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[日本経済]・「スマート革命」で危機をチャンスに変える



2013年04月08日 公開

片山 修(経済ジャーナリスト)

『「スマート革命」で成長する日本経済』より》

救世主はスマートグリッド

日本再生には「スマート化」が不可欠

 日本人の電気をめぐる認識は、2011年3月11日の東日本大震災と、原発事故に伴う電力供給不足によって、大きく変化した。5200万キロワットあった東京電力の供給能力は、震災直後の3月、3100万キロワットまで落ち込んだ。同4月に4000万キロワットに回復したが、供給不足は免れず、緊急措置として計画停電が実施された。

 これまで、日本人の多くは、電気はたとえるなら空気のように、必要な量をいつでも使えるものと思い込んできた。しかし、震災を経て、その認識は、覆された。

 ただ、私たちがエネルギー不足のもたらす深刻な影響を体験したのは、じつは今回が初めてではない。1973年の第一次石油危機により、電気使用制限令が発効され、契約500キロワット以上の大口需要家を対象に15%削減の使用制限令が発動された。ネオンや広告塔など不要不急の電気使用は原則禁止となり、スーパーの棚からトイレットペーパーが消えたことが思い出される。

 当時、石油価格の高騰から、電力各社の収支は大幅に悪化し、電力9社は一斉値上げに踏み切った。

 日本のように、コンセントからいつでも安定した電気を使えることは、じつは、世界的に見れば珍しいのだ。日本人が、当たり前と錯覚するほどに、安定した電力供給を実現してきたのは、じつは、日本の電力各社が石油に替わる電力源として原子力発電を中核に置き、電気の安定供給を進めてきたからだ。

 第一次石油ショック当時、日本は、発電量の75%を石油火力に依存していた。脱石油および電源多様化が叫ばれ、原発の促進が図られたのだ。

 実際、震災前の2010年9月に発表された「東京電力グループ中長期成長宣言2020ビジョン」は、原子力発電の推進を前面に掲げていた。原発は、火力発電所と比較して、発電時の二酸化炭素排出量が圧倒的に少ない。使用すればするほど効率が上がり、低炭素になるとして推進されてきた。

 しかし、その原発が惨事を引き起こし、皮肉にも、今回、供給不足の元凶になったので「3・11」を機に、これまでのエネルギー政策を見直さざるをえなくなったのは事実であ

 かわって、注目を集めたのが、太陽光、風力、水力、バイオマスなどの再生可能エネルギー(再エネ)だ。再エネの推進は以前から行なわれてきたが、事故後、これまで以上に再エネの普及は脚光を浴びた。

 しかしながら、現状では、再エネにすべての希望を託するわけにはいかない。なぜなら、再エネは自然条件に左右され供給量が安定しないという弱点があるからだ。また、風力発電は、風力や風速により発電出力が変動するため、風況のよい場所を発電所に選定しなければならない。事実、風力発電所の建設地は北海道と東北に集中している。コストの問題もある。ドイツでは、固定価格買取制度の導入により、太陽光発電の導入が大幅に増加したものの、買い取り費用が電気料金に上乗せされ、国民負担が増大するといった問題が発生するなど、必ずしもうまくいっているとは限らない。

 再エネは、電力会社だけでなく、日本のあらゆる産業にとって、今後の成長分野になるからだ。日本の将来を見据えれば、再エネの利用拡大を後押しするのは、欠かせない。

 いま、そうした苦況の救世主として、世界的に注目されているのが、スマートグリッド(次世代電力網)だ。スマートグリッドは、ICT(情報通信技術)を駆使して、電力の需要と供給のギャップを埋め、効率的に管理する次世代エネルギーシステムである。スマートグリッドの実現は、エネルギー供給不足の今日、切実な課題だ。

 一企業レベルの問題ではなく、日本の将来のエネルギー事情を左右するほどの重大性を秘めている。しかも、スマートグリッドは新しい産業の誕生の可能性すら秘めているのだ。

 振り返ってみれば、日本は、1973年と79年の2度にわたる石油危機において、省エネ技術を徹底的に磨き、世界に冠たる省エネ家電を生み出した。

 私は、石油危機がそうであったように、今回の電力危機もまた、節電システムを軸に、「スマート革命」を果敢に進め、日本再生を果たす契機にしなければいけないと思う。

 そんな視点を踏まえながら、供給サイドからスマートグリッドの実相を見てみよう。
  

消費量を監視しながら、発電量をコントロール

 スマートグリッドとは、「グリッド」、すなわち電力網をスマート化する取り組みのことを指す。「賢い電力綱」「次世代電力綱」などと訳される。

 ただし、電気は目に見えないため、電力網といわれても、何を指すのかわかりにくい。

 東京電力技術部スマ-トグリッド戦略グループマネージャーの岡本浩氏は、次のように説明する。

 「たとえば、インターネットという言葉には、ネットそのものに加え、パソコンやサーバー、クラウド、スマートフォンなどまで、すべてのイメージが含まれますよね。『電力網』もそれに近い。電気のネットワークそのものに加え、発電所や、再エネなどの分散型発電設備、電気をお使いになるお客さまの設備、蓄電池などまで、すべて電力網に含まれるんです」

 ここで、スマートグリッドを正しく理解するため、電力網について、入り口から出口まで、見ておこう。

 よく知られているように、発電所で発電された電気は、遠方まで効率よく運ぶため、27万5000ボルトや50万ボルトという高圧で送り出される。消費地の近くまで送られたのち、複数の変電所を介して、徐々に電圧を落とし、需要家の元へ届けられる。

 まず、超高圧変電所、一次変電所だ。ここで、電気は、150万4000ボルトから6万6000ボルトに電圧が下げられる。大規模工場や、新幹線などを動かす鉄道変電所などには、この状態で届けられる。さらに、中間変電所を介して2万2000ボルトまで下げられ、大規模ビルなどへ届けられる。

 その後、配電用変電所を介し、6600ボルトまで下げられ、ビルや中規模工場に届けられたり、さらに電柱の柱上変圧器を介して、200ボルトや100ボルトまで下げられ、住宅や商店、小規模工場に届けられる。

 電気が届けられるまでの流れをわかりやすくするため、目に見える水にたとえてみよう。

 発電所は、水でいえば水源である。水源から流れ出た水は、川や運河を流れていく。これは、電気でいうところの送電網に当たる。水を取り出す取水場に当たるのが、もっとも消費者に近い、変電所の配電用変電所だ。そして、取水口の先の配管が配電綱となる。

 太陽光発電パネルなどの分散型電源は、水の例でいえば、いわば井戸に当たる。各家庭で地下水をくみ上げて使うことができるように、太陽光を使うことができる。

 水源から溢れ出した水は、流れるにしたがって別の水源の水と合流し、より大きな川を形成する。そのとき、水は混合されるため、下流の取水場から特定の水源の水だけを取り出すことはできない。井戸からくみ上げた水も、川に流せば、ほかの流れと混合され、井戸水だけを取り出すことはできなくなる。

 これは、電気も同じである。各発電所で発電された電気は、いったん電力綱のなかに流れ込むと、火力発電所で発電した電気も、住宅の屋根の太陽光パネルで発電した電気も、すべて混合され、特定の電源で発電された電気だけを取り出すことはできなくなる。

 電気と水の違いは、水の場合、水源から取水場まで流れるのに時間がかかるのに対して、電気は、発電すると同時に需要家の元に届くことだ。

 つまり、発電所や発電設備でつくられた電気は、発電された瞬間から、すべて混合される。したがって、特定の発電所や、発電設備で発電した電気だけを使うことは、契約上は可能であっても、物理的には不可能だ。

 発電すると同時に、需要家の元に届くということは、すなわち、電気の供給サイドは、需要サイドが使う分だけの電力を、常に発電し続けなくてはいけないことを意味する。電気は、基本的には貯めておくことができないからだ。

 将来的に蓄電池の性能が、格段にアップすれば、需要を賄えるだけの電気を在庫することが可能になるかもしれない。しかし、現状の技術では到底不可能だ。したがって、電力会社は、電気の消費量を常に監視しながら、発電量をコントロールしている。

 つまり、常時、発電量と消費量をイーブンにしているのだ。しかも、驚くべきことに、調整は秒単位、いわばリアルタイムで行なわれているのだ。なぜか。

 一瞬でもバランスが崩れれば、広範囲にわたって、大停電が発生するばかりか、電気の品質(電圧と周波数など)に関わる。電力会社は、発電量と消費量をイーブンにコントロールすることにより、電圧と周波数を一定に維持しているのだ。

(中略)

スマートグリッドの舞台が整っている日本

 電力網は、このように、需要と供給の繊細なバランスのうえに成立している。しかし、再生可能エネルギーの導入によって、ここに新たな問題が発生するのだ。

 再エネの発電量は、天候に左右されるなど波があり、需要に合わせてコントロールできない。たとえば、太陽光発電パネルの場合、日差しが出ているときと出ていないときとでは、発電量はまったく異なる。

 同じ日でも、太陽に雲がかかれば、一瞬で発電量は大きく下がる。風力発電も同様だ。風がある場合と、ない場合では発電量が異なる。

 これは、前出の自転車の例を借りれば、坂道にさしかかっても、ペダルをこぐ力を強くすることができなかったり、逆に、坂がゆるやかなときに強くこいでしまったりするということだ。これでは、系統全体の周波数を一定に保つことはできない。

 このため、需要とは関係なく、発電する再エネの分を調節する必要が出てくる。すなわち、需要予測に加え、太陽光や風力による発電量を予測し、系統全体が周波数を維持できるように、火力発電所に投入する燃料の量を秒単位で調節する。離れ業である。

 欧州には、ドイツ、スペイン、デンマークなど、日本以上に再エネの導入が進んでいる国がいくつもある。こうした国では、どのように調節しているのだろうか。

 実は、これらの国の場合、隣国と陸続きになっているため、島国の日本とは事情が異なる。急激な需要の変化があった場合、自国だけでなく、他国の設備を動員して対応することが可能なのである。

 つまり、隣国の存在は、足りないときに電気を補い、つくり過ぎたときに消費する、いわば巨大蓄電池の役割を担う。

 日本は、欧州各国と比較して再エネの導入量が少ないと指摘される。それは、近隣国と電気の融通ができないという理由があるからだ。

 しかし、この条件を裏返してみると、日本は、自国だけで完結するスマートグリッドの舞台が整っているともいえる。

 その意味で、日本の場合、東西によるヘルツの差を克服して、全国レベルのスマートグリッドが実現できれば、需要の変化に対して、より広範囲にわたって、柔軟な対応が可能になる。

 現在、東西をつなぐ周波数変換所(FC)は、静岡県と長野県に3カ所あるが、融通可能な電力は最大100万キロワットにすぎない。「3・11」後、電力9社は、2020年までに1300~1400億円をかけて、FCの増強を計画しているが、その場合、能力は2倍以上の30万キロワットになる。さらに300万キロワットまでの増強を進めるべきという声もあるという。その費用は、いずれ電気料金に上乗せされる。

 だとするならば、一層のこと、成長戦略の一環として、公共投資でFCの建設を促進してはどうか。それは、利用者が負担することもない。公共事業のバラマキより、よほどいいだろう。

 

片山 修

(かたやま・おさむ)

経済ジャーナリスト

愛知県名古屋市生まれ。経済ジャーナリストおよび経営評論家。緻密な現場取材に支えられた企業経営論、組織論、人事論には定評がある。『東京スカイツリー六三四に挑む』『なぜザ・プレミアム・モルツは売れ続けるのか?』(以上、小学館)、『誰も知らないトヨタ』(幻冬舎)、『人を動かすリーダーの言葉-113人の経営者はこう考えた』『サムスンの戦略的マネジメント』『日本企業がサムスンから学ぶべきこと』(以上、PHP研究所)など、著書多数。


<書籍紹介>

「スマート革命」で成長する日本経済

片山修 著本体価格 1,700円

工場、ビルや住宅の電力、エネルギー効率を劇的に変える革命「スマートグリッド」の全貌を、企業各社、自治体への徹底取材で描ききる!



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