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社会

カラスに襲われ重傷の子猫 手術もできないほど小さな命の行方

佐竹茉莉子

2026年02月17日 公開

カラスに襲われ重傷の子猫 手術もできないほど小さな命の行方


治療室では観念する

日本中が猫への愛であふれる「2月22日」猫の日。障害をものともせずたくましく生きる猫、難病を抱えながらも家族の愛に包まれて暮らす猫、ペットロスの家族を救った猫、認知症の犬を献身的に支えた猫、人間なら128歳の年齢まで生きた猫...... 奇跡みたいな"ふつうの猫"たちの、感動の実話を集めた書籍『猫は奇跡』(佐竹茉莉子著/辰巳出版)より、カラスに突かれて大怪我を負い、行き倒れていた子猫「むぎ」の物語をお届けします。

 

大ケガの子猫

佐竹茉莉子
保護10日後。保護された母と対面

尚子さんは都内の会社勤めから転職したひとり農家だ。千葉県成田市で無農薬の野菜を作っている農家たちの共同出荷場のスタッフでもある。

6月終わりの暑いその日は、出荷作業の最中だった。近所の人が飛び込んできた。

「朝からずっと子猫の鳴き声がしてたんだけど、見当たらないの」

行って探してみると、庭の隅で1ヶ月過ぎくらいの子猫が行き倒れていた。お腹には直径2センチ近くの穴が開いている。大きく腫れている右前脚は不自然な曲がり方をしている。目をそむけたくなるのは、右後ろ脚だった。折れた細い骨だけになって付け根の部分は暗赤色だ。どうやらカラスに突かれてから、かなり時間が経っていると思われた。

ふと見ると、かたわらに小ぶりの猫が座っていた。乳が少し張っているようにも見えるので、うら若い母猫のようだ。近くの老夫婦の敷地に出入りしていた母子猫だとわかり、急ぎその家に行って飼い猫でないことを確かめ、子猫を動物病院に連れて行くことの了解を得た。

 

先生、お願い!

最初に駆け込んだ近くの獣医は、無反応の子猫を見て「これはもう難しい。ここでは診られない」と言った。

尚子さんは諦めることはできなかった。3年前の朝、道の駅に納品に行く途中でカラスに囲まれ突かれている最中を保護した子猫「つな」は、自力排泄も難しいだろうと診断された重傷だったが、その後の診断で「すべて治っている!」と獣医を驚かせる奇跡の復活をとげた。

市内中心の病院へと急いだ。じっくりと診てくれた先生に、尚子さんは言った。

「先生、その子、今、うちの子にしました。だから、できる限りの治療をお願いします!名前も決めました。むぎ。踏まれても踏まれても立ち上がる子になるように」

つなを保護した後にも、行き場のないのをほっておけなかった子猫の「わら」を迎え、すでに家には2匹がいる。ひとり農家の身には経済的にも大変だし、なにより農作業の間、大ケガの子を家に置いておられようか。そうは思っても、「うちの子にする」という言葉は口から飛び出していった。

 

目を見張る生命力

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包帯を取り替えさせてくれないので、ハンモック利用(尚子さん提供)

むぎはそのまま入院となった。小さすぎて手術などはまだできないので、5日後から通院に切り替えて、感染症を防ぎながら、骨に新しい肉をつけていくための治療を一日おきにすることになった。その治療は数ヶ月を要し、折れた右後ろ脚と右前脚の麻痺はもう治らないとのことだった。

いのちの危機を脱したむぎは、その目にどんどん生命力を宿してきた。どうしてそんなに動かせるのかと思うほど、四肢をばたつかせる暴れん坊である。おかげで包帯がずれるので、とうとう先生が作った小さな術後服を着せられる羽目になった。

佐竹茉莉子
あちこち治療中だけど元気いっぱい

遊びたい盛りなので、一日に少しだけ先住猫と一緒にしてやる。1歳前のわらに飛びかかっては、いつもしばかれている。だが、しばき方がソフトなので、「動物たちって、よくわかっているなあ」と、尚子さんはいつも感心する。

むぎのはしゃぐ姿を見ると、麻痺して曲がった前脚も、骨だけの後ろ脚も、まるで苦にせず使いこなしているように尚子さんには見える。きっと、つなと同じ奇跡がむぎにも現在進行形で起きつつあるに違いないと、確信する。

 

みんなしあわせに

佐竹茉莉子
大ケガからひと月。治療中だがすくすく成長中

むぎの母さんは、若くしてどこかで出産し、老夫婦の庭に入り込み、小さな体で4匹の子を育てていたようだが、子猫はいつしか2匹だけになっていた。育たなかったのかもしれないし、カラスに食べられたのかもしれない。老夫婦は、自分たちの年齢を考え、家に入れることはなかった。むぎが大ケガをしたとき、母猫は助けてくれる家を必死で探し、運んだのだろう。

むぎと同じことは繰り返させない。尚子さんは、もう一歩を踏み出した。地域でTNR活動をしている人の協力を得て、むぎの母猫と兄猫を捕獲。諸検査後、母猫の不妊手術を済ませた。

母子共に預かって譲渡先を探しましょうと申し出てくれたのは、個人の犬猫シェルター。春先に直売所の周りで保護した黒い子猫をインスタ経由で預かって譲渡先につなげてくれた縁がある。シェルターに向かう日の母猫のケージに、しばしむぎは入れてもらった。再会、そして別れ。それぞれに新しい暮らしが始まる。

父猫と思われる、根っからのノラの去勢もし、ねぐらとご飯に困らないよう出荷場のみんなで見守ることにした。さらに、脚にケガをして民家に助けを求めてきた若いオス猫も保護した。この子も傷の手当てと去勢手術後、シェルターで預かってくれている。

佐竹茉莉子
やんちゃすぎてわら兄ちゃんにしばかれる(尚子さん提供)

むぎの今後の治療費やファミリー猫支援のため、農家さんや店の客などで、「むぎ基金」が立ち上がった。チャリティー・トートバッグの売り上げをむぎ基金としてくれる客もいれば、ミニメロンなどの売り上げを寄付してくれる農家もいる。むぎの元気といい、支援の輪の展開といい、日常に立ち現れる奇跡とは、「前を向く」まっすぐな気持ちが生み出すものかもしれない。

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むぎの兄猫は「タロ」に

その後、シェルターで人なれした後、むぎの母さんとお兄ちゃんは一緒にもらわれていった。「苗ちゃん」と「タロくん」という名をもらい、猫が初めての一家の寵愛を浴びている。

佐竹茉莉子
むぎの母猫は「苗」に

幼い母だった苗ちゃんは、外猫時代は尖っていた目がすっかり丸くなった。包帯を巻かれたむぎは、先住猫たちに飛びつき今日も健やかだ。

佐竹茉莉子
前脚と後ろ脚が麻痺しているとは思えぬこの勢い。まさに「麦」のような生命力

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