イライラする感情を「6秒間」でコントロールする方法
2013年09月25日 公開 2022年10月05日 更新
人間は「思考・行動」のみで物事を達成するのではなく、必ず「心(感情)」が思考や行動を引き起こして、物事を達成します。感情は、人間のエンジンなのです。
感情という人間のエンジンを資源(リソース)として活力にすることは、「能力を引き出す」ことであり、組織全体で互いに共鳴し合うことは「調和を生む」こと。これが「EQを発揮する」ということです。
※本稿は田辺康広著『できるリーダーは部下の「感情」を動かす』(PHPビジネス新書)より一部抜粋・編集したものです。
感情を制すキーワードは6秒
EQはだれもがもっていて、発揮できる能力ではありますが、経験を積み上げる過程で育んでいき、成熟させていくべき能力でもあります。
EQ理論の提唱者、サロベイ博士とメイヤー博士がたとえた「読み書き能力」は、今日の社会では単に識字率の向上にとどまらず、個人が社会生活の中であらゆる場面で行う「自己決断」に役立つ能力へと発展しています。
同じように、EQもまた、日々の中で成長、発展させていかなければなりません。EQは「一日にして成らず」なのです。
そのことを前提としたうえで、ここでは、具体的に踏み出す一歩として、"即効性のある"方法をいくつか提案したいと思います。キーワードは「6秒」です。
次のような場面をイメージしてみてください。
(1)運転中、急に脇道から人が飛び出してきて、急ブレーキをかけると同時にハンドルを握る手にぐっと力が入る
(2)仕事で、見落としていたミスに気づいて、体が固まると同時に顔が青ざめる
(1)の「急ブレーキをかける」は、予期しない事態に対してとっさにとった行動ですね。
それに伴って、(1)の「ハンドルを握る手にぐっと力が入る」という反応は、体内の血液が両手に一気に集まった状態の「怒り」の表れです。心拍数も上がり、アドレナリンなどのホルモンの分泌も増加して、次の瞬間には「危ないだろ、バカヤロー!」の怒声になるわけです。
同様に、(2)の「顔が青ざめる」とは血液が両足などの大きな骨格筋に流れる状態の「恐怖」の表れで、瞬間的に「どうしよう...」という焦りに支配されてしまうのです。
このように「反応」から次の行動に出るまでが、わずか「6秒」以内に起こります。
"瞬間"と表現した具体的な経過時間はたった6秒足らずですが、その6秒のうちに衝動的な行動にまでいたってしまうのです。
6秒待てないことで後悔する事態に
あのサッカー界では伝説となった、ジダン選手の"ヘッドバット事件"もそうでしたね。
2006年にドイツで開催されたサッカーワールドカップ決勝で、すれ違いざまに相手のイタリア選手に"何か"を言われたフランス代表のジダン選手は、一旦はそのまま自陣に戻ろうとしたものの、突然向きを変えて相手に歩み寄り、その起爆となった言葉への報復ともとれるヘッドバットを実行してしまったのでした。
頭に血がのぼってしまうほどの「激怒」の表れ。それほどまでの「言葉」とは、相当な内容であったのだろうと推察してしまいます。
引退まぎわのフランスの英雄に"とんでもない事件"が起こったのも、たったの「6秒」以内のことでした。
このように、突発的な出来事に対しては、特に長く感じる「6秒」も、後から振り返れば「たった6秒」で後悔する事態になることもあります。
後悔してもしきれないほどの大失態は、ビジネスリーダーにとってはぜひとも回避しなければなりませんね。そこまでの事態ではなくとも、カッとなることで物事が円滑に進められない状況は、リーダーにとってはゆゆしき事態になりかねません。
何かの拍子に感情が動いたと思ったら、「6秒」待って、心を鎮めてください。特に「怒り」「嫌悪」などの「不快」の感情には要注意です。
そこで、日常から「6秒の感覚」を身につけておくことをリーダーのみなさんにはおすすめしたいと思います。
「6秒感覚」を身につけよ
試しに、時計を見ながら「6秒」を数えてみてください。「6秒」が、短いと感じたでしょうか、それとも意外と長いと感じたでしょうか。
日々の職場での心がけや部下とのコミュニケーションを利用して、「6秒感覚」を身につける方法をいくつか紹介します。「6秒」を短いと感じた人は、初めのうちは時計を意識しながら実践してみてください。
〔1〕職場に入る前に「6秒」鏡をのぞく
周囲に与える印象を確認するために、鏡に映った自分のその日の顔をチェックし、軽く表情筋をストレッチしながらの6秒間。仕事モードにスイッチを切り換えるための時間とします。
〔2〕毎朝、チーム全体を「6秒」点検する
毎朝、部下たちをひととおり見渡して、それぞれの調子を点検する6秒間。様子や表情から「快」か「不快か」、あるいは「元気」か「疲労」状態かを確認して、必要な声をかけてあげます。チーム全体の調子、状況を把握する時間とします。
〔3〕イラッとしたら「6秒」の呪文
何かに対してイラツとしたときに、強制的にまったく別のことを思考する6秒間。たとえば、簡単な計算をしたり、好きなものの名前をいくつかあげたり、好きな言葉を何度か繰り返すなど。怒りまで達していない“小さな怒り”も残さず解消する時間とします。
〔4〕"リフレッシュ・ボタン"を「6秒」押す
ふさぎこんだり落ち込んだり、気分が優れないときにペップトーク(元気づける言葉)をする6秒間。自分自身のいいところを言い続けたり、気持ちが上向くような格言(たとえば、「雨降って地固まる」「春の来ない冬はない」)を唱えるなど。周囲に沈んだ空気が伝染する前に、リフレッシュする時間とします。
〔5〕部下に「6秒」でコメント・主張・質問する
部下に対して言葉を発信するときの6秒間。褒めるときや言いにくいことを伝えるときのコメントや主張、部下に考えさせるときの質問など。的確に伝わり、スムーズな対話ができる効果も期待できます。
〔6〕手助けか必要な部下の横に「6秒」でつく
沈んでいたり助けが必要な部下の様子に気づいてから、そっと横に歩み寄るまでの6秒間。見て見ぬふりをしたり、後まわしにせずにすぐに動き、同じ方向を見ながら共感をもって接すること。部下が足踏みしてしまう時間を減らしてあげ、背中を押してあげられることもあります。
6秒の感覚を身につけることで、自身の冷静さを維持したうえでの対応や判断に結びつく一方、部下にとって「感情的なリーダー」か、あるいは「冷静で熱いリーダー」かのどちらかに映る分岐点となる"6秒の壁"でもあるかもしれません。
<著者紹介>
田辺康広
(たなべ・やすひろ)
シックスセカンズジャパン株式会社代表取締役社長
1979年、東北大学卒業後、全日空入社。国際線営業、航空機調達、国際大学大学院(M.A.)修了、ジュネーブでの国際会議担当後、ロサンゼルス支店赴任。11言語が飛び交う組織にてダイバーシティマネジメントを経験。1997年よりロサンゼルスにて起業し、EQ普及のため企業向けにEQ理論をベースとした管理者研修やキャリア開発プログラムを提供してきた。
2010年、「ボーダレスな時代に活躍できる人材のキーファクターはEQ」の思いから北米、中南米、欧州、東アジア、オセアニア、中近東、アフリカに拠点を置くEQ普及のグローバル組織、シックスセカンズ(米国、NPO)の日本法人を設立し、代表就任。現在、EQ実践モデルを用いたEQ開発法やキャリア開発に役立てるEQ活用法など、年間100本超の講演・研修を実施。6年連続登壇の公務員管理者研修ほか各社で、「研修後の受講者の人事考課を最も引き上げた講師」と高い評価を得ている。