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パニック、脱走、避難生活のストレス 災害時に愛猫と生き延びるための3つの備え

川嶋伶(猫壱カンパニー CEO)

2026年04月24日 公開

パニック、脱走、避難生活のストレス 災害時に愛猫と生き延びるための3つの備え

「猫の避難は犬よりも難しい」。これは、猫と暮らす飼い主が直面する、重い現実です。

2024年1月1日に発生した能登半島地震から約1年半が経過した2025年夏の調査では、発災直後に高まった飼い主の防災意識が徐々に低下し、「何から準備すればよいかわからない」と回答する層が約2.5割にのぼる実態が明らかになりました。(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000076.000026351.html) 

なぜ猫を連れての避難は困難を極めるのか。最新のデータや猫の習性からその理由を紐解き、飼い主が今日から始めるべき「日常の備え」について考えます。

 

なぜ「猫の避難」は犬より難しいのか?3つの構造的要因とは

1.行動特性の違い:猫ならではの反応と行動

犬の場合、訓練や主従関係を通じてパニック時でもある程度の制御や指示が期待できます。しかし、猫は犬とは異なり、人の指示に従うことを前提とした動物ではなく、パニック時には野生の本能が強く働きます 。飼い主と一緒の避難を試みても、暴れたり逃げ出したりするリスクが犬よりも極めて高く、避難の難易度を押し上げています。

2.法的枠組みの欠如:逃げ出した後のリスク

意外に知られていないのが、災害時にペットが逃げ出してしまった際の「法的保護」の差です。犬には狂犬病予防法に基づき、収容・保護する公的な仕組みが確立されていますが、猫には同様の法的枠組みがありません 。一度屋外へ逃げ出してしまえば、自力での再会は犬以上に困難となります。

3.避難生活でのストレス耐性

アンケートによると、避難生活で飼い主が最も懸念しているのは「猫のストレスと体調不良(96.3%)」です。(https://digitalpr.jp/r/114244) 猫は環境の変化に非常に敏感であり、避難所での騒音や人の出入り、慣れないケージ内での長時間の拘束は、猫にとって命に関わるレベルの過度なストレスになり得ます。

 

新たなリスク:猫を介した感染症「SFTS」の脅威

近年、避難や保護の現場で無視できなくなっているのが、マダニが媒介する感染症「SFTS(重症熱性血小板減少症候群)」です。私たちもこの問題を、単なる動物の健康問題ではなく「人と猫の双方を守るべき課題」として強く認識しています。2025年には、三重県で猫の診療に関与した獣医師がSFTSを発症し、死亡する事例が報告されました。(https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/iasr/IASR/Vol46/546/546r08.html) 

猫はSFTSウイルスに対する感受性が高く、感染すると致死的な症状を示すことがあります。被災地や避難時など、屋外との接点が増える環境では、猫を介した人間への二次感染リスクも前面化します。獣医療関係者向けの手引き(2024年版)でも、猫の診察時における防護具(PPE)の着用や、非侵襲的な検査手法の重要性が説かれています。(https://www.niid.jihs.go.jp/images/vet/animal-borne/animal-borne-2_2024-07-04.pdf) 安全に猫を隔離・搬送できる能力は、今や飼い主自身の身を守るための「公衆衛生上のスキル」でもあるのです。

 

避難の成功を左右する日常の「ケージ慣らし」

防災グッズは「備えて終わり」ではありません。私たちが多くの飼い主様と接する中で感じるのは、「日常に取り入れられていない備えは、いざという時に機能しない」という現実です。最新の防災指針では、非常時の負担を軽くするために日常使いしながら備える「フェーズフリー」という考え方が主流になっています。

1.ケージを「安心できるシェルター」に

多くの飼い主は、ケージやキャリーを押し入れにしまい込み、通院などの「嫌なイベント」の時だけ取り出します。これでは、猫にとってケージは「恐怖の象徴」となってしまいます。

対策として、普段からリビングにケージを広げておき、中でおやつを与えたり、フリースマットを敷いて寝床として開放したりすることが重要です。

2.「おちつくネット」の併用

パニックで暴れる猫をそのままキャリーに入れるのは至難の業です。こうした際、洗濯ネットのように猫が落ち着くことのできる網状の袋に入れることは、猫の視界を遮り、狭い場所を好む習性を利用してリラックスさせる効果があります。

ネット越しに注射や診察を受けられるため、避難所や病院でのストレスも最小限に抑えられます。この「ネットに入れる習慣」も、爪切りなどの日常ケアを通じて慣らしておくことが不可欠です。

3.ポータブル製品の活用とシミュレーション

住宅の倒壊や車中避難、避難所での生活を想定し、折りたたみが可能で持ち運びに適した「ポータブルケージ」や「ポータブルトイレ」の準備が推奨されます。

私たちも猫のストレス軽減と飼い主の扱いやすさの両立を目指し、日常から使えるポータブルケージの開発・販売に取り組んでいます。

実際に猫がそのトイレで排泄できるか、ケージ内で食事ができるかなど、平時に「お泊まりごっこ」としてシミュレーションしておくことが、非常時の生存率を左右します。

 

備えは愛情の形

環境省はペットの同行避難を推奨していますが、現実には自治体の受け入れ体制には依然として課題があり、「避難所で猫は受け入れてもらえないのではないか」という不安を持つ飼い主は8割を超えています。(https://digitalpr.jp/r/114244) 

私たち猫壱は、防災専業のメーカーではありません。しかし、「猫と人がより良く暮らす社会をつくる」という視点から、この課題に向き合う責任があると考えています。だからこそ、「猫のための防災マニュアル」を無料で提供し、日常の延長線上でできる備えの重要性を伝え続けています。

プロフィール

川嶋伶(かわしま・りょう)

猫壱カンパニー CEO

「猫が幸せ、私も幸せ」というスローガンのもと、猫の行動や身体構造に特化した「猫工学」に基づく製品開発を牽引。
猫用爪とぎや爪切りで国内シェアNo.1を誇るブランドを築き上げ、グッドデザイン賞を受賞した「ウェットフードスプーン」を世に送り出すなど、猫視点に徹したモノづくりの第一人者。
また、猫専用の防災マニュアルの配布や、売上の一部を保護活動へ寄付するCSR活動を継続しており、家庭内のケアから社会的な福祉まで多角的に猫のQOL向上を追求する、猫用品市場の権威として高い信頼を得ている。

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