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あなたは知っていますか?世界遺産・富士山の伝説

小田全宏(株式会社ルネッサンス・ユニバーシティ代表取締役)

2013年09月11日 公開 2023年01月05日 更新

かぐや姫と「不死の山」

 富士が「不死」とつながっているのは、徐福伝説だけではありません。あの『竹取物語』にも明確に出てきます。

 『竹取物語』は『かぐやひめ』として子どもから大人までよく知っていると思いますが、9世紀にできた日本で最初の物語だといわれています。

 ストーリーはまことに荒唐無稽、空想の賜物です。おじいさんが竹をとっていると竹の中から光り輝く美しい女の子が現れました。その子が成長し5人の若者たちから求婚されるのですが、次々と繰り出される難問にみんな轟沈。結局、帝が「后に来てくれ」と嘆願するも、かぐや姫は「私はこの世の者ではありません。もうすぐ使者がまいります」と言って、8月15日、月の光の中を昇天していくというお話ですが、この最後の場面に富士山が登場してくるのです。

 姫は最後に「不死の薬」を帝に渡して天に昇っていったのですが、「もう二度と姫に会えないのに私が長生きしても何の意味があろうか」と帝は嘆き悲しみました。

 逢ふことも なみだに浮かぶ わが身には 死なぬ薬も なににかはせむ

 そのときに詠んだ帝の歌です。帝は、姫にもらった薬を富士山の頂上で燃やしてしまいました。その最後の部分で富士山が登場します。

 不死の薬の壷並べて、火をつけて燃やすべきよし仰せ姶ふ。そのよし承リて、つはものどもあまた具して山へ登りけるよりなん、その山をふじの山とは名付けける。その煙、いまだ雲の中へ立ち昇るとぞ言い伝へたる。

 帝が「不死の薬」を山頂で焼いたから「フジの山」になったということと、もう1つ「武士」がたくさん山に登ったから「富士の山」だということと、2つ意味がかけられているのです。

 しかし、この『竹取物語』、確かに富士山は登場しますが、その登場の仕方は最後にちょっとつけたしのように出てくるだけで、「かぐや姫」と富士山との本質的なつながりは見えてきません。

 ところが、その後の物語では、この「かぐや姫」と「富士山」の関係はもっともっと密なものになっていきます。

 竹の中から美しい姫が現れたところまでは一緒ですが、ここでは帝と姫との関係が濃密になって語られます。帝は姫を后にと懇願するのですが、

 「私は神の授かりものです。子どもがいない老夫婦をあわれに思い竹の中から出てきたのです。帝がその気になれば、すべてのものを御許に呼び寄せることができるでしょう。私はそうするわけにはまいりません。かくなる上は穀集山に登り身を隠しましょう」

 と言って、老夫婦のもとを去るのです。穀集山というのは、稲をうずたかく積み上げたように見える富士山のことですが、姫は大きな川っぺりに来たときに、涙を流して歌を詠みました。

 身捨てんと 思ひ出でにし 我なれば 世の憂きことも かヘりみるなり

 そして、姫は山の中へと身を隠してしまいました。天皇はあまりの恋しさに、姫に2つの宝冠を送りましたが、山の中腹でその冠を受け取ると、美しい微笑を残し山の中へと消えていったというのです。

 ここで、姫は富士山の守り神になる余韻を残して消えていきます。

 この「かぐや姫伝説」はいろいろな形態をとって変遷し、ときには中国の女性になったり、単なる恋愛物語になったりしますが、かぐや姫が富士山と一体化していく素地が初めからあったのです。

 中曽根元総理と芥川賞作家の新井満氏が対談された折に、「富士山は男か女か?」という議論を繰り広げたそうですが、中曽根氏は「富士山は男である」と主張し、新井氏は「富士山は女である」と主張しました。イメージ的には私たちの心に強い勇気を与える存在としては「男」だともいえますが、しかし歴史的には富士は女性、いや女性神として見つめられているようです。

<書籍紹介>

なぜ富士山は世界遺産になったのか

小田全宏 著
本体価格 1,300円

祝!富士山世界遺産。登録への道のりはどのようなものだったのか。併せて「文化としての富士」を徹底解説、富士山の魅力を解剖する。

著者紹介

小田全宏(おだ・ぜんこう)

(株)ルネッサンス・ユニバーシティ 代表取締役

1958年、滋賀県彦根市生まれ。東京大学法学部卒業後、(財)松下政経塾入塾。松下幸之助翁指導のもと、一貫して人間教育を研究。91年(株)ルネッサンス・ユニバーシティを設立し、多くの企業で人材教育実践活動を行なう。著書に、『陽転思考』『新・陽転思考』(日本コンサルタントグループ)、『日本国改造プログラム』(編著、稲盛和夫監修)、『国民が目覚めるとき』(以上、PHP研究所)、『首相公選』『日本人の真髄』(以上、サンマーク出版)、『私たち塾生に語った熱き想い 松下幸之助翁82の教え』(小学館文庫)など多数。

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