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故・金子哲雄氏から妻が引き継いだ「死後のプロデュース」

金子稚子(故・金子哲雄氏の妻)

2013年07月17日 公開 2021年01月21日 更新

故・金子哲雄氏から妻が引き継いだ「死後のプロデュース」

流通ジャーナリストとして活躍していた金子哲雄氏が、死の準備に積極的に取り組んだことはすでに知られている。その妻で編集者の金子稚子氏が、死の準備とエンディングノート、夫妻の「引き継ぎ」について語る。

※本稿は、『死後のプロデュース』(PHP新書)の内容を、一部抜粋・編集したものです。

 

その命は、誰のものなのか?

夫の金子哲雄が亡くなってから、もう8カ月――。味わったことのないような、痛いほどの悲しみが永遠に続くのかと感じた昨年10月のことを思い返すと、この間に私が辿った心の変遷に我ながら驚いています。

葬儀はもちろんのこと、『僕の死に方 エンディングダイアリー500日』(金子哲雄著、小学館)の発行まで、金子が考え、準備していたことを何とか実行に移す日々を送りながら、これは紛れもなく、夫が私のために用意していてくれたことなのだと、深く感じるようになりました。

その本の制作があったから、葬儀が終わった後も金子を思い、悲しみに暮れているだけの時間が少なくて済みました。しかし、葬儀の間際から内容の確認や校正作業のために、何度も原稿を読む必要があり、そのたびに追体験することにもなりました。

何度も号泣し、時には立ち上がることもできないほどになりましたが、そのたびに、「わかちゃん、泣いてはだめだよ」という声が聞こえ、背中をどんどん押されているような気持ちになったものです。

そうするうちに、四十九日の頃にはもう、一周忌を迎えるかのような心持ちになっていました。本ができ上がった時、普通の人が1年をかけるところを、約1カ月で済ませてしまったのだと感じたほどです。

この強烈で濃密な癒しのプロセスは、いかにも金子らしいやり方であり、夫が亡くなる直前にしてくれた「死んでも僕が守る」という約束通りだと、改めてその優しさを感じて、感謝の気持ちでいっぱいになりました。

上梓する直前、PHP研究所の新書出版部から、本を書かないかというお誘いを受けました。しかし、金子の最期についてはすでにまとめた直後でしたから、改めて金子への思いを書くことには抵抗がありました。

それに、金子の死に方については、私が何かを言うべきではないと思っていたからです。

金子の闘病と死を通して、私たちは多くのことを語り合い、多くの考えを共有することになりました。その1つが、その人の命は、その人のものである、という思いです。

大切な人が死ぬと知った時、多くの人が冷静ではいられなくなります。自分の気持ちが前に出てしまい、「死んでほしくない」「生きていてほしい」と、死にゆく人の思いの存在を忘れてしまってそう願うでしょう。

言うまでもなく、当然のことです。でも、そのギリギリのところに来た時、突きつけられている問いがあるのです。

その命は、誰のものなのか――。

私たちは、この厳しい問いを正面から受け止め、行動しました。それが『僕の死に方』を書いたことであり、その後のさまざまな準備なのです。

本を書かないかというお誘いは、金子自身のことではなく、「エンディングノート」について書いてほしいということでした。金子の死の準備を報道で見知った編集者が、当然その存在があることを前提に、多くの人の参考になると思うからと声をかけてくださったのです。

しかし、それにも私は「できない」とお返事することになりました。なぜなら、金子はいわゆる「エンディングノート」というものを書いていないからです。

「それではなぜ、哲雄さんはあそこまでの準備ができたのでしょうか……?」

本書は、そうした編集者の驚きともとれるひと言から生まれることになりました。

当時、私のなかには、金子とのことが消化されないままに積み重なっている状態でした。金子から託されたものがあることも自覚しており、さらに「これはわかちゃんがやってね」と直接言われていることもあります。

実際、金子の先輩に、金子から託された「宿題」を実現するにはどうしたらいいか、相談もしています。

しかし、その実現のためには、多くのハードルがあり、さらにそのハードルを越えていくには、金子とともに思い至った死生観を多くの方に理解していただく必要があること、

さらに金子とともに知ったさまざまな課題についても、その存在すら、多くの方が自覚していないことを知ることにもなりました。

「まずは、稚子さんの言葉で、金子君と共有したその死生観、思いを、皆さんに伝えるべきだと思う」 

そんな金子の先輩からの冷静なアドバイスを受け、先に紹介した編集者からのひと言もあり、次に自分がすべきことがはっきりと見えてきた気がしました。

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死ぬことと、生きることは、同じ

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