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仕事

夢は持たないほうが良い? ビジネス本が役に立たない本当の理由

竹田恒泰(作家/慶應義塾大学講師)

2014年08月29日 公開 2022年10月27日 更新

 

重要なのは「​夢をコントロールする」こと

そうした意味では、世の中に「自分に向いている仕事」などありません。この仕事は自分に向いていないというのは、自分磨きをしない人の言い訳です。「向いていない」を仕事ができないことの言い訳にしているだけの話です。

仕事とは本質的に厳しいもので、その厳しさ、難しさの中にこそ、仕事の意義や、やりがいが潜んでいるのです。とくに20代は会社での仕事を「あれも、これも」とお試しする期間。

それは自分の適性や能力を発見・発掘する好機ですが、ある一定以上の時間と労力を投入してみなければ見極めがつきません。その時間と労力を費やさずに「これも違う、あれも違う」と言うのは、その仕事と本気で向き合っていない証拠で、仕事のプロセスを楽しむ以前の段階です。

そもそも皆さんの周囲の「自分に向く仕事がない」と言っている人が、天職に就いたという話を聞いたことがあるでしょうか。おそらくないでしょう。逆に「自分に向いている仕事などこの世にない」と思えば気が楽になる。そのうえで「どうやってこの仕事を楽しもうか」「どうしたらこの仕事にやりがいを見出せるだろうか」と模索すればよいのです。

結局のところ、道は2つに1つしかありません。いま自分が好きだと思っていることを仕事にするのか、もしくはいま自分がやっている仕事を好きになるかです。

数学者の秋山仁先生は、大学で数学科に進んだ理由を「いちばん不得意だったから」と語ったと言いました。「夢」至上主義なら、確実にいちばん得意な科目に進みます。秋山先生はそれとは正反対に、「研究者の少ないマイナーなテーマを研究課題に据えた」と言うのです。

でも冷静に考えれば、高校で数学を勉強したくらいで得意か不得意か、あるいは適性があるかないかが分かるはずがありません。秋山先生が言うには、研究者になって研究を突きつめてみて、はじめて数学が自分に向いているかが分かるそうです。実際、私も研究者の道を歩み、それを実感しています。

しかも「夢」を実現するためには、最初に明確な長期目標を立てなければなりませんが、それを完璧なかたちで実現することはあまりに非現実的です。そもそもいまの自分の夢と、10年後の自分の夢は同じでしょうか。もちろん、同じ夢を持ちつづける人もいるでしょうが、それは少数派です。

大半の人は、10年前の夢といまの夢が異なっていて、いまでは想像もつかないことを目指している可能性もありうるのです。夢や目標は変動するということを押さえておいてください。

また、10年もの月日が流れれば業種の浮き沈みもあるでしょうし、その職種や仕事自体が想定したかたちで存在しているとは限りません。10年前に漠然と考えていた現在の社会生活のあり方は、おそらくその想像とは全く違うはず。

あの頃、誰がスマートフォンのような超高性能コンピュータを片手にした生活を想像できたでしょうか。10年先には新しい未知の社会生活があり、仕事があり、職業が生まれているのです。

まずは「夢は変わる」ことを大前提にしておく。そして、社会の変化や自分の成長とともに自分の夢も一緒に成長していくと自覚することが肝要です。さらに新たな夢が見えてきたとき、いかに柔軟に対応できるか、その準備を怠らないことが本当に大事になります。だから勉強が必要なのです。

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