睡眠不足の日にいつもよりイライラしたり、モヤモヤしたりした経験はありませんか?睡眠不足が続くと、緊張のスイッチが入り続けた状態となってしまい、些細なことでも悲しんだり、人の言葉がきつく感じたりすることがあると、臨床心理士の佐瀬りささんはいいます。本稿では、今日・明日からでも実践できる「こころを整える休息方法」について見ていきましょう。
※本稿は、佐瀬りさ著『こころの「安全基地」のつくりかた』(大和出版)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
睡眠や休息がこころを回復させる
睡眠や休息が脳とこころを回復させる仕組みは、近年の研究によって少しずつ明らかになってきています。ちゃんと眠りちゃんと休むことで、脳は静かに、そして確実に回復の作業を始めます。
眠っている間も、脳は止まっているわけではありません。とくに「レム睡眠」と呼ばれる時間には、その日経験した出来事や感情が、ゆっくりと整理され、記憶として落ち着いていくのです。
また近年の研究では、睡眠中に脳の老廃物を洗い流す「グリンパティック・システム」という仕組みが活発に働くこともわかってきました。起きているときと比べて、より効率よく脳の老廃物が排出されると考えられています。つまり、睡眠は脳にとっての「お掃除時間」でもあるのです。
さらに休息しているときの脳も、実はとても大切な働きをしています。何もしていないように見える時間にも、脳は経験を振り返り意味づけをし、自分自身を整え直しています。この働きは「デフォルトモードネットワーク(DMN)」と呼ばれ、ぼんやりしているときや、静かに考え事をしているときによく働きます。
また、休息を取ることで、身体は緊張モード(交感神経優位)からリラックスモード(副交感神経優位)へと切り替わります。神経のバランスが整い、「司令塔」である前頭前野も回復していきます。
このように、脳とこころの回復は、睡眠と休息によって、ゆっくりと進んでいきます。しっかりと「潤す」ことで、私たちの中に備わっている整う力が、自然と働きはじめるのです。
夜のワーク「お疲れさまタッチング」
ここでは「夜のワーク」「朝のワーク」「日中のワーク」の順にご紹介していきます。夜のワークは、神経を安心モードへと切り替えていくためのものです。朝や日中のワークは、自分の「乾き」に気づきながら、その都度「潤い」を足していくためのものです。
<お疲れさまタッチング>
布団に入る前や、布団の中で、身体全体に意識を向けてみましょう。今日いちばん疲れている部分はどこでしょうか?緊張が残っていたり、こわばりを感じたりする部分はありませんか?その部分に、やさしく手を触れて、ゆっくりと呼吸をしてみます。
「今日もよく頑張ったね」
「今日1日、お疲れさま」
こんなふうに、声をかけてみるのもよいでしょう。どんな感じがするでしょうか?
こころや身体の変化を感じてみてください。触れることや、声をかけることによって、ふわっと緩む感覚があれば、それで十分です。はじめはうまく感じられなくても大丈夫です。毎日継続してみてください。
このように、自分自身に優しさや思いやりを向けることは「セルフコンパッション」と呼ばれています。温かい手で自分に触れることは、脳や神経をリラックスさせる効果があります。また、ねぎらいの言葉は、こころと身体を安心させ、明日への回復力を高めてくれます。
朝のワーク「カラダスキャン&あなたへの処方箋」
目が覚めたら、今日の自分の「乾き具合」を感じてみましょう。身体とこころ、両方の状態を感じてみるカラダスキャンがおすすめです。
まずは身体に意識を向けます。
「どこか気になるところはないかな?」
「疲れは溜まっていないかな? 」
こんなふうに問いかけてみて、今日の体調を5段階で表してみましょう。
次に、こころに意識を向けます。「どんより」「イライラ」「フラット」「ウキウキ」「たかぶっている感じ」など、今の気持ちを感じてみてください。そのまま言葉で表してもよいですし、こころの重さとして5段階で表してみるのもよいでしょう。
朝は何かと忙しく、動き出すとやらなければいけないことで頭の中がいっぱいになり、身体やこころの感覚を感じにくくなってしまいます。できれば布団の中で感じてみましょう。
カラダスキャンで気になるところがあったら、「もし、大切な人が同じ状態だったら」と、想像してみてください。あなたはその人に、何をしてあげたいと感じますか。どんな言葉をかけてあげたくなるでしょうか。それを、今日の自分にもしてあげてください。それが、今日のあなたを潤すための「処方箋」になります。
大切な人を扱うように、自分自身を大切に扱っていくことで、こころと身体は少しずつ潤いを取り戻していきます。
日中のワーク「休息の練習」

※イラスト:楠わと
休むことは、練習によって少しずつ上手になっていきます。繰り返すことで、神経は安心モードにつながりやすくなります。短い時間でも大丈夫です。気づいたときに、少しだけやってみましょう。
「頭の中を少しぼんやりさせる」ことができれば、どんな方法でもかまいません。休息リストのような小さな休息を、意識して取り入れてみましょう。やってみて、あなたの身体やこころがどう変わったかにも目を向けてください。
「少し緩んだ」「呼吸が深くなった」「疲れが取れた」そんな「潤う感じ」があるものを、少しずつ集めていきましょう。休む練習を重ねるほど、神経は安心モードへ戻りやすくなります。
ここで日中のワークにおすすめの休息方法を2つご紹介します。どちらも気軽にいつでもできるので、身体やこころを潤したいときに活用してみてください。
・呼吸に気づく(マインドフルネス)
マインドフルネスとは、「今、この瞬間」に意識を向ける練習です。頭の中が過去の後悔や未来の不安でいっぱいになっていると、身体は休んでいても、こころは働き続け消耗してしまいます。そんなときは、今の呼吸に意識を向けてみましょう。
息を吸う。吐く。ただ、それを感じてみます。呼吸を変えようとしたり、深くしようとしたりする必要はありません。ただ「吸っているな」「吐いているな」と感じてみます。「過去や未来のことを考えていたな」と気づいたら、また呼吸に戻ります。こうして、「今」に戻ることで、神経は少しずつ落ち着いていきます。忙しいときでも、1分ほど取り入れるだけで、こころと身体の休息につながります。
・重さと温かさを感じる(自律訓練法)
自律訓練法は、身体をリラックスした状態に導く方法です。本来は決まった手順で行う方法ですが、ここでは気軽に試せる形でご紹介します。
まず、ラクな姿勢で椅子に座り、手を腿の上に置きます。そして両手に意識を向けながら、こころの中で、「手が重たい」「手が温かい」とゆっくり繰り返します。はじめは何も感じなくても大丈夫です。ただ、両手の感覚を眺めていてください。無理に重くしよう、温かくしようとする必要もありません。繰り返していくうちに、なんとなく、重さや温かさが感じられることがあります。重さや温かさは、身体がリラックスしているときに現れやすい感覚です。
私たちはつい、頭で「落ち着こう」としがちですが、自律訓練法はその逆です。リラックスの身体の状態を先につくることで、こころや頭も自然と落ち着きやすくなるのです。仕事の合間や移動中の電車の中でもできるので、気軽に試してみてください。
潤いのログワーク

「潤す」行動を取り入れたら、ぜひおすすめしたいことがあります。それは「ログをとる」ということです。
私たちはつい「やる」ことに意識が向きやすく、「やったあとにどうだったか」を見落としてしまいがちです。やっただけで満足してしまい、やったあとを感じていなかったり、やっても変化がないと、「自分がおかしいのでは?」と責めてしまったりします。
でも、私たちは一人ひとりが違っています。だから誰かにとってよい方法が、あなたにも同じように合うとは限りません。合うこともあれば、合わないこともある。それでいいのです。
あなたに合う方法を見つけるために、ログを活用してみましょう。「潤す」行動を取り入れたら、どんなことを感じたか、どれくらい回復したか(充電できたか)を記録してみてください。とくに潤すステップで大切な睡眠は、一般的によいと言われていることが、そのまま当てはまらないこともよくあります。
寝る時間や睡眠時間、寝る前の過ごし方、部屋の明るさや温度、着るものの心地よさ。どれも人によって違います。だからこそ、自分の睡眠を振り返り、どんな「潤す」行動が翌朝の充電につながるのかをログで確かめてみましょう。
大切なのは、あなたを、あなたの真ん中にしっかりと置いて、あなたが少し緩むこと。あなたが回復できるやり方を見つけていくことです。正解を探すのではなく「自分に合うこと」を宝探しをするように集めていきましょう。









