岡崎久彦 歪められた戦後の「歴史問題」 〔2〕
2014年02月17日 公開 2023年01月11日 更新
日本自身の反政府運動
この問題をどう解決したら良いのだろうか。
問題は歴史に前例がないということである。
かのヨーロッパで吹きまくったナポレオン戦争の嵐の後遺症も一世代で収まっている。日本の場合は、戦後一世代でいったん収まったものが、その10年後に掘り起こされ、戦後70年を経た現在に至っている。
しかも、発端はすべて日本自身の反政府運動から発しているというのも独特である。
人為的に日本から発した問題であるから、日本内の反体制運動が収まれば、それで済むのかといえば、それもわからない。中国、韓国では、発端は日本の反政府運動が火をつけたかどうかにかかわらず、すでに広範な国民世論となっている。
ただし、考え直してみると、この問題は、国際問題ではあるが、国際問題の基軸である、国家間のバランス・オブ・パワーの変遷に伴う問題でもない。
各国民の国民感情に伴う問題であり、それが及ぼす影響も国家の基本的利害に影響のない、首脳会談の開催のような形式的な問題の域を出ない。
国際関係には多々解決すべき問題が残っている。環境問題、人口問題、そして経済の拡大と生活水準の向上改善を維持する問題など、国際協力を要する問題は多い。何時までも20世紀前半の歴史の記憶にかかずらわっていられないはずである。
中でも、伝統的に最も重要なのは、国家間のバランス・オブ・パワーの変化に伴う、国際の平和の維持の問題である。いったんこの問題が表面に出れば、他の問題などは吹き飛んでしまう。
現在中国の勃興は、19世紀初頭のドイツの勃興に比すべき、バランス・オブ・パワーの変化ではないか、といわれている。
しかし、実質はまだそこまでいっていないと思う。中国の軍事力はまだとうていアメリカの優位を脅かす所までいっていない。アメリカはまだ、中国を甘やかすリベラルな態度をとる余裕をもっている。
おそらくは、国際的なバランス・オブ・パワーにラディカルな変化が生じるまでは、この歴史問題のような問題も生き続けるのではないかと思う。 (文中、敬称略)
<掲載誌紹介>
総力特集「靖国批判に反撃せよ」では、小川榮太郎氏が「靖国参拝は純粋に精神的価値であって、外交的な駆引きが本来存在しようのない事案」と喝破する。岡崎久彦氏は靖国参拝問題も従軍慰安婦問題も、実は日本(のメディア)から提起され、戦後の歴史問題が歪められたと説く。在米特派員の古森義久氏は「日本側としては米国や国際社会に対して靖国参拝の真実を粘り強く知らせていくべきだ」という。長期戦を覚悟のうえで、世界の理解を得るしかない。
特集「日本経済に春は来るか」では、(米国の)金融緩和の出口戦略の難しさをどう解釈するか、(日本の)4月からの消費税増税の影響と成長戦略について考えた。