専門家が薦める 「エネルギーのいま」がわかる必読書5冊
2013年04月09日 公開 2022年12月15日 更新
《『THE21』2013年4月号より》
単なる節電ではない、地球的な問題への理解を深める
原子力発電を含むエネルギーの問題が国民的な課題だ。しかし、この大きな問題に対して、正しい知識をもとに考えることができている人は、案外少ないのでは。 エネルギー・環境問題研究所代表の石井彰氏 によれば、テレビのコメンテーターの発言にも不正確な情報が多いという。原発や、再生可能エネルギー、いま話題のシェールガス、環境問題との兼ね合いなど、エネルギーの問題を正しく理解できる5冊を、石井氏に紹介していただいた。
刷り込まれたウソを正すことがスタート
東日本大震災と福島の原発事故以降、多くの人がエネルギー問題、とりわけ電力の問題に関心を寄せています。しかし残念ながら、エネルギー問題を大きな視点から理解することはせずに、原発の是非や節電の問題だけに矮小化してしまっている感は否めません。エネルギーは経済活動の根幹であり、どのようなビジネスにも必ず関わってくる問題です。その意味で、すべてのビジネスマンがこの問題を正しく理解し、考える必要があると思います。
そこで、より多くの人にエネルギー問題に関するさまざまな誤解を解いてもらおうと執筆したのが、『エネルギー論争の盲点』(NHK出版新書)という拙著です。まず知っていただきたいのは、エネルギー問題=電力問題ではないということ。電力として消費されているエネルギーは、全体の2、3割にすぎません。ガソリンで動く自動車などが最たる例ですが、エネルギーの大半は、石油などの化石燃料を直接燃焼することで使われています。エネルギーの問題を考える際には、電力とそれを含むエネルギー全体の問題を分けて考える必要があります。
化石燃料というと、「数年後に枯渇するのではないか」といった話が必ず出てきますが、じつはこの推測には明確な根拠がありません。1970年代には「石油(原油)はあと30年で枯渇する」と騒がれ、2007年ごろにも、「あと3、4年で石油の生産能力の限界が到来する」という説がささやかれましたが、いまになっても石油は枯渇していません。じつは、石油は現在の生産畳を100年近く維持できる資源量があることが明らかになっています。新しい油田の発見や生産技術の革新が進めば、この年数はさらに延びるでしょう。
そしていま、石油よりも有望な資源として注目されているのが天然ガスです。技術の発達によって、これまで利用できなかった天然ガスの生産が可能になっています。これにより、世界の天然ガスの資源量の評価は従来の6倍以上になり、あと400年以上はもつといわれています。もちろん、化石燃料は無尽蔵ではありませんが、まだ十分な量があることは認識しておくべきです。
再生可能エネルギーは地球にやさしくない?
日本の電力問題はたしかに深刻です。現在のところ、福井県の大飯原発の2基以外、全国の原発が停止しています。再稼働をするのか、それともほかのエネルギー源で賄うのか。いずれかの選択をしなくてはなりません。
原発反対派は、太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーにシフトすべきだといいますが、残念ながらこれらで原発の不足分を補うことは到底できません。 『パワー・ハングリー』(ロバート・ブライス著・古館恒介訳/英治出版) という本を読めば、再生可能エネルギーが巷でいわれているほど希望に満ちたものではないことがわかるでしょう。
この本に書かれた例ではありませんが、たとえば原発1基分の電力を太陽光発電で生み出すには、東京の山手線の内側に匹敵する面積にソーラーパネルを敷き詰める必要があるのです。それだけの面積にソーラーパネルを敷くのはコスト的に現実的ではありませんし、仮に実行したとすれば、その土地の植生や保水力、気温などに大きな変化が起こり、自然環境に重大な影響を及ぼすことになるでしょう。もちろん、家庭の屋根にソーラーパネルを設置するといった取り組みに異論はありませんが、原発の不足分を代替するには、再生可能エネルギーは、コスト面でも発電効率の面でも、また環境に対する負荷の面でも問題があることは知っておくべきです。
3・11以降、原発を肯定するのはほとんどタブーという雰囲気が蔓延しました。しかし、客観的なデータに基づかずに、感情や思い込みだけで判断するのは適切ではありません。この問題については、 『「反原発」の不都合な真実』(藤沢数希著/新潮新書) という本が、自分の頭で考えるためのいいきっかけを与えてくれると思います。
なぜアメリカでは原発を新設しないのか
とはいえ、原子力による発電が大きな問題を抱えていることはいうまでもありません。アメリカでは1979年のスリーマイル島原発事故以来、新設された原発は1つもありません。しかし、それは危険であるからというより、コストが高いことが主な理由です。
じつはアメリカでは、2012年に原発の新設計画が持ち上がったのですが、結局撤回されました。それは、シェールガスの増産によって天然ガスの価格が下落したため、わざわざコストの高い原発をつくるメリットがないと判断されたことが大きいのです。
このように、いま天然ガスの可能性が世界的に注目されています。たとえば、従来型の石炭による火力発電所を、最新型の天然ガス・コンバインドサイクル発電所に切り替えれば、発電効率は5割以上も上がります。天然ガスはより少ないコストで電力を賄うことができる有力な候補と考えられます。 『シェールガス革命とは何か』(伊原賢著/東洋経済新報社) という本を読めば、次世代エネルギーの主役と期待されるシェールガスについての基礎知識を得ることができます。
「CO2による温暖化」は疑問符がつくのが常識に
石油や天然ガス、石炭などの化石燃料を有効活用しよう、というと、「CO2の排出が増えて、地球の温暖化が進む」という反論が出るのが常です。しかし近年、この説はかなり疑わしくなっています。 『気候変動とエネルギー問題』(深井有著/中公新書) という本は、一般に知られた温暖化の知識の誤りをわかりやすく解説するとともに、地球の気温の変動には太陽の活動が大きな影響力をもち、現代の地球はむしろ寒冷化していることも指摘しています。
エネルギーの問題を考える際、環境問題はセットとなるものです。環境問題への正しい理解がなければ、エネルギーについても正しく考えることはできません。この国のエネルギー政策を不合理な方向に導かないためにも、エコロジストだけでなくすべての人が関心をもつべきだと思います。
石井 彰 (エネルギー・環境問題研究所代表)
1950年、東京都生まれ.上智大学卒業後、日本経済新聞社記者を経て、石油公団で資源開発に携わる。1980年代末からは石油・天然ガスの国際動向調査分析に従事。ハーバード大学国際問題研究所客員、パリ事務所長などを歴任し、現在は、エネルギー・環境問題研究所代表、(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構上席研究員、早稲田大学非常勤講師・研究員としても活躍している。
<掲載誌紹介>
THE21 2013年4月号
<今月号の読みどころ>
20~30代にかけては、仕事に直結した知識や技術を身につけることが、スキルアップやキャリアアップにつながります。しかし、40代に入ると、何をどのように学べばよいのかがわからず、自己啓発のギアチェンジをうまくできない人も多いようです。そこで今月号では、ミドルビジネスマンがさらに上をめざして成長する勉強法を考えてみました。本特集を読んで「大人のビジネスマン」としての魅力を身につけてください。