株式会社電通デジタルが発表した「日本における企業のデジタルトランスフォーメーション調査(2021年度)」によると、DXに取り組んでいる企業が初めて全体の8割を超え81%に達しました。しかし、タナベ経営の発表によると「DXを実行していてうまくいっている」と回答した企業は、わずか13.5%です。
なぜ、企業がこぞってDXに取り組んでいるのに、その多くがうまく行っていないのでしょうか。『難しい話はもういいんでDXがうまくいく方法だけ教えてください』の著者、日淺光博氏が解説します。
※本稿は、日淺光博著『難しい話はもういいんでDXがうまくいく方法だけ教えてください』(サンマーク出版)の内容を再構成したものです。
なぜDXが進まないのか...
DXがうまくいかない理由としてよく挙がるのが「DXを担当できる人材がいない」「IT技術力がない」「経営者のリテラシーが低い」などの声です。たしかに、どれもDX推進を阻害する要因ではありますが、これらを一つずつ解消すればDXがうまく行くかというと、それは難しいでしょう。
なぜなら、DXプロジェクトには「これを乗り越えないと、ほぼうまくいかない」という、経営者と社員のあいだにそびえる意識の壁があるからです。
これまで40社以上のDXプロジェクトに関わってきて、確実に成功を阻害していた要因が経営者と社員の意識のギャップでした。これは、どちらが一方的にいいとか悪いとかいう話ではなく、経営者がブレーキになるケースもあれば社員がブレーキになるケースもあります。では経営者と社員の意識の違いが、なぜDX成功への道を阻むのかを、実際に私が経験した事例をもとにご説明していきましょう。
経営者のビジョンに社員がついてこない
まずは社員がブレーキになった事例をご紹介します。
ある業界紙を出版する中堅企業でコンサルティングをしていたときの話です。依頼してきたのは、会社を引き継いで間もない2代目経営者。彼が取り組もうとしていたのは、自社が持っている業界紙の情報を、Web上で発信できる新しいメディアを作ることでした。
先代が業界内で不動の地位を築いてくれたことで、発行している業界紙を定期購入してくれる企業や教育機関は数万社もあり、しっかりとした経営基盤を築いています。しかし数年前から部数が伸びることはなくなり、横ばいが続くことに。ここに危機感を抱き、情報はスマホで見るのが当たり前に一変した状況に対応すべく、情報誌のコンテンツをWebでもうまく活用していきたいというのが2代目経営者の思いでした。
この2代目経営者が準備を重ね、満を持して「Webメディアを作ろう!」と発表したところ、社員たちからは「何を言っているんだろう?」という冷ややかな目が。これまで紙媒体で何十年も稼いできた社員は、頭では経営者の言うWeb戦略を理解できても、自分たちが取り組む姿まではイメージできなかったのです。
「業績が極端に落ち込んでいるわけでもないのに、なぜ、わざわざ無料のWebメディアで発信しなくてはならないのか」「それをすると紙の価値が落ち込むじゃないか」「社内の誰がそのWebメディア化とやらをやるんだ」と、さまざまな意見が噴出しました。
2代目経営者としては、今は横ばいでも数年後にはデジタル化の波に飲み込まれジリ貧になることが目に見えていたため、すぐに新たな取り組みを始めるべきという思いがあったのですが、その危機感を共有できていませんでした。