遺言の書き方...禅僧・枡野俊明の「終活」入門
2013年08月29日 公開 2024年12月16日 更新
遺言には、財産相続や事業継承などの「社会的な遺言」と、自分の経歴や思いを残す「心の遺言」の二種類があります。
遺言を書くことで将来に備えられるほか、これまでの人生をふリ返り、今後の生き方を考えるうえでも役立ちます。
ここでは、禅僧の枡野俊明氏がおすすめする、エンディングノートと遺言の書き方を紹介します。
※本稿は、枡野俊明 著『思いが伝わる あなたと家族のエンディングノート』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
エンディングノートは人生をふり返るために書く
最近では、「エンディングノート」を書き残すことが流行しています。60歳以上の人はもちろん、まだ30~40代の人たちの間にも、エンディングノートを書くことが広まっているようです。
エンディングノートには、遺言書のように法的な効力はありませんが、自分の思いや希望を自由に書くことができます。自分が死んだ後、だれかに何かを伝えたい。自分が生きてきた道のりを残しておきたい。そんな思いから、筆をとる人が増えているのかもしれません。
仕事をしていても、子育てに追われていても、日々はあっという間に流れ去っていきます。立ち止まって自分自身をふり返る余裕など、なかなかないでしょう。
そんななかで、いつしか自分自身を見失ってしまうこともあります。自分は何のために生きているのか。人生の本来の目的は何なのか。自分が歩むべき道はどこにあるのか。そんな疑問を胸に抱きながら、毎日を過ごしている人も多いのではないでしょうか。
そのうち落ち着いたらゆっくり考えよう、時間ができたら取り組もう、などと思っていると、いつまで経ってもできません。定年になって、社会の一線からリタイアしても、人はなかなか立ち止まることをしないものです。
ですから、エンディングノートを活用して、一度ゆっくりと自分の人生をふり返ってみる。それは、とても素晴らしいことだと思います。自分を見つめなおすのに、早すぎるということはないのです。
形あるものだけでなく心や精神を伝えるのが遺言
一方、法的な効力をもつものが遺言書です。遺言書とは、自分がこの世を去るときに、自分の財産をだれにどのくらい相続させたいか、その意思を書き残しておくものです。相続に関する遺言は「社会的な遺言」といえます。
遺言を残すメリットは、財産を法定相続分と異なる分配にすることができたり、法定相続人以外の友人や公益機関に遺贈することができたりする点です。家族関係が複雑な場合にも、相続人同士の争いやトラブルを避けることができます。
「遺言なんて縁起でもない」「お年寄りが書くもので、自分にはまだ早い」「たいした財産もないので関係ない」などと思っている方もいるかもしれません。しかし、いつかは必ず来るその日に向けて、何らかの準備をしておくことは必要です。
「相続」という言葉は、もともと仏教の言葉です。仏教では、すべての現象は諸行無常で、変化して一瞬一瞬生滅し、その流れは継続するといわれています。それが、引き続き起こること、受け継ぐこと、という意味になり、一般にも用いられるようになりました。
現在では、形あるものに使われることが多いですが、本来は心や精神を受け継ぐことなのです。
有形のもの以外に、自分の生い立ちや学んできたこと、人生のなかでしてきた経験、家族に伝えたい思いなどを残すのが「心の遺言」です。自分自身が歩いてきた道のり、そこで得たものを次世代の人たちへ残していくこと。それこそが本来の「遺言」ではないでしょうか。
いつ、突然の事故や病気に見舞われるか、だれにもわかりません。ですから、自分の気持ちをきちんと伝えられるように準備しておくことは、旅立つ者としての役割だと思います。
禅のことば:脚下照顧 (きゃっかしょうこ)
自分の足元をしっかり見て、本来の自分があるべき姿、等身大の自身の姿を見つめるようにという意味です。今やるべきことに必死になって取り組むと同時に、立ち止まることの大切さをも説いた言葉です。エンディングノートを書き記すことは、まさに「脚下照顧」の心と通じるものがあるかもしれません。