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茨城は濃い味、埼玉は薄味...地域ごとに味を変える和食チェーン「ばんどう太郎」

辰井裕紀(ライター)

2025年08月16日 公開 2025年08月26日 更新

茨城は濃い味、埼玉は薄味...地域ごとに味を変える和食チェーン「ばんどう太郎」

日本には、大手飲食チェーンに引けを取らない"ローカルチェーン"が各地に存在します。ライターの辰井裕紀さんは、2021年8月刊行の著書『強くてうまい!ローカル飲食チェーン』で、地域で長年繁盛してきた7つの店を紹介しています。

ばんどう太郎は、茨城県を中心に、栃木・埼玉・群馬・千葉に展開する和食チェーンです。なかでも看板メニューの「坂東みそ煮込みうどん」は、店舗数拡大の原動力となった一品といわれています。そんなばんどう太郎の"店づくりの工夫"とは――。書籍から詳しくご紹介します。

※本稿は、辰井裕紀著『強くてうまい!ローカル飲食チェーン』(PHPビジネス新書)より内容を一部抜粋・編集したものです

※本記事に記載のメニューや価格は、書籍発刊当時(2021年8月)の情報です。現在とは異なる場合があります。

 

最後のお客さんは「店の全員で見送る」

ばんどう太郎春日部店のパ ワフルな外観
ばんどう太郎春日部店のパワフルな外観

茨城県を中心に、栃木・埼玉・群馬・千葉県に直営店81店、フランチャイズ5店の合計86の店舗をもつ坂東太郎グループ。

そのなかでもひときわ知名度が高く、半数以上のお店を構える中核的チェーンが和食レストランの「ばんどう太郎」だ。

ばんどう太郎の店舗は国道などのロードサイドに多く展開されており、郊外を走っていると、デラックスな和風家屋が眼前に飛び込んでくる。筆者も地元千葉の国道16号沿いで初めて見た、堂々たる建物の姿がいまでも忘れられない。

外装・内装ともにばんどう太郎オリジナル仕様なので居抜きでは建てられず、普通のファミレスの約2倍、1億5000万円ほどの総工費になる。

その接客術はオンリーワン。その日の最後のお客さんは、店内の従業員が総出で見送るほどで、2012年度の経済産業省「おもてなし経営企業選」では、茨城県で唯一選定された。

そして、約100種の個性的な和食メニューで勝負するローカルチェーンだ。このばんどう太郎、決して安くはない。本書で取り上げるほかのローカルチェーンと比べると、メニューの価格は倍近い。貧乏ライターの筆者なら、普段づかいにはやや厳しいレベルだ。

しかし、それでもお金を出したくなる付加価値が随所にある。まずは社訓の「親孝行」にちなんで、あえて長くとった玄関までのアプローチを「親孝行通り」と名付けており、樹木や花々で季節を感じられる道すがら、家族と語りながら歩けるようになっている。

と、ここで出迎えてくれたのが「女将さん」だ。正社員と思いきや、じつはパートの方が担当し、お店を代表する存在として客をもてなしてくれる。そのほか新人正社員らの指導なども担当する。

ばんどう太郎古河店より。 女将さんが出迎えてくれた らラッキー
ばんどう太郎古河店より。女将さんが出迎えてくれたらラッキー

店内へ入ると、外装からはまるで想像できない空間を発見。家族での来店を推奨しているばんどう太郎では、いくつかの店舗でキッズルームが設置されている。ちびっこメニューを頼むと、「お子さまは散らかすことの名人。汚れは気にせず楽しく召し上がってください」と記されたカードが手渡されるなど、心配ごとの多い子連れには助かるサービスが多い。

座席に腰を下ろすと、水とお茶がそれぞれよきところで運ばれてきて、2つのニーズをかなえる。水とお茶を出すタイミングは現場判断で、たとえば夏場はお茶より先に水が出たり、冬場は料理のあとに水が来たりする。

 

関東人に最適化された「みそ煮込みうどん」

バラエティに富んだ具材た ちをスープの下から発掘す るのも楽しい
バラエティに富んだ具材たちをスープの下から発掘するのも楽しい

そんなばんどう太郎の看板商品は、なんと言っても坂東みそ煮込みうどん(1265円)だ。今回は半ライスとお新香が付いて同価格のランチセットを注文した。

さあ、ぐつぐつと固形燃料で火にかけられたまま、香りを漂わせつつ登場する。旅館のようでライブ感満点な登場シーンがうれしい。

みそ煮込みうどんと言えば、濃い味の八丁味噌にガッチリ硬い麺を合わせた名古屋のものを連想するが、あれとはひと味違う。

麺は名古屋のみそ煮込みうどんよりやわらかいが、全国の平均的なうどんよりは硬度がある。もっちりした嚙みごたえだ。

スープも名古屋風の強烈に濃いものより、いくぶん風味を丸めており飲みやすく、それでいて十分に麺や具材へ味が染み込んでいる。根っからの関東人である筆者も、抵抗なくどんどんいける味わい。

褐色のスープが「闇鍋」を思わせ、どんな具材が埋もれているのかと、掘り出し物を探すのが楽しい。白菜やネギ、コロコロ転がる鶏肉らも脇を固めて、鍋物をひとりで楽しめるぜいたく感があふれる。

茨城県特産のれんこんに加えて椎茸もあり、独身男性がなかなか食べられないような野菜中心の食材がゴロゴロ。そして、待てば待つほど熟す卵にどのタイミングで箸を入れるか。ひとり鍋奉行の判断がうまさのカギを握る。

坂東みそ煮込みうどんの具材は季節によって変わり、筆者が食べた際はカボチャや茨城特産の凍しみこんにゃくがのっていた。入れ替わりで旬な食材を入れるから飽きないし、ボリューム以上に満足できる。

 

“期待ハズレ”のデビューから巻き返した名物「みそ煮込みうどん」

1代で北関東屈指の和食チ ェーンを作り上げた青谷洋 治氏
1代で北関東屈指の和食チェーンを作り上げた青谷洋治氏

店舗数を大きく伸ばした原動力が、1985年に誕生したみそ煮込みうどんだ。

「そのために、名古屋の名店から勉強させていただきました。すごい行列で、まずこの店がなぜお客さんに喜ばれるのかを、店づくりや接待からずっとよく見て、何度もみそ煮込みうどんを食べたんです。3日目ぐらいから関東との味の違いが見えました」

そして味やサービスをリスペクトしたうえで、「ばんどう太郎らしい味」に発展させた。

「ただし、黒い八丁味噌のみそ煮込みうどんをうちで提供しても、最初は全然売れなかったんです。そこでもっと関東の味に変えました」

たしかにみそ煮込みうどんは、濃い味の多い名古屋めしのなかでもひときわ独特だ。それを関東人の舌に慣らすために白味噌をブレンドするなど1年ほど試行錯誤し、ついに売れ出した。

キッチンに入る料理人は1店舗あたり5〜6人。一般的なレストランより多めに配置し、うどん専任・天ぷら専任などそれぞれに調理担当がいる。

ちなみに一見古風なイメージのばんどう太郎だが、その味は時代の流れに合わせて、少しずつ変えている。

「伝統の味を『守る』意味においては、日々時代の流れを見ながら(他社と)切磋琢磨し、品質を維持しながらこつこつと変えることが肝要なのです」

たとえば、ひと昔前の関東のそば汁は真っ黒だった。しかしいまはいくぶん色が薄めで、薄口醬油を使った、濃さを感じさせない微妙な味わいが求められており、そんな現代志向に対応する。

 

地元民が作るから、地元民好みの味ができる

ばんどう太郎は建物こそ各店で同じ様式だが、肝心の味は地域によって微妙に変わる。

「だって栃木と群馬では人柄がまた違うんですよ。こんなに違うかっていうほど違うんです。栃木と茨城もまた違うし、千葉はもっと違う。そして味覚も違う」

一律に味を変えてはいないが、各店でお客さんから味への指摘があったときには、店長の判断で味を変えていい。

坂東太郎共育課課長の小菅泰子氏によると、茨城や栃木は濃い味が好き。埼玉は若干薄味好きで、要望にこたえるうちにそんな味へ近づいていく。

「地域ごとに舌が違いますから、味が違わないとおかしいんです。それを合わせるのが店長の力量ですから、できるだけ地元の人を採用します。転勤はさせても、たとえば千葉の人を栃木にはあまり行かせません。大手さんだと関西の人が関東に来ることもあるけど、味がブレるんですよ」

なお、大手チェーンの多くが入らない「商工会」にばんどう太郎は加入している。

「地元意識をもつために、商工会へ加盟します。大手チェーンなら商工会に加盟すると、たくさんの店舗がある分会費も跳ね上がるので、めったに加盟しないんです。それもわかりますが、うちは地元の人と一緒にやっていきたい」

たとえば千葉も地元だと思って商工会へ入るし、地域の特性に応じてお店の業態を使い分けたうえで、その地へ溶け込もうとする。

「ここ20年は新しい店の入り口に、お世話になった人の名前をみんな刻んでいます。店舗を建ててくれた地元の方々とかを全部ご招待して、全員の名前を書きます」

その立地は決して一等地ではなく、まっさらな土地に店を建てる。将来的に伸びると見込んだ所ばかりだ。

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