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あなたは知っていますか?世界遺産・富士山の伝説



2013年09月11日 公開

小田全宏(ルネッサンス・ユニバーシティ代表取締役)

《『なぜ富士山は世界遺産になったのか』より》

富士山の名前の由来は?

 さて、富士山という名はどこから来たのでしょうか。

 はじめて「ふじ」の名前が出てくるのは、713年に出された元明天皇の詔により作られた『常陸国風土記』です。風土記というのは奈良時代に各地の文化や地勢についてまとめられたもので、一番有名なものでほぼ完全な形で残っているのは『出雲国風土記』です。常陸国は、今の茨城県にあたります。

 『常陸国風土記』の中に「福慈」という名前が出てきます。「ふじ」と呼び習わす名前には、「富士」「不二」「不尽」「不死」などがあります。「不二」は、「ふたつとないほど素晴らしい山」という意味でしょうし、「不尽」も「その素晴らしさは尽きない」とか「その大きさは尽きない」という意味でしょう。

 「不死」というのは、永遠の生命を得るという意味ですが、どうもこれは中国の神仙思想から来ているようです。世の為政者というのは、永遠の命をもとめて東奔西走するものですが、特に有名なのが秦の始皇帝の「不死の霊薬探し」です。どんなに権勢を誇った始皇帝でも、さすがに老いには勝てません。いやむしろ権力をほしいままにした人ほど盛者必衰の理を痛切に感じていたことでしょう。

 始皇帝は、部下の徐福に命じて海へ山へ不老長寿の秘薬を探させたといいます。紀元前3世紀ごろの話なので、真偽のほどは定かではありませんが、3千名を超える人々を引き連れて徐福が駿河湾から富士山へ向かったということが古文書に記されています。このような、山に仙人が住んでいるとか、万病に効く霊薬があるといった神仙思想は、日本でも広がっていきます。『竹取物語』にも、この神仙思想が色濃く出ています。

 富士山はだいたいが「ふじ」と呼ばれていたようですが、『富士山由来記』(経ケ岳から出土)を見ますと、まだまだたくさんの名前が富士山にあることがわかります。

・養老山……これは富士山が不老長寿を約束してくれる山だという説と、富士山の頭にかぶった雪が老人の白髪に見えるからだという2つの説があります。

・仙人山……これも、富士山が不老不死を約束された山であるという神仙思想から出ています。

・行向山……素直な気持ちで心を清めて富士山に登る者は素晴らしい功徳が得られるという信仰から来た名前の1つ。また、聖徳太子が馬に乗って富士山に参したところから取った名前だという説もあります。

・妙光山……富士山が常に雪をかぶり光り輝いているところからついた名前。

 変わったところでは、

・蹲虎山……ちょっと難しい呼び名ですが、富士の頂上に「虎が蹲っているような形をした石がある」ところからついた名前。

・四方山……富士山は四方八方どこから見ても同じ形をしているところからつけられた名前です。

 最後にもう1つ、「枝折山」という名前を紹介しましょう。どうして富士山が「枝を折る山」なのか。それは、こんなお話です。

 昔、富士山のふもと駿河の地に、1人の若者と年老いた父親が貧しく暮らしていました。年老いた父親はだんだん体も動かなくなり、若者はそのお世話が面倒になってきました。そこであるとき、父親を富士山に捨てに行こうと考えたのです。

 「おとう、一度富士山に登ろうや」

 息子の魂胆を知ってか知らずか父親は、「おお、それはいい」と言って、息子におぶわれ富士山に登ることになりました。

 その道すがら、父親は木の枝を祈りながら道に撒いています。息子はそんなことには一向に構わず、頂上を目指します。

 もうそろそろ頂に着くころ、一休みしていた2人でしたが、突然息子は何も言わず父親を放り出して、脱兎のごとく山を駆け下り始めました。

 息子の背中には父親の叫び声が突き刺さりましたが、お構いなしに下りていきました。

 そのときです。突然、地面が裂け、その割れ目に息子は落ちてしまいます。すんでのところで片手を岩にかけたものの、まさに墜落寸前。

 そのとき、天空から神の声がしました。

 「自分の父親を捨てて帰るとはなにごとだ。お前は自分の罪により、これから永遠に地獄で苦しむのだ」

 まさに手が離れこれまでと思った瞬間、今まで老いぼれて動けなかったはずの父親が息子のもとに駆け寄り、息子の髪の毛をむんずと掴むと神に向かって大音声をあげたのです。

  奥山に 捨つる枝折は 誰がためぞ 我身を置きて 帰る子のため

 枝を折って捨てたのは、自分を捨てていく息子が道に迷わず帰れるようにするためなのだという、悲しくも強い父親の心の叫びなのでした。

 その老人の心に神の心も打ち震え、息子の命は助かりました。

 息子は父親に抱きつきながら、「おとう、どうか許してくれ」と言って泣き崩れたということです。

 昔から「姥捨て山」とか「楢山節考」などで、老いた親を捨てる話は伝わっていますが、その1つが富士山にも伝わってきたのでしょう。

 それにしても、富士山の名前はまさに七変化です。私たちは「富をつかさどる山」ということで富士山と呼んでいます。さて、あなたはどの名前が気に入りましたでしょうか。

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著者紹介

小田全宏(おだ・ぜんこう)

(株)ルネッサンス・ユニバーシティ 代表取締役

1958年、滋賀県彦根市生まれ。東京大学法学部卒業後、(財)松下政経塾入塾。松下幸之助翁指導のもと、一貫して人間教育を研究。91年(株)ルネッサンス・ユニバーシティを設立し、多くの企業で人材教育実践活動を行なう。著書に、『陽転思考』『新・陽転思考』(日本コンサルタントグループ)、『日本国改造プログラム』(編著、稲盛和夫監修)、『国民が目覚めるとき』(以上、PHP研究所)、『首相公選』『日本人の真髄』(以上、サンマーク出版)、『私たち塾生に語った熱き想い 松下幸之助翁82の教え』(小学館文庫)など多数。

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