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兵法経営~「統率力」で組織を動かせ

大橋武夫(経営評論家)

2013年08月15日 公開 2022年06月07日 更新

兵法経営~「統率力」で組織を動かせ

経営者と経営幹部に最も必要なのは、組織を運用していく力、すなわち『統率力』である。

しかし、さまざまに変化する条件の中で、組織を統率していくことはむずかしい。

このとらえどころのない、しかも、どうしてもとらえねばならない統率の問題を中心として、経営幹部が取り組まねばならない現実問題に迫った。

※本稿は『経営幹部100の兵法』(PHP文庫)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

統率力が会社を救う

経営とは組織の運用であり、そのため最も大切なものはリーダーの統率力である。

統率を分けると、統御と指揮になる。人間集団を動かすには、まず統御しておいてから指揮しなければならない。

統御とは、集団内の各個人に、全能力を発揮して指揮されようとする気持ちを起こさせる心理工作であり、指揮とは、このエネルギーを総合して、集団全体の目標に、適時集中指向し、促進して、効果的に活用する技術である。

なんらかの方法によって、部下の心の同調を求めるのが統御であり、その代表的な手段は説得であるが、同調する意思はあっても、それに必要な能力がなくては同調できない。

この能力をつけておくのが教育、研修である。また、もっている能力を十分発揮させるためには、ある種の暗示を与えることが大切である。

たとえば「君にはこの仕事は十分できるんだ。君以外にこの仕事のできる者はいない」などと、激励すれば、部下は自信を持ち、信頼を裏切るまいと発奮し、上司の期待にこたえて全能力を発揮するようになる。

 

仕事の能力と統率力

50人の部下をもつ販売課長にベテランセールスマンを抜擢したときの不利は、彼がややもすれば、自らセールスの第一線にとび出しやすい点である。

彼はセールスマンとしては10人分の成績をあげるかも知れないが、そのために全般の統率がおろそかになって、50人の部下が遊んでしまい、結局40人の損になる。

これは、極端な表現であるが、要するに、役職が上になるにしたがって、統率力の必要が大きくなるということである。

一般に、ほとんどの倒産会社が、社長の交代によって不思議なほどの立ち直りをみせている。しかし、よく考えてみると、かりにも社長に選ばれるくらいの人々の個人的な仕事の能力に、そんなに差異のあるはずはない。

また、個人の力というものは貧弱で、いかなる運転の名人でも、1人で2台の自動車を動かすことすらできないのである。

神秘的な力を発揮するトップの秘密はそんな能力ではなく、その人がトップに就任することによって、全組織の人々が奮い立ち、その全能力を発揮するようになることである。

これは偉大なはたらきをする。1000人の人が1割よけいに力を出せば、文字どおり100人力を増したことになるのである。

 

統率の技術

部下よりすぐれているだけでは統率はできない。統率には技術が必要である。

近代社会の特徴は、個人が集団をつくって活動し、しかも個人意識が強いことである。統率者はこの個人意識を巧みにリードしつつ、その集団を運用することを考えねばならない。

統率は次の手順によって行なう。

(1)集団の目標を決定または確認する。
(2)集団内の各個人の能力を十分に発揮させる。
(3)これを総合して、集団の目標に指向し、推進し、牽引する。
(4)各個人の活動を調整して、隙間と摩擦の起こらないようにする。

目標の決定、確認にあたっては、各個人の希望を満足させることが大切であるが、これには問題がある。すなわち、

(1)各個人の希望は同一でなく、全員の希望を平等に満たすことは困難である。
(2)多数の希望は必ずしも妥当ではない。とくに大衆は目前の小利によろめく。
(3)集団の希望と個人の希望とは相反することがある。

統率者はすぐれた判断力をもち、集団の進路を誤らず、ときには各個人の考えの誤りを指摘して、これを修正させ、場合によっては、不人気な政策を実行する勇気をもたねばならない。大衆をひきいて、所定の目標に到達するため、統率者には鉄のごとき意志力を必要とする。

統率の技術は、人事権によって裏付けされることにより、はじめて威力を発揮する。部下に人事権を与えないで、その統率力を期待するのは無理である。

統率者と各個人の希望が異なった場合には、まず説得しなければならない。説得の第1手段は共通の利益を探し出すことである。また、説得と議論とは違う。

議論に勝って統御に成功したためしがない。説得するには相手の心の扉を開き、相手の心と自分の心とのあいだにベルトをかけることが大切であり、相手の心の扉を開く鍵はユーモアである。

なお、部下は2つの顔をもっていて、表面頑固にみえる者は、心の奥には逆に「だれのいうことでも受け入れたい」という気持ちをもっているものである。統御する場合には、部下の顔のうち、つきあいやすいほうをひっぱり出して相手にしなければならない。

技能や技術にすぐれている者も、統率技術をもっているとはかぎらない。もっていても、仕事に熱中してこれを忘れる者が少なくない。こんな人間を管理職につけると、自他ともに大きな不幸をもたらすことになる。

管理職にすることだけが優遇ではない。給料、名称、地位などで待遇し、あまり部下を使わないですむ仕事に専念させればよいのである。

 

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