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松下幸之助は「自衛隊」に何を求めていたのか

PHP研究所経営理念研究本部

2014年02月28日 公開 2022年12月08日 更新

松下幸之助

 松下幸之助が戦後に始めたPHP活動にこめた願い、それは「物心両面の調和ある豊かさによって平和と繁栄をもたらそう」というものでした。では松下は、その平和を享受するにあたって、国の安全を守る「自衛隊」に何を求めていたのでしょうか。

 1963年1月のこと、日本海沿岸を襲った豪雪により、北陸地方の交通機関が途絶、その際に自衛隊が災害派遣され、各地で長期間、献身的に救助活動を続けました。この労苦に対し、関西財界有志が自衛隊を慰問激励しようと発意します。さらには当時、大阪に自衛隊を支援する団体がなかったこともあり、自衛隊による国土防衛活動への協力、さらには防衛思想の普及をはかるための組織として大阪防衛協会を発足させ、その初代会長を松下がつとめたのです。

 以下は、協会創立20周年に寄せた松下の祝辞の一節です。

「大阪防衛協会が昭和39(1964)年2月設立総会を開催し、私が初代会長をお引き受けしてから今年ではや20周年を迎えることとなりましたが、この間における2代目会長阿部孝次郎氏、現会長新井正明氏はじめ会員の皆様方の熱意あるご活動により、協会の運営が活発に行なわれておりますことを心から喜んでいる次第であります。
 私が会長に就任の際、「国家防衛即ち自衛は天の命ずるところ」、その役割を果たす自衛隊の存在と活動により良い理解をもち、敬意と感謝とともに熱意を傾けてその使命に参与するのが、われわれ国民の当然の義務であり権利であると述べたことをおぼえております。あれから20年、厳しい国際情勢を反映して国民の防衛に対する関心は逐次高まりをみせ、各種意識調査の結果をみましても、国民の自衛隊に対する支持率は常に80%を超えるに至っておりますことは、これまたまことにご同慶に堪えないところであります。
 私は常々、日本に生まれ育ったことを誇りとし感謝していますが、また、この美しい国土と伝統に輝く日本民族を守り、21世紀に向かってわが子孫に立派な国として残さねばならない義務と責任があると考えています。そのために私達は自らの手で自らの国を守る強い意志と、自衛隊に対する物心両面にわたる支援が今後とも必要だと存じております」
(『まもり』第66号<1984>より抜粋)。

 「自衛は天の命ずるところ」というのがまさに、松下の自衛観を支える根幹であり、補足すれば、それは「雨ガエルが保護色をしているように、自然は一切の生物に自衛力を与えている。しからば人間はどうかというと、保護色などはないが、みずからを守る知恵才覚が与えられている。それを正しく生かしてみずからを守り、社会を守り国を守ってゆかなければならない。それをしないのは天の意志、自然の摂理に反する」というものでした。この発言に、3代目会長で、松下とも親交のあった故・新井正明氏(住友生命元社長)は「感銘を覚えた」といいます。たしかに終戦という悲しい歴史による国民の「心」の傷跡が癒えない時代に、経営者が「自衛」を語るのは余程覚悟のいることだったのでしょう。けれども松下は臆することなく、自衛隊を激励する講話、防衛思想を普及するための執筆活動をおこないました。1966年4月、海上自衛隊の幹部を自社工場の見学に迎え入れたときには、以下のように説いています。

「日本だけはですね、平和な夢を見ていると申しますか、平和ということと繁栄は理想として考えることはもちろん、いかなる国としても必要だろうし、またやらないかんけれども、理想だけではいけないと。理想を掲げると同時に、その理想を達成するような力を持たなければならない。そういうことが今後の自衛隊に課せられた大きな責任やないかと思うんです。(中略)
 今日、いかなる産業とを問わずですね、芸能人なら芸能に命を懸けている。われわれは、われわれのこの産業、この仕事に命を懸けている。そして初めてそれが成り立っていくんですね。命を懸けずして、遊び半分で、一人前の芸能人も仕上がるものやない、一人前の産業人も生まれるものやないと私は思うんです。そういうことを、私はいつも自問自答しているんです。皆さんもやっぱりそうやと。皆さんも国防に意義を感じ、よし国防に命を懸けようと。そして国民に安堵を与えると。それで国民にはそれぞれの立場でまた命を懸けて繁栄を創りだしてもらおうと。そういうふうな感じを持っておやりになっておられるのだろうと」

 産業人も芸能人も、そして自衛隊員も、ともに課せられた使命を果たすことに命を懸けて、日本の繁栄を創りだそう。平和の実現という理想を達成する力を持つことが、あなたたち(自衛隊)に課せられた使命なのだ。松下の真情、心根が伝わってくるようです。

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