立憲主義と自民党改憲案―憲法の本質を問う
2013年07月17日 公開 2022年12月21日 更新
人権が軽視されて、国民に義務を課す憲法に
自民党の改憲案の問題点を整理すると、次の4つに集約されます。
(1)立憲主義から非立憲主義へ
(2)平和主義から戦争をする国へ
(3)天皇の元首化と国民主権の後退
(4)権利拡大には後ろ向き、義務拡大には前のめり
それぞれ拙著『憲法問題 なぜいま改憲なのか』(PHP新書)で詳しく解説していますが、改憲案全体に貫かれているのは、人権の保障度を下げ、たくさんの義務規定を盛り込むことで立憲主義と決別しようとする姿勢です。
その姿勢は、基本的人権をうたった現憲法九十七条を削除したことからもうかがえます。
現憲法九十七条には、こう書かれています。
現憲法 九十七条
この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は、過去幾多の試練に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。
この条項は基本的人権の本質を示したものだといわれています。
本当なら国民の権利と義務について規定した現憲法三章(十条~四十条)に入れるべき条項ですが、現憲法が人権を保障する憲法であることを強調するために、憲法が最高法規であることを規定した現憲法十章(九十七条~九十九条)の先頭に置かれています。
この条項を削除したということは、基本的人権を軽視すると宣言していることに等しいと思います。
一方で、改憲案にはさまざまな義務規定が盛り込まれました。いままでも国民には「納税」、「教育」、「勤労」の3大義務が課されていましたが、改憲案では一気に数が増えました。すべてあげてみましょう。
国防義務(改憲案 前文三段)
日の丸・君が代尊重義務(改憲案 三条)
領土・資源保全義務(改憲案 九条の三)
公益及び公の秩序服従義務(改憲案 十二条)
個人情報不当取得等禁止義務(改憲案 十九条の二)
家族助け合い義務(改憲案 二十四条1項)
環境保全義務(改憲案 二十五条の二)
地方自治負担分担義務(改憲案 九十二条2項)
緊急事態指示服従義務(改憲案 九十九条3項)
憲法尊重義務(改憲案 百二条1項)
憲法に書かれているだけならば訓示規定のようなものだから、私たちの生活には直接影響がないと考える人がいるかもしれません。
しかし、先ほど見たように、国民に憲法を守る義務を課す条項(改憲案百二条1項)を入れたことは無視できません。
その条項を根拠に、ここにあげた義務規定を国民に守らせるための法律が次々とつくられていく可能性は高いと思います。法律になれば、違反した人に罰則が科せられるおそれもあります。憲法で国民に新たな義務を課すというのは、そういうことなのです。