよね」)人間と「繋が」って、「絡み」たいのです(一緒に何かやることを「絡む」と呼ぶ)。
一人と思われないために、若者もいろいろ大変なのです。

しかし、「リア充」が素晴らしい生き方で、「ぼっち」はさみしい生き方なのでしょうか。
だいたい、「恋人がいて、友達が多くて、予定が詰まっている」ことが自慢の「リア充」は、それはそれでさみしいものです。
なぜなら彼らは必ず「観客」を必要としているからです。

そもそも私は、リアルな人間とかかわることだけが人間関係だとは思いません。
映画・小説・漫画・雑誌・テレビ・ゲーム・ネット……その向こうには、それを作った人間がいます。
なぜか悪者になりがちなメディアですが、これらにかかわることだって人間関係です。
古い映画をみたり小説を読むことで、この世にいない人間のことを、深く知ることだってできます。
近くにいる人間とだらだら過ごすよりよっぽど賛沢だと思うのですが、どうでしょうか。

 

深沢真紀(ふかさわ・まき)
コラムニスト・編集者、企画会社タクト・プランニング代表取締役社長

1967年、東京生まれ。早稲田大学第二文学部社会専修卒業。いくつかの会社で編集者をつとめ、1998年、企画会社タクト・プランニングを設立。2006年に日経ビジネスオンラインで「草食男子」や「肉食女子」を命名。「草食男子」は2009年流行語大賞トップテンを受賞、国内のみならず、米CNN、米ワシントンポスト、仏フィガロ、英タイムズ、韓国SBSほか、各国から取材され話題となった。コラムニストとして、若者、メディア、カルチャーなど様々なテーマで執筆や講演、フジテレビ系列『とくダネ!』など、テレビやラジオのコメンテーターもつとめる。
著書に、『考えすぎない生き方』(中経の文庫)『働くオンナの処世術――輝かない、がんばらない、話を聞かない』(日経WOMAN選書)『仕事の9割は「依頼術」で決まる』(双葉新書)などがある。

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