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“自立した個”が強いチームをつくる  安芸南高校サッカー部監督 畑喜美夫の挑戦

〔レポート〕森末祐二(編集創房/森末企画)

2013年08月30日 公開 2023年02月02日 更新

《『PHPビジネスレビュー松下幸之助塾』2013年9・10月号 特集 「打てば響く組織」への挑戦 より》

 

組織を強くする方法――それは、「優秀な人材」を集めて、トップダウンで徹底的に鍛え上げることだけだろうか。
近年、高校サッカー界で、従来の方法にとらわれない画期的な指導法で成果をあげ、注目を集める指導者がいる。プレー自体の指導よりむしろ「人間力」向上の指導に力を注ぎ、メンバー一人ひとりに"みずから考えさせる"指導を徹底して続けることによって、弱小チームをスポーツエリート集団に勝利するチームに育て上げているのだ。
徹底したボトムアップでインターハイ(全国高等学校総合体育大会=高校総体)優勝、という事実が、その指導法の正しさを証明する。
子どもの人間的成長を第一に、"素敵で強い"組織づくりに挑戦し続ける高校教諭・畑喜美夫氏に、独自の育成理論をきいた。(以下、本稿敬称略)
<写真撮影:石田貴大>

畑喜美夫(はた・きみお)
1965年広島市生まれ。小学2年生からサッカーに没頭する。東海大学第一高等学校時代にU-17日本代表。順天堂大学時代にソウルオリンピック代表候補に選ばれるも、腰椎ヘルニア発症により辞退。卒業後は高校の体育教師となり、公立の広島観音高校サッカー部を全国優勝させたことで、独自のボトムアップ理論が注目を集める。現在、広島県立安芸南高等学校教諭、サッカー部監督。DVD『畑喜美夫・ボトムアップ理論の概要と実際』(ジャパンライム刊)などがある。

 

「自立した個」を育て組織の力も高める

 去る6月5日、サッカーの2014年FIFAワールドカップ・ブラジル大会出場決定翌日の記者会見で、本田圭佑選手はこう語った。

 「シンプルにいえば『個』だと思います……最後は『個』で試合を決することがほとんどなので。……どうやって『自立した選手』になって、『個』を高められるか。自分が前に出るという強い気持ちを持って集まっているのが代表選手だと思う」

 今やサッカー日本代表チームの大黒柱である本田の言葉は、サッカー関係者のみならず「個と組織」について考える経営者にとっても、重要な意味を持って迫ってくるのではないだろうか。

 サッカーはチームスポーツではあるが、レベルの高いチームをつくるためには、まず一人ひとりの選手がレベルの高い「自立した個」であるべきだと本田は主張する。

 同様に、企業という組織においても、一人ひとりの社員は、まず「自立した個」でなければならないはずだ。会社に寄りかかって生きる「パラサイト社員」や、自分で考えて動かない「指示待ち人間」については論ずるまでもなく、「自立した個」が集まり、社員同士が互いに思いやりながら最大限のパフォーマンスを発揮すれば、結果はおのずから表れる。

 そうした「個と組織」をつくるうえで重要な示唆を与えてくれる人物が、広島県にいた。前任の県立高校サッカー部を全国優勝に導き、現任校も転任後わずかな期間で目覚ましく成長させている畑喜美夫である。一教師として、またサッカー部監督として、生徒一人ひとりに考えさせながら「自立した個」を育て、同時に組織の力も高めていく指導方法が注目を集めている。

 秘密を探るべく、広島を訪れた。その日は雲一つない青空に恵まれた。
   

部室をきれいにしたら試合に勝ち始めた

 畑の勤務先は、広島市東部の県立安芸南高等学校である。満面の笑みで迎えてくれた畑がまず案内してくれたのは、サッカー部の部室だった。

 そこには選手たちのスポーツバッグとシューズが、実に整然と並べられていた。ただきれいに並んでいるというレベルではない。だれもが一瞬にして目を奪われ、「美」を感じるくらい完璧に整頓されていた。ユニフォームや用具が雑然と散らかっている一般的な高校運動部の部室のイメージとは別次元の世界だ。

 時折すれ違うサッカー部員たちが、これまた気持ちがいい。だれもがはきはきと大きな声であいさつしてくれる。とても清々しく、「部の雰囲気のよさ」を感じた。

 2011年4月に畑が安芸南(地元では「あきなん」と呼ばれる)に転任してきたときには、世間一般の例にもれず、運動部の部室は汚く散らかった状態だった。サッカー部も同じ。おまけに成績は振るわず、学校からも期待されない。練習の仕方もユニフォームの着方も、何から何までいい加減だった。

 さらに、他の部は学校行事があるたびに会場づくりや後片づけ、来校者の誘導など何らかの役割を与えられることがあったが、サッカー部にはお呼びがかからない。どうせまともな仕事などできないだろうと思われていたのである。そんな安芸南サッカー部で、畑の改革が始まった。

 「私はまず、変化が目に見て分かる部室から『素敵』に感じさせるようにしました。練習へのスタートの場所であり、終了後に気持ちよく迎え入れてくれる場所です。過ごす時間も長い。ただ、強制的にやらせはしませんでした。とにかく、なぜ部室をきれいにすることがサッカー上達のファクターになるかを考えさせるようにしていったのです。いざきれいになってみると、気持ちがいいですから、だんだん皆で掃除をすることが習慣になりました」

 さらに、前任校との練習試合を組んでスポーツバッグやシューズがきれいに並んでいる更衣室を見せたり、整理整頓された世界のプロチームのロッカールーム写真を見せるなどして、「サッカーは、やっても見ても『素敵』なほうがいいよね」などとアドバイスをしたところ、部員たちは少しずつきれいな状態にこだわりを持ち、きれいに保つことに熱意を傾けるようになっていったという。

 転任初期の時点では、畑はサッカーについて何も教えようとはしなかった。練習方法も、技術も、戦術も、選手の起用法も、いっさい語らなかった。ところが、ただ部室をきれいにしただけで、サッカー部はまもなく試合に勝ち始めたのである。

 「部室を整理して、バッグやシューズを『素敵』にそろえて並べることで、部員たちは細かいことに目配りができるようになり、いい意味で物事に『こだわり』を持つようになりました。その意識の変化が、たとえばサッカーをするときのパスの精度やシュートの決定力などに表れるようになったんです。この手法は、前任の観音高校(県立広島観音高等学校)ですでに結果を出していて、同じやり方を安芸南にも持ち込んだわけです」と、畑はその理由を説明する。

 試合に勝つことで、部員たちの目つきが明らかに変わった。学校側のサッカー部を見る目も変わってきた。他の運動部の部員たちもサッカー部の活躍に刺激を受け、部室をきれいに片づけるようになっていった。

 一人の教諭が転任してきたことで、学校全体の雰囲気まで、徐々に変化し始めたのである。
   

華々しい選手時代を経て教師の道に進む

 現在、県立高校教諭の畑喜美夫は学生時代、将来を嘱望された一流のサッカー選手だった。

☆本サイトの記事は、雑誌掲載記事の冒頭部分を抜粋したものです。

 


<掲載誌紹介>

 『PHPビジネスレビュー松下幸之助塾』
 2013年9・10月号Vol.13

<読みどころ>
9・10月号の特集は「『打てば響く組織』への挑戦」。 「打てば響く」という句は、もともと太鼓や鉦(かね)をたたけばすぐに音がするように、反応のよい利発な“人”を形容する表現であったが、今では組織の評価を示す際にも一般的に使われる。風通しやコミュニケーションがよく、目標達成に向け統制された行動が取れている組織が、「打てば響く」組織と言えよう。
 本特集では、(1)モチベーション研究のスペシャリスト、(2)弱小高校サッカー部をインターハイ優勝校に育て上げた公立高校の監督、(3)徹底したガラス張り経営で業績を伸ばす経営者――など、さまざまな分野で実績を上げている組織づくりのプロから、そのヒントを学ぶ。
 そのほか、タイで出家した日本人僧が綴る「ほほえみの国 タイから」が連載開始!ぜひお読みいただきたい。

 

 

BN

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