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彬子女王殿下が英国留学時代を一瞬で思い出す「魔法の食べ物」

彬子女王、ほしよりこ(絵)

2025年10月15日 公開

彬子女王殿下が英国留学時代を一瞬で思い出す「魔法の食べ物」

女性皇族として初めて海外で博士号を取得された彬子女王殿下。その英国留学記『赤と青のガウン オックスフォード留学記』は「プリンセスの日常が面白すぎる」という一般読者のX投稿をきっかけに話題となり、瞬く間にベストセラーとなりました。

その英国の食べ物で「恋しくなるものはさほどない」とおっしゃる彬子女王殿下が、唯一懐かしく感じるお菓子があるそうです。それは、どのような食べ物なのでしょうか。ほしよりこさんの絵とともにお楽しみください。

※本稿は、彬子女王 著、ほしよりこ 絵『飼い犬に腹を噛まれる』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

ミンスパイという英国のお菓子

英国で長い間生活したけれど、英国の食べ物で恋しくなるものはさほどない。

日本ではデパートの地下で売っているような高価なチーズが普通のスーパーで気軽に買えたことや、パスタやリゾットライスなどが安くて重宝したことなどは懐かしいのだけれど、向こうにいるときに「あんこが食べたい!」と思っていたように食べたくなるものはない。

だから、英国に行く友人や英国からくる友人に「何か買ってきてほしいものある?」と聞かれても、毎回これ! というものはないのだけれど、10月に来日した友人に「もしあったら......」と頼んで買ってきてもらったものがある。ミンスパイというクリスマスに食べるお菓子である。

ミンスパイは、レーズン、クランベリー、カランツなどのドライフルーツをみじん切りにして、ブランデー、ナツメグ、クローブといったスパイスを煮込んだミンスミートをフィリングにしたパイ。

伝統的なレシピには、スエットという牛の腎臓周りの脂(ケンネ脂)が使われている。スエットが使われるのは、本来のミンスパイがこま切れ肉にドライフルーツ、スパイスを煮込んだものをフィリングにしていた名残。砂糖が手に入りやすくなったヴィクトリア時代頃からフルーツだけのお菓子になっていくようだ。

小さくて丸いパイの形が、イエス・キリストのゆりかごの形を模したものであるとか、12月25日のクリスマスから1月6日の十二夜まで、毎日1つずつ食べると新しい年に幸運が訪れるとも言われていて、英国のクリスマスに欠かせないお菓子になっている。

クリスマス時期になると、スーパーには大量のミンスパイの箱が積み上げられ、学生同士の集まりやパーティでも、ミンスパイはかなりの確率で登場する。

 

クリスマスの水無月

さくさくのパイ生地と、甘酸っぱくてしっかりしたフィリングのバランスには、各店こだわりがあり、食べ比べするのも楽しい。

ほっぺたが落ちるほどおいしい食べ物ではないと個人的には思うけれど、これを食べないとクリスマスが来た気がしない、京都人にとっての夏越(なごし)の祓(はらえ)の水無月のような食べ物なのである。

帰国してからは、ミンスパイをいただく機会は少なくなった。スーパーで気軽に買えたミンスパイを自分で作ろうとは、面倒くさがりの私はどうしても思えない。

ところが、先日東京で、英国式の教育が受けられるインターナショナルスクールの新キャンパスの開校式に参列したところ、控室に英国風パイのお店のお菓子を置いてくださっていたのが目に留まった。

調べてみると、どうやらミンスパイも販売している様子。担当の方に、「日本で唯一懐かしくなる英国のお菓子がミンスパイなんです」とお話ししたのを覚えてくださっていたようで、後日そのお店のミンスパイを届けてくださった。クリスマスを待たずに口に運んでしまったそれは、私に留学中の思い出を一瞬にして呼び戻してくれる魔法の食べ物だった。

この年の冬から、英国にいたときのようにクリスマス気分を味わえるようになったことを私はうれしく思っている。

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