夫より、子よりも長生きしてしまった…一人残された女性が緩和ケア病棟で思うこと
2020年02月05日 公開 2020年12月09日 更新
終末ケアを受ける患者20人のポートレートとインタビュー、直筆手紙で構成された「最期の告白」を展示した展覧会が世界各国で開かれた。
これは、アメリカ人フォトジャーナリストのアンドルー・ジョージ氏が米国カリフォルニア州聖十字架医療センターの協力を得て行ったプロジェクトであり、世界各国で反響を呼び、のべ16万人が訪れたという。
その展覧会を一冊の書籍にまとめた『「その日」の前に~Right,before I Die~』が刊行された。本稿では、取材に協力していただいた医療センターの緩和ケア科長マルワ・キラニ氏が同書によせた、死を間近にした人たちだけが知る「大切なこと」について記した一節を紹介する。
※本稿はアンドルー・ジョージ著『「その日」の前に~Right, before I Die~』(ONDORI-BOOKS刊)より一部抜粋・編集したものです
家族のなかで唯一の"生き残り"となって
死が近づくと、亡くなった人が夢枕に立つことがあると聞く。最期の告白でも明かされる「その日」の前に出現する幾つかの出来事。そんなエピソードも、死を間近にした人たちの言葉だと重く響く―。
緩和ケア病棟の患者たちへのインタビュー集、『「その日」の前に~Right, before I die~』(アンドルー・ジョージ著)のなかで、緩和ケア科長である医学博士マルワ・キラニは言う。
「本書の著者アンドルー・ジョージは、ただ患者たちにカメラを向けていたのではありません。ファインダーを通して、徐々に患者の心の奥底があらわになっていき、ポートレートは患者それぞれの闘いや希望を覗く窓になっていきました」。
「ここまで長生きするとは思わなかった」と語る患者のひとり、89歳のオーディスは静かに告白する。
「死んだ人の夢ばかりみる。両親、きょうだい。私は家族の中で最後の生き残りなの。私が最後まで残った。
最後に柩の蓋を閉めたときは、本当に胸が張り裂けるようだった。自分がばらばらに壊れていくような感じ。3人の子どもはフェニックスに眠っているし、4人の夫もみんな死んでしまった。
先週、89歳になったばかり。こんなに長生きするなんて、誰もが夢にも思わなかった。こんなに長生きすると知っていたら、もっと自分の体に気をつけたでしょうに。
何よりも、まず、大きな疑問が湧きあがってくる。
『どうして私が?』 楽しいことがあれば、悲しいこともあるのよね。
自分には何もできない。病気はただ降ってくる。それだけのこと。」
次のページ
「死を突きつけられた人」に、何をしてあげるべきなのか