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芥川賞・小砂川チトさんを救った、厳しい担当編集の一言「あなたには才能があります」

Moguru編集部

2026年08月24日 公開 2026年08月24日 更新

芥川賞・小砂川チトさんを救った、厳しい担当編集の一言「あなたには才能があります」

2026年8月21日、第175回芥川龍之介賞・直木三十五賞の贈呈式が都内で開催されました。芥川龍之介賞を受賞したのは、小砂川チトさんの『ゾンビ回収婦』。贈呈式では、選考委員を代表して島田雅彦さんが選評を述べ、小砂川さんが感謝と今後の創作への思いを語りました。

 

島田雅彦さん「新しいバーチャル世界における生き方の研究」

島田雅彦さん

選考委員を代表して登壇した島田雅彦さんは、AIへの依存が広がり、自分の頭で考えることを放棄するような状況に対して、危機感を抱く人が増えていると指摘。文学の世界でも、この問題に作家たちが向き合っていると話しました。

島田さんは『ゾンビ回収婦』について、AIに仕事を奪われた主人公が、夫の熱中していたVRゲームの世界へ入っていく物語だと紹介しました。

異世界を舞台にした作品では、主人公が特別な力を持つ設定も少なくありません。しかし、本作の主人公は、仮想世界の中でNPC(ノンプレイヤーキャラクター)としてエキストラのような立場に身を置きます。そして、誰かに命じられたわけでもないゾンビの回収作業に熱中し、その過程で承認欲求を満たしていきます。

島田さんは、作家は古くから地獄や天国、桃源郷、極楽浄土、夢といった現実とは異なる世界を描き、不愉快な現実から逃れることに創造性を発揮してきたと説明しました。現代では、その対象にゲームや仮想世界も加わっているといいます。

そのうえで、小砂川さんは、そうした文学の伝統に連なる形で「新しいバーチャル世界における生き方の研究」を提示したと評価しました。さらに、作品そのものが一種の文芸批評としても読める点が、受賞を決めるうえでの大きな評価につながったと述べました。

選評の最後には、今後の創作について「茨の道かもしれません」としながらも、作中に見られるマゾヒズムに触れ、「小砂川さんには、さぞ居心地がよろしいかと思います」と冗談を交えて会場の笑いを誘い、受賞を祝いました。

 

小砂川チトさん「泥臭く愚直に、次の作品に取りかかりたい」

左から朝倉かすみさん、小砂川チトさん
左から朝倉かすみさん、小砂川チトさん

続いて登壇した小砂川さんは、「この度は栄えある芥川賞をいただき、誠にありがとうございます」とあいさつしました。

小砂川さんは、デビュー以来、3度にわたって芥川賞候補となりました。しかし今回の候補入りに際しては、「3度目の正直」よりも「2度あることは3度ある」という言葉が頭をよぎり、受賞を期待しないことで自分の心を守ろうとしていたと明かしました。

その一方で、担当編集者や編集長をはじめとする周囲の人々は、一貫して受賞を諦めずにいてくれたといいます。

自身の初稿を「ほとんど怪文書のようなもの」と表現し、打ち合わせでも構想をうまく伝えられないことがあったと振り返った小砂川さん。それでも担当編集者はさじを投げず、作品の完成まで根気強く付き合ってくれたと感謝を伝えました。

特に記憶に残っているのが、2度目の芥川賞候補で受賞を逃したときにかけられた言葉でした。

「めったに褒めてくださらない担当さんが、落ち込む私に『小砂川さんには才能があります』とぼそっと言ってくださったのが、実はとてもうれしかったのを今になって思い出します」

また、今回で芥川龍之介賞の選考委員を退任する小川洋子さんの最後の選考で受賞できたことを「大変光栄」とし、「そのことに恥じない書き手に育っていきたい」と述べました。

受賞という一つの成果を手にした一方で、小砂川さんは、すでに「結果という瞬間の短さ、儚さ」を感じ始めているといいます。今回の結果だけを大切に握りしめるのではなく、それを受けて次に何をするのかが問われていると話しました。

「おめでとう」と言ってもらえる期間は一瞬で過ぎ去り、創作の大半を占めるのは、悩みながら作品を作り、うまく書けずにもがく時間です。しかし小砂川さんは、そうした道中にいるときの自分の方が「圧倒的に好き」なのだと、今回の受賞を通じて改めて気づいたといいます。

「机の前にまた引き返し、泥臭く愚直に、次の作品に取りかかりたいと思っております」

 

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