泉秀一さん
すぐれたノンフィクション作品を広く世に紹介することを目的に制定された、第57回大宅壮一ノンフィクション賞の贈呈式が、2026年6月24日に開催されました。第57回の授賞作は、泉秀一さんの『アフリカから来たランナーたち 箱根駅伝のケニア人留学生』(文春新書)です。本稿では贈呈式の様子をレポートします。
複数の思惑が重なり合う「一種のミステリー」

佐藤優さん
選考委員の佐藤優さんが選評を述べました。佐藤さんは、本作をすでに23冊も購入し、自身が教える学生たちに配っていると明かしました。本作を「素晴らしいノンフィクション」と評したうえで、「実はものすごく怪しい話」だと紹介します。
『アフリカから来たランナーたち 箱根駅伝のケニア人留学生』は、箱根駅伝を走るケニア人留学生たちを追ったノンフィクション作品です。来日の動機や故郷について十分に知られていない選手たちですが、取材を重ねると、実はどの留学生もケニアの"ガル高校出身"であることが判明します。
作者の泉秀一さんはガル高校を調査するため、現地ケニアに飛びますが、実はそのような高校は存在しないという事実に驚かされます。真相を辿るうちに、留学生を送り出す側、受け容れる側など、複数の立場の人物の思惑が複雑に交差する現実が明らかになっていきます。
「本当に悪いやつもいないんだけども、本当にいいやつも一人もいない」
佐藤さんはそう述べ、取材によって見えてくる事実の重なりを「一種のミステリー」と表現しました。
佐藤さんは最後に、緻密な取材によって人間を多面的に描き出す泉さんの力に触れ、「このようなノンフィクション作家が大宅壮一ノンフィクション賞を受賞したことを、選考委員の一人として、また作家の一人としてとても嬉しく思います」と述べ、選評を締めくくりました。
取材を通して消化された「モヤモヤ」

泉秀一さんは、受賞の知らせを受けたときに「父親との記憶」を思い出したと明かします。
父親が昔から陸上が好きだったため、泉さんも小学生や中学生のころには家の周りを走らされていたといいます。当時はその時間が嫌だったと振り返りながらも、その記憶がのちに箱根駅伝への関心、そして取材テーマへとつながっていきました。
「陸上が取材テーマになり、一冊の本になり、そしてこういった素晴らしい賞をいただくことになったことで、自分の中でずっとモヤモヤしていたものが一つ消化されたような、そんな気持ちになりました」
そして受賞の喜びだけでなく、今後の課題にも触れました。書き手として独立してから刊行した本はまだ一作であり、今回の本についても「もっとこうした方が良かった」と感じる部分があるといいます。
「自分の甘さを痛感した部分もありますが、そういったものも糧にしながら、また自分が知りたいことを調べて本に残していきたいです」








