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生き方

自分をまっとうする生き方を選べ

金美齢(評論家/JET日本語学校理事長)

2011年03月10日 公開 2024年12月16日 更新

PHP文庫『凛とした生き方』より

 私は、人の生きる道は「清く、正しく、美しく」であるべきだと思う。何を今さら、と思う人もいるかもしれないが、いつの時代でも、人間の基本は同じだ。

 おおかたの日本人は、清く、正しく生きている。まじめに働いて得たお金で暮らしているなら、清く、正しく生きていると言える。

 なにも「清貧」でなくてもよい。高度経済成長を支えてきた世代には、たしかにエコノミック・アニマルと呼ばれる側面があったにせよ、必死に働いてきたことはまぎれもない事実だ。

 ところが、経済成長に価値を置いた人たちはひとくくりに、拝金主義社会をつくった人たちにされている。それがそもそも間違っている。 

 賄賂を受け取る高級官僚や、利益を上げるために不正を働いた企業のトップたちの悪しき「拝金主義」とは明らかに区別されるべきことだ。

 清く、正しく働いてきた人たちが、
「我々は不正と無縁だったし、日本の経済の発展のために尽くしたのだ」
と、誇りを持って語ればいいのに、なぜそうしないのだろう。

 高度成長で何を得て、何を失ったかを考え直し、今後の社会にそれらの教訓をどう生かすか、ということを堂々と語るべきだ。
しかし、社会の根底を担ってきた人たちが、モノを言わない。モノ言えば唇寒しと思うのか、「沈黙は金」が美徳のつもりなのか。

 自分のやってきたことを自信を持ってまっとうする気がないのだろうか。

 さらに言えば、他の人の無節操さに対しても、声を上げない。

 例えば、あれほど成田空港建設反対と叫び、一坪地主にまでなったような人たちが、今、国を代表して嬉しそうな顔をして成田空港から外国に飛び立ってゆく。

 恥ずかしくはないのか、と私は言いたい。

 もし私が成田空港建設反対と主張したら、絶対に成田空港は使わない。無理してでも関西国際空港でも福岡空港からでも、他の空港を使って旅行する。

 無節操に態度を変える人はもちろんのこと、その無節操さを声を上げて指摘しないことにも問題がある。

 正当な意見なら、自信と誇りを持って主張するべきだ。

 それが、信念を貫くことであり、自分をまっとうすることでもある。

 「清く、正しく、美しく」の「美しく」は、そこを問うていると私は思う。

 するべき主張が沈黙の中に埋もれる一方、おかしな主張は声高にされる。

 「国を愛する気持ちが必要だ」と発言する人がいれば、「右翼化をうながす危険がある」と非難する。

 なにかというと、「子供の人権」を持ち出し、子供に勝手気ままと自由をはきちがえさせるような主張をする。

 そんな主張がまかり通っているのが現実なのだ。

 しかし、こんな時代だからこそ、ひとりひとりが「まっとうするべき自分」を持つことが必要なのだ。深く考えることが必要なのだ。

 ちょっと目に恰好のよい主張に、簡単に納得してしまってはならない。次から次へと押しよせる情報に踊らされてはならない。

 どういう社会であるべきなのか。自分はその社会と、どのように関わって生きていくのか。自分の役割は何なのか。自分の頭で考え、決断することが何よりも必要なことだ。

 自分をまっとうすることは、そこからしか始まらない。

 「美しく」生きたかどうかということは、人生の最終総合点のようなものだと思う。

 自分の選んだ道を、信念を持って歩ききること。

 もちろんそこには、責任と覚悟が必要だ。

 さらに、人の役に立ち、人と幸せを分かち合える人であること。

 そんな人生を送ることができたら、「美しく生きた」と言えるのではないだろうか。

 

関連著書

凛(りん)とした生き方

『凛(りん)とした生き方』

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著者紹介

金美齢(きんびれい)

評論家

1934年、台湾生まれ。1959年に留学生として来日、早稲田大学第一文学部英文学科に入学。同大学院文学研究科博士課程単位修了。その後、イギリス・ケンブリッジ大学客員研究員、早稲田大学文学部講師などを経て、JET日本語学校校長を務める。現在、同校名誉理事長。評論家。台湾独立を願い、日台の親善にも努め、政治、教育、社会問題等でも積極的に発言。テレビ討論番組の論客としても知られる。著書に、『日本ほど格差のない国はありません!』『私は、なぜ日本国民となったのか』『美しく齢を重ねる』(以上、ワック)、『この世の偽善(共著)』『この世の欺瞞(共著)』(以上、PHP研究所)、『凛とした日本人』『凛とした生き方』『夫への詫び状』『凛とした子育て』(以上、PHP文庫)など。

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