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竹田恒泰の「日本式成功哲学」―夢の持ち方



2014年08月29日 公開

竹田恒泰(作家)

《PHP新書『日本人が一生使える勉強法』より》

 

夢を持ってもよいが、安易に固定化するな

 夢を持つことはこれまで推奨されてきました。「西洋式成功哲学」では、夢を持つことは基本中の基本です。しかし私は「夢を持つことには大きなデメリットがある」と考えています。なぜなら夢を持ってそれを固定化させてしまうと、自分で自分の可能性を制限してしまうことになりかねないからです。目の前に大きなチャンスがあっても、夢を明確に設定していると、その夢に関係ないと思って無視してしまうかもしれません。

 私も自己啓発書の類はおおよそ読破してきた人間ですから、夢を持つのは当たり前と思っていました。夢を可能なかぎり明確にして期限を設け、それを実現するための具体的な計画を立てて実行することを実践してきました。しかし、なかなか結果が出ない。人は楽な方向に流れますし、物事は思ったとおりに運びません。いくらポジティブ思考をしようが、周りの環境もさして変化しませんでした。私も、自己啓発書を読みふけってもなかなか成果が出ない1人だったのです。

 ここで、他の自己啓発書には決して書かれていない大胆な提言をします。「夢を持ってもよいが、安易に固定化するな」です。

 夢を描くには、それなりの能力が必要であるということを忘れてはいけません。幼少の頃から本当にやりたいことが定まる人は稀です。幼少期の夢を持ちつづけて大成する人は10万人に1人いるかいないか。そうした人には迷いがありませんから、自己啓発書などを読むことはないでしょうし、本書を手にすることもないでしょう。ですから、放っておいて問題ありません。問題なのは、迷える普通の人です。

 多くの人は工夫と挫折を繰り返しながら、徐々に本当に自分が進む道を定めていくものです。能力や見識もない者が、勢いや思いつきだけで、明確な夢を設定して突き進むとしたら、それはただの博打です。夢の実現が自分を幸せにする保証はどこにもありません。夢を叶えても幸せになれない人は山ほどいるのです。

 たとえば、勉強は広く浅く学びはじめますが、大学に入るときには専門分野を定め、3年生になると、今度はゼミを選ばなくてはいけません。卒業後、さらに大学院に進むなら、自分の研究テーマは明確にしておく必要があります。そして、博士論文には高度な専門性と、独創性が求められます。世界中のどの研究者も踏み込んでいない領域で、新たな成果を積み上げなければなりません。研究テーマを定めるためには相当の勉強が必要なのです。

 もう1つ例示しましょう。就職です。卒業が近づくと就職について真剣に考えるようになります。いろいろな業種の会社について調べるうちに、興味がなかった業種に興味を持ったりするものです。そして就職すると、それで満足する人もいますが、期待が外れて「こんなはずじゃなかった」と後悔する人もいます。そして転職をしてようやく納得のいく仕事に就いたという話も聞きます。

 ケンタッキー・フライドチキンの創業者であるカーネル・サンダースは、大器晩成型で知られています。彼は年齢を詐称して軍に入るも、一兵卒のまま挫折。その後、さまざまな職業を渡り歩き、機関車修理工、ボイラー係、フェリーボートのスタッフ、タイヤのセールスをはじめ、40種もの職を転々として、30代後半になってケンタッキー州でガソリンスタンドを経営するようになります。

 ところがそのガソリンスタンドは火災に見舞われたうえ、大恐慌の煽りを受けてあえなく倒産。その後、ガソリンスタンドの一角で販売していた評判のオリジナル・フライドチキンのカフェを再建したのが51歳のとき、やがてそれが大ブレークして、世界のケンタッキー・フライドチキンとなるのです。

 世界のカーネル・サンダースが、まさか30代後半まで、鳴かず飛ばずとは信じがたいことです。しかも倒産を経て51歳での再スタート。しかし、そうした経験を経なければKFCは成立していませんでした。軍人のままいたら、才能を開花させずに終わっていたかもしれませんし、ガソリンスタンドが堅調だったらカフェに本腰を入れていなかったかもしれません。すべては世界のKFCを築くのに必要な試練だったのです。そして、こうした大器晩成型の偉人は山ほどいます。

 

「自分の使命​」とは自分で決めただけ

 「大器晩成」を辞書で引くと、次のように書かれています。「大きな器は完成するまでに時間がかかることから、真に偉大な人物も大成するのが遅いということ。大人物は遅れて頭角を現すということ」(三省堂『新明解 四字熟語辞典』)。

 よく「自分はこれをするために生を享けた」「これをするのが自分の使命だ」などと簡単に使命感を口にする人がいますが、安易にこれを定めてしまうと、自分の人生の可能性を限定してしまうことになりかねません。

 では、自分の使命は誰が決めたのでしょう。それは自分が決めた以外の何ものでもないのです。まさか、生まれてきた赤ちゃんに「あなたの使命は……です」などと札がついていることはありません。経験も、知識も、努力も不完全な自分が、いろいろ考えて迷いたくないから決まったと思い込んでいる、あるいは思い込もうとしているだけです。そこでは「何も決まっていない」と考えたほうが、可能性は広がります。

 人間にはあらゆる可能性があります。まして子どもには無限の可能性があるのです。幼少期に自分の生きる道を定めて突っ走るのも1つの生き方ですが、万人がそれで本当の幸福を手にするわけではありません。「とにかく夢を明確にして突っ走れ」というのはよく成功原則として語られますが、そうやって成功した人がいるというだけの話。闇雲に設定した夢は自分の可能性を制限するだけ。夢を描くには、それなりの能力が必要なのです。

 ただし、迷走するにしても、全力で迷走しなくてはいけません。何事にも真剣に打ち込むことは、人生を充実させるうえで不可欠です。仕事は自分のためではなく、世のため人のためにやるということを忘れてはいけません。あらゆる仕事は社会貢献なのです。ですから目の前の仕事に打ち込み、早く成果を出すことは必要です。そのためのマネジメントには、「西洋式成功哲学」も役に立つと思います。

 人の想像力には限界があります。人は想像の範囲内でしか夢を描くことができません。1つ先のビジョンは見えても、それを達成してみないとその先は見通せないものです。富士山の山頂の景色は、山頂まで登った人しか見ることができないように、どんな仕事も突き詰めて何かに到達したときにしか見えないものや感じられないものがあるはずです。

 夢を持つこと自体を否定するつもりはありません。子どもの頃から、大いに夢を持つべきでしょう。ただし、それを絶対的なものとして固定してはいけないと述べているのです。徐々に迷いがなくなって夢が定まってきたら、その夢を明確化して期限を設けていけばよいのです。あらゆる可能性に目を光らせながら、少しずつ自分の歩む道を定めていくのが、私の示す成功原則です。

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著者紹介

竹田恒泰(たけだ・つねやす)

作家

昭和50年(1975年)旧皇族・竹田家に生まれる。明治天皇の玄孫に当たる。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。専門は憲法学・史学。作家。平成18年(2006年)に著書『語られなかった皇族たちの真実』(小学館)で第15回山本七平賞を受賞。最新刊『日本人が一生使える勉強法』を始め、著書多数。

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