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「組織の盛衰」を決める企業遺伝子の継承

野口吉昭(HRインスティテュート会長)

2013年12月18日 公開 2022年12月28日 更新

野口吉昭

あまりよく知られていないが、レクサスには、「オーナーズデスク」という仕組みがある。

ほとんどプロモーションに使われないが、実に優れたサービスだ。ユーザーは、レクサスの車体に積まれたDCM(データ・コミュニケーション・モジュール)で専用のコンシェルジェに365日24時間電話ができる。フリーハンドなので運転中でも可能だ。

カーナビの設定をコミュニケーターにお願いして自分の車に飛ばしてもらう。面倒くさい設定が不要なのだ。観光案内やホテルの予約などもやってもらえる。

もちろん事故などの緊急連絡、盗難対応なども、すべてこのDCMをコアにしてサービス・プラットフォーム化されている。鍵のかけ忘れもユーザーの携帯に連絡してくれる。

このようなサービスは、GMのキャデラックのオンスターが先行していたが、現時点ではレクサスのプラットフォームのほうが優れたサービスになっている。

オーナーズデスク・サービスは、事業推進の革新であり、その実現に向けてのITプラットフォーム化、コミュニケーターの育成などは組織システムの革新となる。

ホンダは、かつてF1史上初の開幕11連勝したあと、F1から撤退した。業績がかんばしくないこともあったからだ。その後、オデッセイ、ステップワゴン、フィットなどで息を完全に吹き返した。

7~8人乗りだが創業者の夢でもあった小型ジェット機の量産に成功し、N-ONE、N BOXの軽自動車でさらに勢いを増した。ホンダジェットのデザインは、エアクラフトデザインアワード2012を受賞している。そして、ついにFlにも復帰した。

ホンダの事業推進の革新には、「独自性」「世界初」「世界ナンバー1」「自主自立」「夢」「人間尊重」といった企業遺伝子が底流に流れている。

花王は、化粧品メーカーのカネボウを買収した。「自社のソフィーナなどの化粧品事業の強化と、会計上から考慮して花王自身が買収されにくくするためにカネボウを買収したのだ」と業界ではいわれた。

花王の化粧品事業は今ひとつだったが、そもそも日本で最も優れたマーケティング基盤を有した企業であり、顧客情報の収集や新エコーシステムという、いわゆるVOC(ボイス・オブ・カスタマー)の整備・活用は世界レベルだ。

「マーケティング」「真の顧客主義」「技術とウォンツのクロス」といった企業遺伝子が花王の事業推進の革新を支えている。

花王がそうであるように、マーケティングが強い企業は、事業推進の革新の恒常的実現ができているし、そのための基盤づくりとしての組織システムの革新の実現もうまい。

2つの軸をより融合させるための「人づくり」にも相当なエネルギーをかけている。特に、技術者を含めた多くの社員へのマーケティング研修は重点研修になっている。

マーケティング基盤企業(=マーケティングを特に重視した企業経営を実践している企業)は、P&G、リクルート、ネスレ、ジョンソン・エンド・ジョンソン、アマゾン、楽天などを見てもわかるが、事業推進の革新、組織システムの革新、そして人づくりの融合がしっかりとできている。

企業遺伝子の継承は、マーケティング基盤企業では比較的、実現されやすいといえる。それは、「顧客価値の創造」という経営の本質へのぶれない軸が、全社的に徹底されているからだ。

 

ソニー、パナソニックは「何屋」になるのか?

かつてソニーの外国人トップが声高に叫んでいた営業利益8%、ワンソニーといったレベルのビジョンでは、事業推進の革新とはいえない。パナソニックの現在の津賀一宏社長の問題意識のように、「自分たちは何屋になるのか?」がビジョンとして提示されないと企業遺伝子の継承にはならない。

パナソニックにおけるB2Bへのシフト、車載事業の倍増、ハウジング事業の強化...というのは、事業推進の革新のひとつだろう。ただ、それは、緊急時の際の企業遺伝子である。やはりもっと長期的な事業推進の革新になる企業遺伝子を発するべきだ。

「人づくり→組織づくり→市場づくり」が、もともとの松下電器産業・松下電工。三洋電

機の事業推進の革新・組織システムの革新だった。「松下電器は人をつくるところでございます、あわせて商品もつくっております、電気器具もつくっております」こそが、産業報国、水道哲学を具現化させるパナソニックの企業遺伝子の本質である。

ASEAN、中国、インドなどの新興国市場は、まさに、産業報国、水道哲学のシンポリック市場である。いかに、これらの市場に、パナソニックを市場ナンバー1のブランドとして定着させるか? それは、人が動き、組織が動くことでしか実現しない。

実際、ここ数年で、パナソニックの30代の社員の意識が大きく変わりつつある。ASEAN、中国、インドに自ら手をあげて、成功するまで帰ってこないという社員が増えてきている。会社の危機だけでなく、自部門の危機、自分の危機として考えているからだ。

事業推進の革新・組織システムの革新こそが、その企業の企業遺伝子の本質であり、会社の寿命を規定する要素そのものである。

小集団活動、改善活動、さんづけ運動、新商品企画提案制度、海外社員旅行、経営塾、リーダー塾、らしさフォーラム、社内コンパ、などの企業遺伝子を継承させる組織システムとしての仕組みの多くは、事業推進の革新を補助、支援するものである。

そもそも企業遺伝子は、恒常的なイノベーションのベクトルがあってこその企業遺伝子である。仕組みとしての改善活動だけが盛んで事業が衰退しているようでは話にならない。原価低減、歩留まり向上、提案件数向上だけでは、事業推進の革新にはならない。

かといって、ビジョンとしての新たな事業構造の構築と事業ロードマップへの挑戦という仕掛けだけでも、トップと経営企画担当役員、R&D担当役員、営業担当役員、生産担当役員など一部の経営者だけでのお経になってしまう。

現場に降ろす、現場から上がる仕組みがなければならない。すなわち、組織システムの革新だ。

企業遺伝子の継承は、事業推進の革新が大前提であり、そのための組織システムの革新、そして、これらを実践化させる人づくりの融合なくしてはありえないのだ。三位一体あっての企業遺伝子の継承なのだ。

 

著者紹介

野口吉昭(のぐち・よしあき)

株式会社HRインスティテュート代表取締役会長

横浜国立大学工学部大学院工学研究科修了。現在、株式会社HRインスティテュート(HRInstitute)の代表取締役会長。中京大学経済学部・総合政策学部講師。FMヨコハマで「YokohamaSocialCafe」のDJも務める。
主な著書・監修書に、『遺伝子経営』(日本経済新聞社)、『チームリーダーに必要なたった1つの力』(かんき出版)、『「ありがとう」が人と会社を幸せにする』(マガジンハウス)、『コンサルタントの「質問力」』『30ポイントで身につく!「ロジカルシンキング」の技術』(以上、PHP研究所)など多数。

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