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言語化に語彙力は不要? 三宅香帆さんが教える「自分だけの言葉」のつくり方

三宅香帆(文芸評論家)

2025年12月31日 公開

言語化に語彙力は不要? 三宅香帆さんが教える「自分だけの言葉」のつくり方

感銘を受けた映画やライブの感動を伝えたいのに、「よかった」「最高だった!」などというありきたりの言葉しか出てこない。自分の語彙力のなさに情けなくなった...そんな経験がある人も少なくないのではないでしょうか。仕事でもプライベートでも「言語化する技術」は必須。しかし、どうしたら自分の思いを言語化できるようになるのでしょうか。各種メディアで引っ張りだこの文芸評論家・三宅香帆さんは「言語化に必要なのは語彙力ではない」といいます。さて、三宅さんが編み出した言語化のコツとは…?

※本稿は、三宅香帆著『伝わる言語化 自分だけの言葉で人の心を動かすトレーニング』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)より一部抜粋・編集したものです。

 

言語化に必要なのは「語彙力」ではなく「細分化」

伝えたいことがあるのに、うまく言葉が出てこない。
伝えたけど、相手にまったく響いていない。
自分の思いを言葉にするのに必要なのは、言語化するための、ちょっとした「コツ」です。

言語化のために踏むべきプロセスは以下の3つです。

【1】心が動いた箇所の具体例をあげる
【2】感情を言語化する
【3】メモをとる

この【1】【2】で重要なのは、「細分化」です。
細分化とは、「細かい部分や要素にわけること」。
つまり、「具体的にどの部分に心が動いたのか?」「どんなふうに、なぜ心を動かされたのか?」などの問いを投げかけながら、自分の感情や思考を細かく見ていくことです。

世間には、「言語化に必要なのは語彙力だ」という思い込みが強くあり、それゆえに「語彙を広げる努力をすべき」と言われたりします。
でも、本当に必要なのは、「細分化」の力です。

「言語化がうまくできるかどうか」は、語彙の多さではなく、いかに具体的に語れるかどうかにかかっている。つまり、どれだけ「細分化」できるかが重要です。
「細分化」には語彙力は特に必要ありません。
だから、あなたが「言語化が苦手」だと思っているとしても、それはあなたの語彙力が足りないからではないのです。

もちろん、語彙力があるというのは素晴らしいスキルです。
でも、たとえ言葉の引き出しに自信がなくても、細分化のコツさえつかめば、自分だけの言葉はつくることができる。つまり、ちゃんと「言語化」はできるんですよ。

 

具体例は細かければ細かいほどいい

たとえば、「好きな映画」について語りたいのだとしましょう。
それについて言語化するのに、まずやるべきことは次のことです。

【1】心が動いた箇所の具体例をあげる

つまり、「自分は、その映画のどこが好きなのか」をできるだけ細かく、具体的にあげることです。
たとえば、

■気になっている役者2人が出演していること
■ヒロインの言動がとにかくかわいいこと
■ヒロインが恋する相手が頼りない性格なところ
■自分の故郷の●●がロケ地になっているところ
■忘れかけていた伏線が最後の最後に回収されるところ

などなど。

「好きなところ」というのは見つけやすいし、何より楽しい。だから、言語化の最初のトレーニングは「好きなもの」をテーマにするのがおすすめです。
そのほか「尊敬する人」について語る場合は、その人の尊敬できる点を以下のような感じで細かくあげていきます。

■常に冷静で、一度も怒ったところを見たことがない
■普通の人なら3日はかかる仕事を1日で仕上げてしまう仕事の速さ
■奇抜ではないのに個性的なファッションセンスが素敵すぎる

「成長したと感じる自分自身の最近の変化」を語る場合なら、「成長したと感じる部分」を以下のようにあげていきます。

■夜更かしが減って、24時より前に寝て、6時には起きられるようになったこと
■スマホを眺める時間が3時間から1時間に減ったこと
■2週間に1冊ペースで本が読めるようになったこと

このとき、何より大切なのは、そう感じたところを、とにかく具体的に細かくあげること。
とはいえ、「たくさんあげろ」と言いたいわけではありません。単に「素敵だった」みたいな全体的な話ではなく、「●●●が素敵だった」というように、細かい点があげられるほうがいい、という意味です。
(ただし、たくさんあげようとすると、自然と細かくなっていく、という利点はあります)

 

オリジナリティは細かさに宿る

なぜ、そんなに細かさにこだわるのか。
それは、「オリジナリティは細かさに宿る」から。

あなたの心にどこが響いたのかを細かくあげることによって、あなたの表現はあなただけの言葉になります。細かければ細かいほど、ほかの人とも被りにくくなるので、その結果違う表現になりやすい。
もちろん無理に他人と違うことを言おうとする必要はないのですが、オリジナリティのある言語化をしたいなら細分化がおすすめです。

たとえばライブについての感想を話したいのに「最高だった!」という言葉しか出てこない...という悩みもまた、ライブで「この曲が」演奏されたのが嬉しかった、「この歌詞」が心に響いた、「この演出」にドキドキした、と「最高だった点」を細分化することができれば、きっと解消されるはず。
感想そのものは「最高だった!」だとしても、「どこが最高だったのか」が細かく具体的にあげられていれば、それは「あなただけの言葉」なんです。

そういう意味で、ちゃんと細分化さえできていれば、「泣ける」「やばい」「考えさせられた」という「感想界の3大クリシェ」を使うのも実はありなんです。もちろん、「成長したい」「やりがいがほしい」「人間関係が良くない」という「仕事クリシェ」も同様です(クリシェ=ありきたりな表現)。

クリシェの危険性は、その言葉がいろんな感情をざっくりひとことでカバーできるという便利さにあります。だから、たったひとことで「それっぽい言葉」にはなるものの、自分の本当の気持ちや感覚からはどんどん離れていってしまうのです。

でも、「どこが泣けるのか」「どこがやばいのか」「どこに考えさせられたのか」と「どこ」の部分を細分化できれば、「泣ける」「やばい」「考えさせられた」の「クリシェ感」(ありきたりな感じ)は大幅に薄らぎ、自分らしさが宿るようになります。

「仕事クリシェ」の場合もそれを使うのであれば、「どういう点で成長したいのか」「どんなやりがいがほしいのか」「人間関係がどんなふうに良くないのか」というふうに細分化してみてください。そうすれば、あなたのもやもやはきちんと整理されるはずです。

そこに語彙力は関係ありません。
実はほとんどの言語化において、最初にやるべきは「細分化」。

言語化というと、なにかを「そっくりそのまま言い換えること」だと思われがちですが、それは正しくありません。
言語化とは、「どこがどうだったのか」を丁寧に細分化し、それぞれを言葉に置き換えていく作業のことなのです。

プロフィール

三宅香帆(みやけ・かほ)

文芸評論家

1994年生まれ。高知県出身。京都大学大学院人間・環境学研究科博士前期課程修了(専門は萬葉集)。著書に『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書、新書大賞2025大賞)、『「好き」を言語化する技術』(ディスカヴァー携書)、『「話が面白い人」は何をどう読んでいるのか』(新潮新書)、『考察する若者たち』(PHP新書)など。

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