(C)ずいの・系山冏/講談社(『税金で買った本』1巻「恩讐の彼方に」より)
ヤンキー高校生・石平(いしだいら)くんの成長とともに、図書館のリアルな日常やディープな裏事情をコミカルに描き出す漫画『税金で買った本』(ヤンマガWeb)。実写ドラマ化・アニメ化が決定し、さらなる盛り上がりを見せています。
インタビュー第2回となる今回は、原作者・ずいのさんのクリエイティブの核心を深掘りします。図書館員を目指したきっかけから漫画家の道へと進んだ経歴、そして本作に込められたこだわりについてたっぷりとお話を伺いました。
「自分には向いてない」から始まった図書館員時代

――ずいのさんご自身のご経歴について伺いたいのですが、そもそもなぜ図書館員になられたのでしょうか?
【ずいの】実は、子供の頃からぼんやりと「将来は漫画家になりたい」という気持ちがあったんです。でも、特に行動を起こさないまま大学生になってしまって。「しっかり地に足のついた仕事を考えよう」と思った時に、もともと本や図書館が好きだったこともあって、図書館司書の資格を取る勉強を始めました。
ただ、勉強を進めていくうちに「あ、これ絶対に自分には向いてないな...」と気づきました(笑)。そのまま進路が決まらないまま卒業間際になってしまい、これはまずいぞと思っていたら、たまたま近くで非正規の図書館員の募集を見つけたんです。そこに応募したら運よく採用されたという、行き当たりばったりのスタートでした。
――勉強されている段階で「向いてない」と感じられたのはなぜだったのですか?
【ずいの】図書館の仕事って、実はコミュニケーションが主軸になるのですが、私はそれが苦手だったんです(笑)。
――作中で、図書館に職場体験にやってくる女の子が「司書はコミュニケーションを取らなきゃいけない仕事なんだよ」と諭されるエピソードがありましたよね。(『税金で買った本』3巻収録「図書館概論」)
【ずいの】やっぱり多くの学生さんが「本が好きだから」という憧れで図書館に入ってくるんです。でも、勉強していくうちに「想像と違うぞ...」となってしまう。学生さんの中にも「好きだけど自分には向いてないかも」と悩んでいる方は多かったですね。
『税金で買った本』に影響を及ぼした2作品
――子ども時代から、本や漫画が好きだったとのことですが、どのような作品を読まれていたのでしょうか?
【ずいの】小学生の頃は、個人の家を開放して本を貸し出してくれる「家庭文庫」に通っていて、そこにあった青い鳥文庫の『パソコン通信探偵団事件ノート(パスワード)シリーズ』(松原秀行著、講談社)や『名探偵夢水清志郎事件ノートシリーズ』(はやみねかおる著、講談社)といったミステリー作品を読み漁っていました。
ただ、中高生になると活字の本はあまり読まなくなって、週刊少年ジャンプの『魔人探偵脳噛ネウロ』(松井優征作、集英社)という漫画にどっぷりはまりました。今『逃げ上手の若君』を描かれている松井優征先生の初期作ですが、ものすごく緻密に計算されて作られている漫画なんです。
例えば、「右側のページに大きなコマを配置して読者をびっくりさせる」といった、どうすれば面白い漫画になるかというネームの構成やテクニックは『ネウロ』から影響を受けています。
――なんと、当時読んだ漫画が『税金で買った本』にも影響を与えているんですね!
【ずいの】そうですね。また、『夜明けの図書館』(埜納タオ作、双葉社)という作品は、漫画を描く前から読んでいて、一つの基準になっている作品です。図書館のあり方や、本を貸し出すだけでなく「レファレンスサービス(利用者の疑問や情報探しを支援する業務)」にスポットを当てて、超リアルかつ理想的に描かれている素晴らしい漫画なんです。
非正規雇用の問題についても丁寧に取材して描かれていて、自分自身が漫画を作る上での目標であり、ライバルであり、常に意識している大切な作品です。
『図書館情報学概論』はまだ読み切れていない

(C)ずいの・系山冏/講談社(『税金で買った本』13巻「ビブリオバトルガイドブック3」より)
――本作は必ず巻末に参考文献リストがついていますよね。毎巻、参考文献を見るのを楽しみにしているのですが、たまにがっつりとビジネス書が入っているので驚きました。
【ずいの】『会議は長いのになぜ何も決まらないのか』(別所栄吾著、日本経済新聞出版)は、「選書会議」のエピソード(『税金で買った本』13巻収録「ビブリオバトルガイドブック」)で、キャラクターたちが会議を有利に進めるための根回しや、会議内の話を進めるにあたってどういう作戦を立てるかということを参考にしました。
また、『公務員の「係長」の教科書』は、公務員と民間企業で働く人には考え方に違いがあると思ったので、公務員を上手く描くために参考にしました。
民間企業は利益が最優先なので、マナーの悪い客は「出禁」にした方が最終的な利益に繋がります。しかし、公務員である図書館職員は「すべての人に平等にサービスを提供する」という考え方なので、どんなに厄介な利用者であっても、犯罪レベルにいかない限りは粘り強く対応しなければならない。そういった民間と公務員の意識の違いについて、漫画の中に反映できたらと参考にしたんです。
――参考文献と言えば、YouTubeチャンネルの「ゆる言語学ラジオ」で本作が取り上げられた際、「この漫画は『図書館情報学』をベースに作られている」というお話がでていましたが...(笑)。これは本当ですか?
【ずいの】実は、あの動画を見てから「そんな本があるんだ」と思って、慌てて『図書館情報学概論』の書籍を買ったのですが、まだ全部読み切れていません(笑)。
本作は、司書課程で習った「図書館のあるべき姿」や「こういう風にサービスを提供していった方がいいよね」という司書としての基本的な共通認識に則って漫画を描いているので、結果的にその内容が『図書館情報学』の学問的な内容と一致したのかな、と捉えています。
――参考文献だけでなく、作中には様々な書籍が登場します。選書の基準はあるのでしょうか?
【ずいの】作中に出てくる本は、私自身が「特定のニッチな分野に興味を持って、深く調べている人の本」が好きなので、そういう本を選びがちです。
例えば、ビブリオバトルの回には(『税金で買った本』13巻収録「ビブリオバトルガイドブック」)、『タイの地獄寺』(椋橋彩香著、青弓社)や、『バッタを倒しにアフリカへ』(前野ウルド浩太郎著、光文社)、『ヤクザときどきピアノ』(鈴木智彦著、 CEメディアハウス)などが登場しています。
――『ヤクザときどきピアノ』は気になって、ほしいものリストに入れました!(笑)。
これはライターの鈴木智彦さんが50歳を過ぎてからピアノを習うお話なのですが、基本はエッセイなのに、途中から急にピアノの歴史の話が食い込んできたりして面白いんです(笑)。そういう「ちゃんと調べて書かれている本」が好きで、作中にも出しがちですね。









