鯛におせち、そして崎陽軒のシウマイ? お正月に読みたい「食エッセイ」3冊
2026年01月01日 公開
お正月といえば、おせちやお雑煮。「お正月らしい食べもの」が、自然と思い浮かびます。食卓に並ぶものも、どこか特別であってほしいと感じる時期です。今回は、そんなお正月気分を味わえる「食のエッセイ」3冊を紹介します。
『たべもの芳名録』

神吉拓郎著(ちくま文庫)
現代の私たちにとって、鯛はどのような存在でしょうか。お祝い事のときに食べるもので、どこか特別で、おめでたい魚。そんなイメージがありますよね。ただ、年に一度食べるか食べないか。食べるとしても、少し良いお店で、という方が多いのではないでしょうか。
昭和の「食」を描いたエッセイ『たべもの芳名録』のなかで、著者の神吉拓郎さんは、鯛、とくにお頭付きの立派な一尾について、「見るからに美しい。ぴんと尾をはねあげた姿は、やはり、私の体の何処かに伝わっている日本人の情をくすぐるところがあると見えて、正月気分が非常に高揚した」と書いています。さらに「正月の膳に鯛がのらないのは残念なことだ」とも語ります。
現在では、年末年始も営業している飲食店が多く、特別に正月料理を用意しない家庭も増えています。そうした状況を思うと、当時との感覚の違いが浮かび上がります。
本書では、香港の黒鯛や、瀬戸内で石を呑む習性をもつ鯛など、筆者が味わったさまざまな鯛が紹介されています。読んでいると、「今年は気合を入れて、お頭付きの鯛を食卓に並べてみよう!」と、そんな気持ちになるかもしれません。
『わたしの献立日記』

沢村貞子著(中公文庫)
名脇役として知られた沢村貞子さんが、26年間にわたり毎日つけ続けた献立の記録をもとにしたエッセイです。
俳優にとって仕事の多い正月ですが、沢村さんはその仕事を断り、夫婦で正月を過ごすことを選びます。そして台所に立ち、おせち料理の準備を始めます。三段のお重に詰める、相当な品数のおせち料理を作っていたことが、献立の記録から伝わってきます。
七色なます、くわいのうま煮、車えびの煮つけ......。出来あいのものを詰めるのではなく、すべて自分の手で作っていたというのだから驚きです。当時の主婦業が、いかに重労働だったかも実感させられます。
本書の魅力は、料理の話だけにとどまりません。昭和の芸能界の空気や、当時の女優業がどのようなものだったのかが垣間見える点も読みどころです。料理好きはもちろん、昭和の芸能界に関心のある方にもおすすめの一冊です。
『シウマイの丸かじり』

東海林さだお著(文春文庫)
言わずと知れた食エッセイの名手、東海林さだおさんによる「丸かじり」シリーズ。日常にあふれる素朴な食べものを、じっくりと観察し、味わい、ユーモラスに描く文章は、誰が読んでも楽しめます。
シリーズ第39弾となる『シウマイの丸かじり』では、東海林さんが毎年正月の楽しみにしているという、新宿京王百貨店の「元祖有名駅弁と全国うまいもの大会」について紹介されています(調べてみると、今年も開催されるようです)。
東海林さんの狙いは「牛肉系」。頭のなかは牛肉でいっぱいで、全身牛肉人間になって会場へ向かったものの...いざ着いてみると、牛肉弁当の売り場はどこも長蛇の列。
そこで手に取ったのが、崎陽軒の「シウマイ弁当」でした――。
全身牛肉人間となっている内臓たちを果たして説得できるのか。この展開に、いかにも東海林さんらしさを感じます。シウマイ弁当の魅力を余すことなく描いたこのエピソードは、駅弁好きにとっても必読と言えるでしょう。









