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前田検事と小沢一郎

上杉隆(ジャーナリスト)

2010年11月08日 公開 2022年12月26日 更新

上杉隆

雰囲気だけで批判する論説委員

 民主党代表選の報道ぶりは異常というほかなかった。

 記者クラブメディアは見事に“反小沢”で統一され、仮に、小沢周辺の情報をそのまま報じれば、あたかも非国民扱いされるような勢いだった。

 代表選中も案の定、「政治とカネ」の問題が小沢批判のための便利な道具だった。テレビのニュースや情報番組では、連日、解説委員やコメンテーターたちが、小沢一郎の「政治とカネ」という問題を持ち出して、攻撃を仕掛けた。

 キャスターたちは、スタジオでいうべきことがなくなると、いつもこの便利な文言に寄りかかる。あるいは自身の取材不足を隠すためなのだろうか、世論調査などで繰り返し、「政治とカネ」の問題の是非を問い続けている。

 それにしても、この「政治とカネ」の問題とはいったい何なのか。

 筆者の知るかぎり、テレビのなかで、そのことについて具体的に解説を加えた者をみたことがない。政治の専門家であるはずの論説委員ですら、政治資金収支報告書の中身も確認せず、たんに雰囲気だけでそういっているという状態が続いている。先日、民主党代表選の取材現場で知己のコメンテーターからいきなりこういわれた。

「上杉君、君は小沢擁護でずっと書いてきているけど、小沢は本当にカネに汚いんだよ」

 小沢擁護云々への反論はさておいて、筆者は小沢がカネにクリーンなどと一言もいっていない。たんに透明化しているといっているだけだ。

 そこで、具体的にどの事案でそういっているのか逆に聞いてみた。すると彼はこういうのである。

「いや、いろいろともらっているに違いないんだよ」

 万事がこうである。こと問題が小沢一郎に絡むと、元政治部記者は冷静さを失い、推定無罪の原則すら忘れてしまうかのようだ。これでは、仮に被疑事案が無罪になった場合、小沢本人からBPO(放送倫理・番組向上機構)の放送人権委員会にでも審理を求められたら、ひとたまりもないであろう。

 昨年3月以来の西松建設事件で、小沢に容疑の掛かっていたことは確かだ。だが結局、元秘書らの政治資金収支報告書への虚偽記載が認められただけで、小沢本人に対しては複数にわたる事情聴取など約1年半に及ぶ捜査の結果、不起訴が確定している。つまり、その件では、検察自身が無実と認めたわけである。

 同時に、現在、盛んにテレビで扱われている検察審査会の議決についても、番組出演者のなかで、正確にその内容を理解している者は皆無であるようだ。

捜査のやり直しが必要

 被疑内容は、小沢一郎の世田谷の不動産取引に絡む政治資金規正法違反であるが、内容を知れば知るほど、それを「政治とカネ」の問題だ、と声高に叫ぶほどのものでもないことがわかる。

 たしかにそれは西松建設事件と関連しているかもしれないが、所詮、土地の取得時期と代金納付の時期がズレているという、納期についての記載のズレの問題なのである。しかも、その時期は年をまたいでの2カ月だけである。小沢のみならず、多くの政治家の政治資金収支報告書の中で頻繁にみられるミスである。

 テレビキャスターたちと違って、国会議員秘書などが揃って「そりゃ、無理筋だよ」と語るのはこのためなのである。

 いくつもの冤罪をつくり出してきた検察と記者クラブメディア。仮に、2回目の検察審査会が、巷間語られているのとは逆に、小沢一郎を「不起訴」にした場合、いったいどうするつもりなのだろうか。

 検察審査会は、11人の委員のうち8人が同意しないと起訴にならない。案外ハードルは高いのである。

 さらに、その端緒となった西松建設事件を取り調べた前田恒彦検事が逮捕された。前田検事は、郵便不正割引事件において証拠物件のフロッピーディスクを改ざんした、とんでもない犯罪者である。

 その前田検事が、大久保秘書の担当取り調べ検事であり、さらに陸山会事件でも、赤坂にある小沢一郎個人事務所のガサ入れ時の指揮をし、押収物品に触れている。そうなると、一連の小沢捜査においても疑義が生じるのは当然のことだ。

 捜査の正当性の前提が崩れた以上、証拠採用は無効となり、公判も維持することはできないだろう。いやそれよりも、最低限、捜査の洗い直しか、やり直しが必要だ。それができなければ即、無罪にするしかないのである。

 そう考えるとメディアも同罪である。1年半にわたって小沢一郎を犯人扱いして煽った責任は重い。放送法第4条に拠る訂正放送と謝罪放送は当然、場合によっては放送免許自体の付与も考えなくてはならない。それほど重い事件なのである。〈文中・敬称略〉

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