AIの急速な進化は、すでに私たちの働き方や、社会の仕組みに大きな影響をもたらし始めています。では、この先に待ち受ける変化は、どのようなものなのでしょうか。本稿では、書籍『AIの時代に 頭がよくなる人 悪くなる人』より、今後起こりうる「悲観的な予測」を紹介します。
※本稿は岡瑞起著『AIの時代に 頭がよくなる人 悪くなる人』(日経BP)より一部を抜粋・再構成したものです。
格差は広がる
ビル・ゲイツさんは2025年のテレビ番組で「これから10年くらいで、人々は週に2日か3日だけ働くようになるのではないか」と発言しました。AIが仕事の多くを代替するようになり、人間が働く日数が減ると考えていたのです。
週に2日だけ働いて、あとは自由に過ごせる。夢のような話です。
でも、本当にそうなるでしょうか。
AIで仕事の中身が変わるのは間違いありません。
問題は、人々が「余裕のある時間」を手にするのか、それとも「仕事そのもの」を失うのか、ということです。
これに対しては、ふたつの見方があります。
ひとつは「楽観論」です。
新しいテクノロジーは、これまでの歴史を振り返っても、仕事を奪いつつも多くの雇用を生み出してきました。産業革命のとき、機械が職人の仕事を奪いましたが、工場で働く新しい仕事が生まれました。同じように、AIも新しい仕事を生み出すはずだという考え方です。
もうひとつは「悲観論」です。
今回のAIは、これまでの技術革新とは違うという指摘です。知的労働を代替できる上に、その進化のスピードはあまりに速いので、新しい仕事が生まれる前に、多くの人が職を失ってしまうという考え方です。
将来的にどちらに軍配が上がるかはまだわかりませんが、今、起きている現実は、かなり厳しいと言わざるを得ません。
次から詳しく見ていきましょう。
経験の浅い層は就職が難しくなり、経験豊富な人材は優遇される
雇用をめぐる象徴的な出来事は、すでにエンジニアの世界で起きています。
『ニューヨーク・タイムズ』の報道によると、ある大学でコンピュータサイエンスを卒業した学生は5000社以上に応募し、面接にたどり着いたのはわずか13社で、マクドナルドにすら「経験不足」で断られたそうです。
ただし、コンピュータサイエンス卒業者全体の就業率は依然として90パーセントと高く、初任給も全専攻中トップクラスです。
問題は、学位取得者がこの10年で倍増する一方、AIがジュニアポジションの仕事を置き換えつつあることです。つまり、経験の浅い層に厳しい状況が集中しています。
なぜこうなったかというと、新卒のエンジニアがやっていた仕事(簡単なコードを書いたり、テストをしたり、デバッグをしたりの仕事)が、AIに置き換えられているからです。
一方で、経験豊富なシニアエンジニア─システム全体を設計できるような人─の年収は上がっています。「二極化」が起きています。
また、AIを使いこなせる人と使いこなせない人、経験がある人とない人の間の格差も、どんどん広がっています。
クリエイティブの世界でも同じことが起きています。
私が協力しているスタートアップで、デザイナーに「商品イメージがわかるように、何かサンプルをつくってください」とお願いしました。これまでは、そういったものはデザイナーとエンジニアが協力して、何週間もかけてつくるものです。
ところが、たった一週間後にサンプル、しかもほぼ実物に近い動くものができあがっていました。しかも、デザインもされています。
どうやってつくったのかとデザイナーに聞いたら、「Codex(コーデックス)というAIツールを使いました。コードはほとんどAIが書きました」と言うのです。
つまり、デザイナーだけがいればよくて、デモをつくるのに今まで必要だったエンジニアの仕事は、AIで代替できてしまったのです。
もちろん、すべてのデザイナーがこのようにデモをつくれるわけではありません。
エンジニアとデザイナーの垣根がAIによって崩れ、「できるデザイナー」と「できないデザイナー」の差が広がります。AIを使いこなせるかどうかで、生産性に何倍もの差がつく時代になり、できる人はさらにできるようになる。こうした変化は、社会に大きな分断を生み出す可能性があります。
AIを使える人と使えない人で社内に分断が起こる
AIを使いこなせる社員は、従来の数倍のスピードで仕事を進められます。資料作成も、データ分析も、企画立案も、AIの力を借りてどんどんこなしていくでしょう。
前の項目でも書きましたが、AIを要所要所で使えるセンスのいい人は、もともと経験が豊富で仕事ができる人であるはずですので、ますます仕事ができるようになるでしょう。
一方、AIをうまく使えない社員は、今までと同じペースで仕事をします。手作業で資料をつくり、自分の頭だけで考え、従来通りのやり方を続けます。
そうすると、どうなるでしょうか。
もちろん、仕事が早く、アウトプットの多い人のほうが評価されます。
一方、使いこなせない人は、相対的に「仕事が遅い人」「アウトプットができない人」に見えてしまいます。
本人は以前と同じようにがんばっているのに、周囲との差がどんどん開きます。職場での肩身が狭くなり、「仕事ができない人」というレッテルを貼られてしまう。
同じ会社の中で、同じ職種なのに、大きな分断が生まれつつあります。
この分断は、年齢と無関係ではありません。
一般的に、若い世代のほうが新しいテクノロジーに適応しやすい傾向があります。生まれたときからスマートフォンがあり、SNSがあたりまえの環境で育ってきた20代は、新しいツールへの抵抗感がありません。「とりあえず使ってみよう」という感覚が自然に身についています。
一方、40代、50代の人たちは、長年培ってきた「自分のやり方」があります。それで成果を出してきた自負もあります。今さら新しいやり方に変えることに、心理的な抵抗を感じる人もいるでしょう。
しかし、最も厳しい立場に置かれるのは、実は30代かもしれません。上を見れば、まだ上の世代がポジションを占めています。下を見れば、AIをあたりまえのように使いこなす「AIネイティブ」の若い世代が迫ってきます。
上にも行けない、下からは追い上げられる――そんな「挟まれた世代」になってしまう可能性があるのです。









