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- 聴覚障害を持つ探偵を描いた『名探偵の君へ』 九能式尚さんが新潮ミステリー大賞優秀賞
2026年9月14日、第12回新潮ミステリー大賞の授賞式が行われました。優秀賞を受賞したのは、九能式尚さんの『名探偵の君へ』です。
本作は、応募時には『彼女の終幕』の題でしたが、数回にわたる改稿を経て、『名探偵の君へ』と改題されました。
物語の中心となるのは、名探偵・斑猫雪羽の遺児で、聴覚障害を抱える斑猫キリカ。ミステリ作家志望の岩崎理人とともに、怪しげな実験に参加するため孤島へ渡ったことから惨劇に巻き込まれていきます。エラリー・クイーンが生んだ聾の名探偵ドルリー・レーンへのオマージュを織り込んだ、本格ミステリです。
湊かなえさん「作者の放つ熱いエネルギー」に引き込まれた

選考委員を代表して登壇した湊かなえさんは、まず新潮ミステリー大賞には応募枚数の上限が設けられていないことに触れました。
これまで長大な応募作を読むことには不安があったという湊さん。その体験を、「薄められすぎたカルピスを大量に飲み干さなければならないようなもの」とユーモアを交えて表現しました。
そんななか、最終候補作として届いた『彼女の終幕』は、400字詰め原稿用紙換算で1300枚弱。湊さんの著書『告白』のおよそ3倍にあたる分量だったといいます。
「当然、読むのも一番後にしました」と振り返った湊さんですが、いざ読み始めると、わずか3日で読了したそうです。
舞台は、絶海の孤島にある研究施設。ある音楽を聴くと眠りに落ちる催眠術が仕掛けられるなか、聴覚障害を抱える探偵だけがその影響を受けない――。クローズド・サークルという舞台設定や、こうしたミステリならではの仕掛けに加え、湊さんを物語へと引き込んだのが、「作者の放つ熱いエネルギー」でした。
湊さんは、そのエネルギーを「九能式さんの愛と怒り」だと表現します。
「愛」とは、エラリー・クイーンが生んだ名探偵ドルリー・レーンに捧げられた、本格ミステリへの深い愛。そして「怒り」とは、聴覚障害を持つ人々に対する社会の不理解への怒りではないかと語りました。
『彼女の終幕』はその後、改稿を重ね、原稿用紙約900枚まで削られました。
湊さん自身も、推敲で最も重視しているのは「削ること」だといいます。一文一文が本当に物語に必要なのかを考えながら手を入れる一方で、「それでも、一度書いた文章を削ることを惜しく思います」と、作家としての思いも明かしました。
だからこそ、大幅な改稿をやり遂げた九能式さんを称え、「まずは2作目、そして5年、10年とパワフルなご活躍を期待しております」と今後への期待を寄せ、選評を締めくくりました。
九能式尚さん「一つの壁を越えられたような気がしています」
続いて登壇した九能式さんは、『名探偵の君へ』は「私にとっても非常に思い入れの深い作品」と語ります。
主人公の斑猫キリカは、九能式さん自身と同じく聴覚に障害を抱えています。自身の障害について文章にすることは決して簡単なことではなく、執筆中には「何度も壁にぶつかって傷を負った」と振り返りました。
「それでも書かずにいられなかったのは、当事者の立場から障害を持つ者の現実を描くことで、できることがあると信じていたからです」
そして、作品が刊行されたことについて「一つの壁を越えられたような気がしています」と語りました。
最後には、受賞を一つの到達点ではなく作家としての出発点と捉え、「これからはプロの作家として面白い物語を書き続けていくことで、皆様にお返しをしたい」と今後への決意を示しました。








