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「アクセスが悪いから客が来ない」は間違い? 遠くても行きたいと思わせる観光地の共通点

内藤英賢(合同会社Local Story代表)

2026年04月27日 公開

「アクセスが悪いから客が来ない」は間違い? 遠くても行きたいと思わせる観光地の共通点

旅行するときに「重要視すること」はなんですか?料理、ホテル、イベントーー旅行の目的は人それぞれですが、世界に目を向けてみると博物館めぐりやガイドツアーなどの「体験価値コンテンツ」が観光トレンドになっていると、観光地のマーケティング・ブランディングを手がける内藤英賢さんはいいます。

内藤さんいわく、「日本のアクティビティ市場は世界最低水準で、まだまだチャンスが眠っている」とのこと。日本の体験アクティビティの可能性について、語っていただきます。

※本稿は、内藤英賢著『観光ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

チャンスしかない!日本の体験アクティビティビジネス!

世界の観光トレンドで押さえておきたいポイントの1つが、「世界の旅行のトレンドは体験価値を求めている」こと。つまり、体験価値コンテンツの需要はますます重要になることは間違いがない訳です。そして、その世界のツーリストが日本で増えることもまた追い風になります。

つまり、この体験コンテンツは非常に伸びしろがあるジャンルだと言えます。このことに最も気づいているのはどこでしょう?そう外資ホテルたちなのです。

海外で体験価値は旅行の中核をなす価値だという認識であり、体験アクティビティに多額の費用を払う旅行客がいると知っているが故に、日本のマーケットを見ると必然的にチャンスしか感じないのだと思います。

例えば、イギリス最大手のチェーンホテルIHGのインディゴブランドシリーズでは、地域との連携をブランド体験の重要なポイントに組み込んでおり、フランス最大手のアコーグループのグランドメルキュールシリーズでも、同様のコンセプトで展開されており、いかに外資系ホテルが地域特有の体験価値を宿泊体験に組み込むことを重要視しているかが分かります。なぜでしょうか?

それは地域固有の体験価値が、売上と予約の質に直結するからです。英国のトラベルテック企業Turneo(トルネオ)社のデータによれば、ホテルで体験アクティビティを予約したゲストは、そうでないゲストに比べてキャンセル率が30%も低くなることが分かっています。さらに、滞在期間も長くなり、結果として客室単価やホテル内消費額も向上するという相関関係が実証されているのです。

したがって、多くの外資系ホテルの公式Webサイトを見ていただくと「experience(体験)」というページがわざわざ用意されているのです。日本の旅館ホテルの公式Webサイトをご覧いただくと、「客室、料理、お風呂(温泉)、館内案内、観光案内、アクセス」というコンテンツはあれども、「experience(体験)」というコンテンツを持つところは驚くべき少なさであることが分かると思います。

ここでもまた、外資の方が日本の魅力を良くわかっているというパラドキシカルな現象が起きているのです。そうまさにホテルと体験コンテンツがドッキングしていくというのが今後の日本の観光ビジネスにおいて極めて大事なポイントになるでしょう。

旅行者はその宿に泊まりたいから旅行に行くのでしょうか?(もちろんそういうデスティネーションになりえる宿も世の中には存在しますが)多くは、見たい景色や、食べたい料理や体験したいことがあり、そこに行きたいから近くの宿に泊まるという順序なのではないでしょうか?

そうであれば、旅行者に対して、宿泊事業者も一体となって地域の魅力的なコンテンツを紹介するというのが当たり前なのではないでしょうか?そのための「experience(体験)」コンテンツなのです。

ここでもうひとつ大事な点があります。それは、「紹介する観光コンテンツは不平等であれ!」ということです。少しあえて強い表現を使ったのは、日本での体験コンテンツ紹介となると、変に平等主義が過ぎて、全ての体験コンテンツを画一的に一律に紹介して「はい。この中からお好きなものを選んでください」というスタイルが非常に多いです。

これは一見親切のように見えて、非常に不親切な設計です。遠方から来る旅行者はどの体験コンテンツのどの事業者が優れた体験価値を提供してくれるのか分からないので、むしろ「この観光地に来たらこれをやれ!」くらいの強いお勧めを旅行客は望んでいるのです。

そして、宿泊施設の公式Webサイトは旅行計画時の事前閲覧率が非常に高いのです。観光に行くために、旅行者は様々な下調べをしますが、飲食や体験などが当日決めることが多いのに対して、宿泊は事前に見てしっかり決めることが多いので、宿泊施設が体験コンテンツをしっかり紹介して上げることは、「その地に行く」という意思決定を含めてとても大事な活動になります。

今後、このことに気付き、宿泊施設と体験アクティビティを一体となって紹介販売していくエリアは世界中のツーリストから選ばれるエリアになることでしょう。

 

辺境の地から始まる日本アクティビティの逆襲!

「でも、どうせ日本人は買わないでしょ?」という意見も出るかと思います。これに関しては、まだ大筋そのとおりなのですが、私の意見では「少しずつですが確実に日本も体験コンテンツにお金を払うようになってきている」と感じるところがあります。

全国を巡る中で、「北こぶしが凄い」という意見を聞くことが多々あり、実際に赴いてみました。北こぶしとは北海道、知床にあるリゾート旅館「北こぶし ホテル&リゾート」のことです。

知床はアイヌ語で「さいはての地」を意味するくらい、日本でも最果ての地です。しかし、ここで、日本の観光の未来が凝縮したような素晴らしい取り組みをしているリゾートと場所があるので、紹介したいと思います。

北こぶしは最寄り空港の女満別空港から車で2時間という立地にあります。このホテルのコンセプトは「ネイチャーリゾート」、自館のことを全面に出すのではなく、知床という圧倒的な大自然がコンセプトであるという発想です。

これは正に前述した「人はホテルを目的地にするのではなく、その土地、観光地を目的として来ている」と言うことを正しく理解している結果だと思います。したがって、そのネイチャーリゾートを最も体験価値として提供してくれる存在であるガイドが最重要コンテンツとして位置付けられているのです。

北こぶしの桑島専務は次のように語ります。「ホテルのスタッフがお客様と触れあえるのはチェックインと夕食の時のわずかな時間です。ところがガイドは何時間もお客様と共に時間を過ごすので、お客様から得られる情報やお客様に与える印象が桁違いなのです」と。

まさにそのとおりで、ガイドを受けた旅行者は、その土地の自然、文化、歴史に深く触れることになり、その旅は心の中に深く刻まれることになります。それこそが体験価値となるのです。北こぶしの公式Webサイトを見ると、やはり「エクスペリエンス」というページが存在し、この地が提供できる体験価値を紹介しているのです。

いや、それは北海道知床の大自然があるのだからできるのだという声もあるでしょう。いえ、それはそんなことはありません。

例えば、福井県あわら温泉のホテル八木さんが提供している「蓮如上人の足跡を巡るガイドツアー」ですが、福井県あわら温泉には北海道のような圧倒的な大自然はありません。どちらかというと、バブル期に流行ったであろう全国で良く見かける温泉街です。

ところがひとたび、外に出てガイドを受けると、戦国動乱期に京都を追われた本願寺蓮如上人が追手から逃げてあわら温泉近くにある吉崎という地で、一大拠点を築いていたというストーリーを知ることができ、当時、「蓮如の話を聞くために、全国から数万人とも言われる人が車もない時代にこの吉崎を訪れた、蓮如はスーパースターだったのです」――このような説明を受けると、その土地に関する造詣がぐっと深まり、その土地のファンになるのです。

今後、このような取組みをして観光地のファンを増やしてリピーターを獲得できる観光地、体験価値を国内外の旅行客に提供できる観光地だけが発展していくことでしょう。よく地方の観光地に行くとこのようなことを言われます。「ウチはアクセスが不便だから観光客が来ないんですよ」

しかし、それは全くの間違った見解であると思います。人は見るべき、食べるべき、体験すべきコンテンツがあれば這ってでもいくのです。海外の人がこぞって訪れる山形県蔵王や銀山温泉は東京から5時間近くかかります。年間400万人が訪れる草津温泉も東京から4時間近くかかります。電車も通っていません。それでも人は訪れるのです。なぜでしょうか?

そこに行くべきコンテンツがあるからです。そして、人の往来が増えれば、アクセスは必ず整備されます。なぜならビジネスになるからです。

「コンテンツはアクセスを凌駕する」これは私が様々な観光地を見てきた中で言える真実です。

プロフィール

内藤英賢(ないとう・ひでさと)

合同会社Local Story代表

合同会社Local Story代表。早稲田大学政治経済学部卒業後、三菱UFJ銀行に入行。退職して、吉本興業の養成所(NSC)を経て約3年半芸人として活動。その後、観光業界へ転身し、株式会社アビリブに入社。株式会社プライムコンセプトの創業にも参画し、取締役副社長COOなどを歴任。宿泊施設や観光地のマーケティング・ブランディングを中心に300以上のプロジェクトを手がける。現在は地域活性化やDMO支援、講演活動など幅広く活躍している。
X:https://x.com/Naito_Local

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