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マネ『鉄道』【和田彩花の「乙女の絵画案内」】

和田彩花(アイドルグループ「スマイレージ」リーダー)

2013年10月11日 公開 2015年04月24日 更新

 

エドゥアール・マネ(1832-1883)

マネ,鉄道

1882年にフランスのパリで生まれる。裕福な家庭で育ち、当時のサロンで活躍していた画家トマ・クチュールに師事する。1863年のサロンに出品された『草上の昼食』(オルセー美術館蔵)、1865年のサロンに出品された『オランピア』(オルセー美術館蔵)は物議をかもし、スキャンダラスな画家として話題に。これによってモネやドガ、ルノワール、シスレー、ピサロ、セザンヌなどの前衛的な若い画家たちのリーダー的存在となり、後の印象派の先駆者と見なされるようになる。しかし、マネ自身は印象派展に参加することなく、あくまでもサロンへの出品を続け、保守的なアカデミズムと戦った。カフェ、酒場など日常の光景や、肖像、風景など、さまざまな画題をのびのびとした筆致と自由で個性的な色彩で描く。また、日本の浮世絵や版画にも関心を示し、影響を受けたとされる。

 

はじめての出会い

 私が絵画に興味をもつきっかけになった人、それがマネです!

 ご存じの人も多いと思いますが、マネは「印象派の父」とも呼ばれ、絵画に新しい時代をもたらしたともいえる画家。それどころか、私の人生まで変えてくれたのです。

 子どものころ、本格的に習っていたとかではないのですが、絵を描くことがとても好きでした。本を読んで、その印象を絵にするといった小学校の課題も大好きで、積極的に取り組むような子どもだったんですね。

 そんな私がマネの絵を最初に意識したのは、駅のポスター。レッスンの帰りなどに母親とよく駅で見かけては、

 「なんかこのポスター、いろいろなところにたくさん貼ってあるよね」

 とか話していたのです。

 あるとき、時間を間違えて早く東京駅に着いてしまったことがあって、ちょうど目の前にはいつものポスターが。

 「じゃあ、観にいこうか!」

 2010年春、東京駅近くに開館したばかりの三菱一号館美術館でのマネとの出会いは、そんなこんなで、ほんとうにたまたまでした。

 そして、実物の絵に心うたれたのです!

 

マネの「黒」に魅せられる

ベルト・モリゾ,マネ 絵画との本格的な出会いがマネでよかったと、いまでは強く思っています。私がそれまでイメージしていた絵画とまったく違う世界が、そこには広がっていたのですから。

 いちばん印象的だったのが『すみれの花束をつけたベルト・モリゾ』(オルセー美術館蔵)でした。

 それまで私の西洋絵画のイメージといえば明るい風景画(いまにして思えば印象派のイメージですね)。ところが『すみれの花束をつけたベルト・モリゾ』をはじめ、展示されていたマネの絵は黒ばかり。真っ黒な世界がキャンバスいっぱいに広がっている。

 自分で描いたら……きっと黒は、たんなる塗りつぶしになってしまうと思います。でもマネの黒は、観ている人にはっきり見えてくる。真っ黒なのにそこに絵が表現されていて、いろいろなものが見えてくるんです。

 それを眺めているのがすごく楽しくて、安易な言葉しか思い浮かばないのですが、とにかく感動! こんな黒い絵もあるんだ、って。それからというもの、絵画鑑賞は私にとって、より楽しい発見のチャンスになったのです。

 

鉄道とカワイイの共演

 『鉄道』(ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵)の実物をはじめて目にしたのは、2011年秋、国立新美術館に、この絵が来日したときです。もうこの時期には、すっかり絵画鑑賞に夢中になっていました。

 女の子がカワイイ!――これが第一印象。いかにも西洋的な服装は、いまでは日本でも当たり前になったロリータファッションのよう。もちろん当時にしてみれば、それがふつうだったのだと思いますが、私たちからすればふつうでない。いい意味での違和感がとても気になったのだと思います。

 ところで、日本のアイドルに、世界のたくさんの人たちが注目してくださっているのも、日本人には当たり前の存在であるアイドルが、海外の人たちには当たり前ではないからだと思います。日本のように、たくさんの若い女の子たちがステージでライブを重ねている光景って、あまりほかの国ではイメージしづらいですし、実際ないんでしょうね。

 自分の国にはないものに興味をもったり、あこがれたりする。それは人間の自然な心理だと思います。

 うまく説明できているか不安ですが、同じ理由で、私は『鉄道』に描かれている女の子を観て、素直に「カワイイ!」と感じたのだと思います。

 お母さんなのかなあ。女の子の横に座って本を読んでいますよね。そしてその腕には仔犬の姿。安心しきった顔で眠っているこの仔犬もまた、たまらなくカワイイと感じませんか?

 『鉄道』には、カワイイが満ちあふれているのです。

 この絵に登場する駅は、パリのサン・ラザール駅なんだそうです。残念ながら私はまだ行ったことがありませんが、印象派の絵には何度も登場してきて、私もモネの絵でたくさん観ています。

 サン・ラザール駅が開業したのが1837年。パリの最初の駅です。最初はきっとみんなビックリしたんでしょうね。突然つくられた巨大な建物と不思議な乗り物。周辺はにぎやかだったと思います。

 でも、この絵ではタイトルに『鉄道』と書かれていないと、そこが駅だとはちょっとわかりませんよね。言われてみれば、背景に蒸気が描かれているから、そこが駅だとなんとなく推測できる、その程度です。

 駅舎も鉄道も描かれていない「鉄道駅」に描かれたカワイイ。

 駅という近代化の象徴と、女の子が大好きなカワイイの共演。

 マネはそんな対比をしてみたかったのでしょうか?

 日本のカワイイ服を着て、マネにぜひ聞いてみたいです!

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パリの日常に想いを馳せて

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