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便秘の軽減にも期待 「日本の伝統飲料・甘酒」の知られざる効能

松生恒夫(松生クリニック院長、医学博士)

2021年12月20日 公開 2024年12月16日 更新

便秘の軽減にも期待 「日本の伝統飲料・甘酒」の知られざる効能

女性のみならず、65歳以上の男性も悩んでいる人が多い便秘。ヨーグルトやシリアル、お茶など、いろいろ試したが、いま一つ効果を実感できない人にぜひおすすめしたいのが甘酒だ。

これまで5万件以上の大腸内視鏡検査をおこない、「便秘外来」も開設している松生恒夫医師が便秘に対する甘酒の効能を紹介する。

※本稿は松生恒夫著『健康の9割は腸内環境で決まる』(PHP新書)より一部抜粋・編集したものです。

 

腸内環境を改善する甘酒パワー

江戸時代、甘酒は夏バテの予防ための飲み物でした。俳句で甘酒は、夏の季語です。では、この甘酒は腸によいのでしょうか。甘酒の大腸への効果を検討しているうちに、麹菌のパワーについて知りました。まだ動物実験ではありますが、甘酒が腸内環境をよくするというデータも認められてきたのです。

そこで、人間でも甘酒が腸内環境をよくしてくれるかどうかを調査しました。私のクリニックに来院し、酸化マグネシウムを服用している通院中の慢性便秘症の患者さん(調査の対象は19名の女性の慢性便秘症の方)へ、甘酒を毎日摂取していただきました。なお、この調査はヘルシンキ宣言に則っておこないました。

私は腸に対する甘酒の効果を調べるため、市販の缶入りの甘酒を使って検討をおこないました。19名の患者さんに、1日1本(190ミリリットル)の甘酒を30日間飲んでもらい、便通などの変化を調べたのです。

缶入りの甘酒を用いたのは、成分が安定していて検討に適しているからです。その結果、19名中18名が、「便通の改善(楽に排便できる)」「排便回数の増加」「下剤(酸化マグネシウム)の錠剤が減らせた(甘酒摂取前の酸化マグネシウム製剤服用量898ミリグラムから698ミリグラムへと減少)」などの効果がみられました。

また、便の形状について尋ねたところ、実験の開始時には、31.8%だった「泥・水状」という回答が、甘酒の摂取後には6.5%に減り、「バナナ状」という答えが59.1%から83.9%ヘと大幅に増えました。また、排便臭も「強い」という人が減って、「気にならない」という人が増えたのです。

これはまさに、内臓感覚改善、腸内環境改善といえます。これらの結果から、甘酒が確かに、腸の働きを促進することがわかりました。次に甘酒摂取によって腸内細菌叢のビフィズス菌が占める割合に変化があるかどうかを調査しました。

私のクリニックの「便秘外来」を受診する20〜60歳までの女性で慢性便秘症の患者(酸化マグネシウム製剤服用でコントロール可能な患者)16名を対象としました。「米麹」の甘酒125ミリリットルの飲用者と「酒粕と米麹」の甘酒190ミリリットルの飲用者を比較し、それぞれの甘酒を1日1回30日間飲用した場合と対照の飲料を30日間飲用し続けた場合を比較しました。

なおこの研究ではT-RFLP腸内フローラ解析によるヒト腸内細菌叢でのビフィズス菌の割合を調べています。T-RFLP腸内フローラ解析とは、さまざまな細菌が混在する媒体から細菌の遺伝子断片(DNA)だけを回収し、PCRで増幅後、特定の遺伝子配列を切断する酵素と遺伝子配列を読み取る装置を用いて、約10種類に分類された細菌媒体の中でそれぞれが占める割合を求める分析法です。

その結果、米麹だけの甘酒を飲んだグループよりも酒粕と米麹の甘酒を飲んだグループのほうが腸内フローラにおけるビフィズス菌の占有率を上げることが確認できました(松生クリニックと森永製菓研究所との共同研究)。

このような結果は酒粕と米麹で作った甘酒(麹菌、植物性乳酸菌、酵母菌の関与)のほうが、米麹だけで作った甘酒(麹菌のみ関与)よりビフィズス菌を増加させる作用が強いということを示しています。いずれにせよ麹菌が関与した甘酒はビフィズス菌を増加させることが判明したのです。

過去の研究によると、試験管内での実験ではありますが、甘酒に含有される麹菌から生産される酸性プロテアーゼという酵素がビフィズス菌を増やすということも報告されています。

その後、慢性便秘症の患者さんに甘酒を90日間摂取していただき、腸内フローラを調べたところ腸内のビフィズス菌が増加することも確認しました。つまり、甘酒によってビフィズス菌が増加し、腸内環境が良好になっていたといえるのです。

 

昔から知られている甘酒が持つ保温効果

併せて、以下のようにして、甘酒の保温効果も検証しました。200ミリリットルのビーカーに、甘酒、15%濃度のデンプン水溶液、15%濃度の砂糖水、純水(不純物を含まない水)を、それぞれ190ミリリットル入れ、かき混ぜながらヒーターで45〜46度になるまで温めました(デンプン水溶液と砂糖水の濃度は甘酒と同等)。

その後、温度低下の様子を観察、記録しました。すると、温度が一度下がるまでにもっとも長い時間を要したのは、甘酒でした。甘酒の温度保持効果はその後も続き、甘酒、デンプン水溶液、砂糖水の順に温度が高く保たれたのでした。この結果から、甘酒が腸に対する温め作用を発揮して、症状の改善効果にも影響したと推測できます。

甘酒は、奈良時代の『日本書紀』や平安時代の『延喜式』にも登場する起源の古い飲料で、江戸時代には一般に飲用されたとの記述があります。甘酒は古くから日本に伝わる発酵食品で、善玉の腸内細菌のエサになる食物繊維やオリゴ糖を豊富に含んでいます。

その主原料には酒粕と米麹があり、酒粕あるいは米麹の一方のみを用いて作られる甘酒も多く存在します。近年、日本の伝統食材である甘酒が、現代人の健康を支える機能性食材として注目され、健康機能に関する研究も進められています。

酒粕や米麹に含まれる成分には、腸内環境の改善、肥満の抑制、脂質代謝の改善、コレステロール上昇の抑制、血圧上昇の抑制、骨粗鬆症・血流の改善、健忘症の予防などの効能があることがわかりました。

また甘酒は、一般食品であることから日常的に飲用される機会が多く、アルコール分が高い製品でなければ、安全性が懸念されることもない飲料です。

そのため、軽度便秘症と診断され、「便秘外来」に来院されるような方にも、糖質の摂取量に注意を要するといったような他の疾患(たとえば、糖尿病など)がなければ、水分摂取の一環としても甘酒の飲用は有用なのです。

同時に、発酵食品であることから腸内細菌叢を改善して腸の働きを高めることが期待できます。しかも、甘酒を温めて飲めば、内側から腸を温めるのにも役立ち、二重の意味で腸冷え対策になります。

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数々の健康機能が認められる甘酒

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