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「女子校育ち」で磨かれる「自分を主張する力」

2013年05月13日 公開

杉浦由美子(ノンフィクション作家)

PHP新書『女子校力』より

 

女子校出身の憂いと誇り

「女子校っぽいよね」――同性にはすぐにピンとくるらしい。モテることより先に笑いをとりにいく、基本は他人に関心がない、余計なことをつい言ってしまう‥‥‥一見すると、好き放題。そんな女子校出身者は社会に出て、冷たい視線にさらされる。異性もいる職場での女子どうしの監視。男性上司のメンツがわからない。「世間知らず」。誇りとコンプレックスの狭間で悩む彼女たち。でも空気を読まずに自分を主張できることこそ、新しい時代を生き抜く力では。ここにきて一部で人気が上昇! なぜいま女子校なのか? 78名の取材から見えてきた、いまどきの女子校育ちの強さと存在感のヒミツとは。

 

桜蔭の「自分力」は、ほかの女子校に通じる

 「自分を主張するためのスキル」が必要なのは、専門職や営業職といった総合職的な仕事だけではない。

 ある中堅メーカーの人事部の社員が言う。

 「一般職の採用を抑えているので、そのぶん派遣社員で優秀な人材がいれば、正社員に登用しています。全体的に見て事務職でしっかり仕事ができる人は減っていると思います。入力などの単調な作業をミスなく迅速にこなす。かつイレギュラーなトラブルが起きても、自分で考えて対応できる。そういうことができる人がほんとうに減っているんです。うちは給料が安いので、そのぶん相手の要求を聞くようにしています。子どもがいて残業ができないというなら、それに対応します」

 現在、どの企業も優秀な人材を採用するのに必死である。それは将来の幹部候補生だけではないのだろう。

 だが、「自分の言い分を通すだけのスキル」を磨いていくためには、どうしていけばよいのか。

 いま、労働市場で求められているものをあらためて考えてみる。

 文系東大生の半分が就職できない厳しい環境を尻目に、理系は好調だ。

 東大大学院工学系研究科修士課程から大手メーカーの研究職に就職した20代が言う。

 「面接のときに、ぼくらは『遺伝子工学をやっていました』とキリッと言える。ところが文系だと、何をやったか堂々と言わないんですよね。『国文科で滝沢馬琴の研究をやっていました』と言えばいいんです。でも、哲学や文学だと役に立たない感じがして言いにくいのかな、と思ったりしましたね」

 理系の学生には「大学で研究したこと」をきちんと伝えるコミュニケーション能力があったが、文系の学生にはそれがなかった。

 横の席の学生が「遺伝子工学をやっていました」とカッコいいことを言ったあとに、自分が「滝沢馬琴をやっていました」では恥ずかしいと考えたのかもしれない。もしそうだとすると、この文学部の学生は、空気を読みすぎて自分の情報を伝えられなくなったのだ。

 滝沢馬琴と答え、面接官に失笑されて「それはなんの役に立つの?」と意地悪な反応をされるかもしれない。だが、それに対して「役に立たない娯楽文学がいまでも残っていることを研究することで、日本の文化や歴史を知ることができると考えました」とでも言えばいいのだ。空気を読みすぎて、この文学部の学生はコミュニケーションができなくなっている。

 つまり、空気を読まないからこそできることがあるのだ。

 『進学レーダー』編集長の井上氏はこうも話した。

 「いま、ぼくは『自分力』が大切だと考えています。『自分力』というのは“他人なんてどうでもいいじゃん。自分は自分。やりたいことをやる”という力です。他人の目を気にしないで、自分の目標に向かっていける力が養える。世間がない女子校のメリットとしては『自分力』が養えることでしょう」

 たしかに、文化祭に行くと、女子校と共学校では女子のふるまいがまったく違う。共学の女子の大半はだれかといっしょに行動しているが、女子校では生徒は一人で歩いている。

 また、桜蔭の文化祭は理系のクラブの展示が集まる「サイエンスストリート」というエリアがいちばんにぎわっていた。化学部は化学反応を実地で見せる発表もしていて、入場を制限するほどであった。化学部が入れないので物理部をのぞくと、本格的なロボットを生徒が懸命に動かしている。電子工作は色や音を使ったものが多く、「音に合わせて光が動く」と生徒がていねいに説明してくれる。

 ほかの学校と桜蔭のいちばんの違いは、白衣のくたびれ具合だった。ほかの学校は、化学部や生物部でも白衣が真新しい。ところが桜蔭の生徒の白衣は使い込んであって、ときにはマジックや薬品の汚れもついている。

 彼女たちの熱気もさることながら、桜蔭をめざす女子小学生たちが実験や展示を見る目も熱い。数学部では来場者に数学の問題を解かせていたが、みなおもしろそうにやっている。

 彼女たちの熱意に押されて、廊下に逃れ、奥の階段を上がっていくと、いちばん上の階で天文気象部がプラネタリウムをやっていた。小さいながら本格的なプラネタリウムであり、そこで副部長の女子生徒が、「この回は即興で話すので生温かく見守ってください」と最初に言い訳をしながらも、頭のよさげなマシンガントークを披露する。

 アンドロメダの神話では、彼女を助けたペルセウスが美男子だったことにふれ、「イケメンはおいしいところをもっていくなあ。イケメンはいつもカッコいい。悔しいなあ、やっぱりイケメンじゃないとダメなのか」と、容姿がいい人間へのルサンチマンを吐き出して終わった。

 桜蔭だけではなく、鷗友学園の生徒たちも早口でまくし立てるように話す。



著者紹介

杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ)

ノンフィクション・ライター

1970年、埼玉県生まれ。日本大学農獣医学部卒業後、会社員を経て、2005年よりライターに。『AERA』『婦人公論』などの雑誌やWEB上で、主に団塊ジュニア世代以降の女性の消費、ライフスタイルなどについての取材・執筆を幅広く行なっている。著書に、『腐女子化する世界』『ケータイ小説のリアル』(ともに中公新書ラクレ)など多数。

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