学生時代の部活動を聞かれるのが、なぜかしんどい。相手は何気なく振ってくれた話題のはずなのに、苦い記憶が呼び起こされてモヤモヤが止まらない人もいるかもしれません。
YouTubeを中心にコント動画が人気を集めるお笑い芸人のなかむたさんもその一人です。平穏な毎日を望んでいるからこそ、日常のささいなことが気になってしまう。連載「絶望型平和主義」では、なかむたさんがつい考えすぎてしまうことをエッセイとして綴っています。
第3話は、なかむたさんの中学・高校時代の部活動、そのほろ苦い記憶です。
*毎月1回更新予定です
できることなら答えたくない質問
「学生時代の部活、何やってた?」
大人になって、一度はされた事がある質問ではないだろうか。僕はこの質問をされる度に、申し訳なさそうな顔で「まあ一応、中高6年間野球部でしたね」と答えるが、できることなら答えたくない。
何故なら僕は、呆れるぐらい野球が下手くそだからだ。
始めた理由は単純だった。
小学校の頃、仲の良かった友達3人組と公園で野球をやるのが楽しかったこと。そして、プロ野球の中継を見て「なんか俺でも、できそうだな〜」と本物の野球人が聞いたら真っ直ぐにしばかれそうな舐めた理由で、僕は中学生の頃、仲の良かった3人組で野球部に入部届を提出した。
入部初日、さっそく度肝を抜かれる。
先輩も同級生も、ほぼ全員が少年野球や、ソフトボールの経験者だということを知り、僕は、毛筆で力強く描かれた人間が生活する世界に、シャーペンの1番薄い芯で描いた人間がなんか紛れ込んでしまった感覚になった。
ただ、心細くはなかった。入部前は生き生きしていた草野球仲間2人も、僕には「シャーペン人間」に見えた。その他にも仲間はちらほらいた。一人ひとりの線は絶望的に薄いが、「束になれば、2Bくらいの濃さにはなれるはずだ」と、シャーペン同士の絆を深め部活を乗り越えていこうと誓った。
中学3年間の部活で身につけた“小技”とは

ある日、部長が新入部員に向けて「今からノック(守備練習)をするから、自分が希望するポジションに就いて」と言った。普通だったら、野球の花形ポジション、「投手(ピッチャー)」や「遊撃手(ショート)」を選択するだろう。しかし、僕は真っ先に「右翼手(ライト)」へ向かった。
ライトといえば、あの大スター「イチロー選手」が守っていたことでもお馴染みだが、少年野球では、「ライパチ」という言葉があり、「一番守備が苦手な子はライト」「打てない子は8番」という意味合いが込められてそう呼ばれている。だから完全に言い過ぎかもしれないが、僕はライトのことをほぼ掃き溜めみたいなものだと思っていた。
でも、自信が無いし、下手くそなのがバレたくないし、肝心のグローブは亡くなったおじいちゃんから貰った、煎餅ぐらい平べったくなっている形見グローブ。様々な理由が重なり、ライトへ向かうしかなかった。
ライトのポジションに就き、周りを見渡すと、シャーペンの仲間たち。僕は1人じゃない、ノックが始まり、出番が来て声を張る「ノックお願いします!さあこい!!」
カキーン、金属音がグラウンドに鳴り響き、打球が高々と舞い上がった。そして僕は、ボールを見失った。
そこで、重要なことに気づいた。"視力が悪すぎる"
下手くそ云々の前に、ボールが滲んで見えない。僕は次の日、眼科へ行き、人生初のコンタクトを購入した。これでイチローになる準備は完璧に整った、視界が良好になって初めてのノック。「ノックお願いします!さあこい!!!」
カキーン、ボールははっきりと見えるが、自分が思ってる以上に打球が伸びている、いや手前か、そんなことを考えている内に、僕の頭上をボールが通過する。何度やっても打球が捕れない。原因は視力ではなく守備力だった。
「よし、守備は諦めて、バッティングを頑張ろう」と意気込むが、バットを何度振っても当たらない貧弱な僕の姿を見て監督が、「なかむたがバットを振ってるんじゃない、バットがなかむたを振ってるんだ」と、罵倒という名の名言を残した。
入部して1ヶ月で"野球のセンス"がないと思い知らされ、「これはきっと引退するまで補欠だろうな」と悟った。その予想は的中し、毛筆人間は勿論、シャーペン仲間たちも練習を重ねて、球速や打球速度、走力が上がっていった。一方で僕は、ペットボトルを回すと滝のように飲み物が出てきて、ドリンクキーパーにアクエリを補充する速度が速くなるという、使い道がほぼないライフハックを手に入れて、引退した。
「シャーペン人間」でも一筋の光が...

絶対に野球はやらない、そう強く誓い、高校へ入学。
入学式の日。式が終わりかけた、まさにその時、白髪の先生が話し始めた「え〜野球部の副顧問です。部員が少なくて廃部寸前です。力を貸して欲しいです。野球経験者は手を挙げてください、え〜…はい、今手を挙げた人は放課後グラウンドに野球部の見学に来て下さい。以上です」
野球部に入部した。痛恨のミス。これだけしかおらんのか!?の質問に、嘘をついてはダメだという謎の正義感で手を挙げて、グラウンドに見学に行き、その流れで入部届を提出してしまった。
「入部してキツかったら辞めればいいじゃん」と親に言われたが、それは自分が許さない。1度始めたことを途中で辞めてしまったら負けた気になるからやり切りたいという無駄な意地。福岡生まれの僕に流れる豚骨の血。柔軟性がない豚。
しかし、そんな僕に一筋の光が差す。
先述した通り、部員が少なく、廃部寸前、夏の大会では、ほとんど1回戦で負ける弱小校なのである。そのおかげもあってか、一緒に入部した9人の同級生は、中学生の頃レギュラーではない人たちがほとんどで、濃さは多少違えど、同じ「シャーペン人間」だった。
正直安心した。中学生の頃、クラブチームでやっていた実力者は1人だけいたが、「シャーペン人間」の気持ちを分かってくれる心優しい毛筆人間だった。本当に安心した。
やっと僕の野球人生が始まった。弱小校なら試合に出れるはず。形見のグローブは倉庫の奥に仕舞って親に新しいグローブを買ってもらった。マネージャーがいるので、ドリンクキーパーにアクエリを滝のように入れる仕事もしなくていい。
これは何かの漫画で見たことある「弱小校が甲子園を目指すやつだ!」そう思ったのも束の間、現実に引き戻される。
予想だにしなかった、僕の野球人生
1年生の頃、他校との練習試合があった。
先輩たちが汗を流して、打ったり、守ったりしている姿をベンチから見てこう思った。
「ここは僕が来ていい場所じゃない」
弱小校とはいえ、僕にはバッティングも守備もレベルが物凄く高く見えたし、何より体がデカい。それは他校の生徒を見ても思った。初めて見る、線の太さと濃さ、力強くて迫力がある。毛筆は毛筆でも、"特大筆を使った書道パフォーマンス"の世界に僕の目には映った。
それもそのはず、高校野球に励む大半が本気で、「甲子園」を目指して、死に物狂いで白球を追いかける。僕みたいな、できるだけ白球から逃げたかった、中学3年間アクエリのペットボトルを回し続けただけの、生半可な「シャーペン人間」は、ユニフォームを畳み、バットとグローブをそっと置いて、グラウンドから出ていった方がいいと思った。
しかし僕は、辞めなかった。いや、辞められなかった。
辞める方向に進もうとすると、豚骨の血がそれを塞き止める。
「福岡に生まれなければ」という考えが一瞬過ぎり、土地柄という他責に逃げようとしたが、「いやこれは自分のせいだ」と、時間を無駄にするだけの脳内会議の結果、引退までやり切ることを決めた。
そして、部員が少ないおかげで2年生から少しずつ試合に出場できるようになり、なんと3年生には「9番右翼手」でレギュラーになることができた。
中学生の頃、ボールを見失い続けて右翼手を諦めた僕が、同じポジションに帰って来れた。しかもレギュラー。こんな未来想像していなかった。3年生最後の夏の大会1回戦で、レフトの頭上を超える三塁打を打てた。最後の最後で長打が打てるなんて、こんな未来想像していなかった。
大勝して、迎えた2回戦。相手は何回も甲子園に出場している強豪校だった。相手がどこだろうと関係ない、野球のセンスがないと思いつつも、キツい練習を乗り越えてきた、僕が野球に費やした6年間を全部ぶつけてやる。初回、相手の攻撃が始まり早速、ノーアウト満塁の大ピンチ。
カキーン!!!火を吹くような打球が僕のところへ飛んできた。一瞬で打球を見失った。こんな未来は想像できた。その後も力の差を見せつけられて、コールドでゲームセット。
僕の野球人生はここで幕を閉じた。
申し訳なさそうに「まあ一応、中高6年間野球部でしたね」と言うしかない

高校時代のなかむたさん
ここまでの振り返りを見てもらうと、「学生時代の部活、何やってた?」と質問をされた時に、申し訳なさそうな顔をして、「まあ一応、中高6年間野球部でしたね」と答える意味が少しは分かってくれたんじゃないだろうか。
野球経験者と言うと、草野球に誘われたりする。遊びといえど、自分の野球センスの無さを再確認してしまうのでできるだけ行きたくない。そして、大人になった今、自分は本当に野球部だったのかと思うことがたくさんある。
ハツラツとしてないし、できるだけ群れたくないし、甲子園全く見ないし、日焼け止め塗るし、時間が経ったら塗り直すし、磁気ネックレス付けたことないし、胃が小さいし、短パン履かないし、半袖を必要以上に捲ったこともない。こんなやつは、文化部の方が向いていただろうと思う。
何なら、バッティング練習や守備練習、走り込みに費やしたあの時間を、茶道部に入ってお茶の事を学んだり、美術部に入って絵の事を学んでいたほうが自分の役に立ってたのではないかという、たらればを考えてしまう。
先日、高校の時に使っていたグローブを久しぶりに引っ張り出してみたら、真っ白にカビていた。
「僕の野球部に対する気持ちと一緒だ」そう思い、押し入れの奥にグローブを仕舞った。








